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欧州遠征
第79話 遣欧打撃部隊
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遣欧打撃部隊の担当それに目標は、甲三と呼称される艦隊の撃滅だった。
その甲三は四隻の戦艦を主力としているが、その艦型については「リヴェンジ」級戦艦ではないかと目されている。
遣欧艦隊はこれまでの攻撃で「キングジョージV」級戦艦とそれに「ネルソン」級戦艦については、そのすべてを撃沈していた。
さらに、これらに加え、巡洋戦艦「レナウン」もまたこれを葬っている。
そして、そのいずれもが九七艦攻の航空雷撃によるものだった。
このことで、英海軍に残っている主力艦は四隻の「リヴェンジ」級戦艦とそれに三隻の「クイーン・エリザベス」級戦艦の合わせて七隻となっている。
これら戦艦をはじめとした軍艦は速力や航続力、それに補給や整備等の問題から同じ型式の艦で戦隊を組むのが一般的だった。
そして、その常識が働いているのであれば、甲三のそれは「リヴェンジ」級戦艦となる。
「さすがはジョン・ブルと言ったところか」
双眼鏡越しにその姿を見やりつつ、遣欧打撃部隊を指揮する角田覚治中将が感嘆混じりの声を上げる。
もはや、逆転はほぼ不可能というところまで追いつめられてなお、自分たちに立ち向かってくる英艦隊。
まさにジョン・ブル、不屈の精神を持つ英国人を体現したような振る舞いだ。
「だが、これも戦争だ。容赦はせん」
旗艦「長門」の艦橋で角田長官は、今度は獰猛な笑みを見せる。
その角田長官が率いる遣欧打撃部隊は、六隻の戦艦と四隻の重巡、それに二隻の軽巡と一六隻の駆逐艦から成る。
これだけの規模の艦隊だと、本来であれば大将昇任を目前とした古参の中将がそのポストに着いていたはずだ。
二カ月前にようやっと中将になったばかりの角田長官がこれを務めるのは異例中の異例と言ってもいい。
それでもこの人事となったのは、角田長官が帝国海軍きっての猛将であることが大きかった。
不屈の精神、あるいは見敵必戦を旨とする英国人に対し、気迫負けせずに真っ向からぶつかることが出来る将官はさほど多くはない。
一方、角田長官と同時期に中将昇任を果たした山口多聞中将を推す声もあった。
しかし、こちらは機動部隊同士の実戦経験を持つ貴重極まりない人材だったことで、欧州に派遣するのは躊躇われた。
また、角田長官が生沢長官の海兵二期後輩であることも理由の一つだった。
これまで生沢長官は当時第一艦隊を指揮していた高須中将とコンビを組んで戦うことが多かった。
高須中将は生沢長官の海兵二期先輩であり、また先任順も上だった。
それでも、高須中将は航空戦に関しては常に生沢長官にフリーハンドを与え、細かい指示や命令を出すようなことはしなかった。
ただ、生沢長官の先輩のその誰もが高須中将のような人物とは限らない。
中には部下に対してこと細かく指示を与えなければ気が済まない人物もいるし、しかもそういった者は決して珍しくはない。
もちろん、生沢長官のことだから、不合理な指示や命令についてはこれを断固拒否するだろう。
だが、命令は絶対だという軍隊においては、そういった行為は決して好ましいことではない。
しかし、遣欧打撃部隊の指揮官が角田長官であれば、当然全体指揮は生沢長官がこれを執ることになるから、そういった問題は気にせずに済む。
逆に、ドイツやイタリアと共同戦線を張るからには、大将を送るべきだという声もあった。
国家をまたがる作戦ともなれば、中将ではいささかばかり貫目不足のきらいがあったからだ。
ただ、これについては生沢長官という存在によって、それほど大きな問題ではないとされた。
マーシャル沖海戦や珊瑚海海戦における生沢長官の立ち回りとその勝利は、同じく同盟国の勝利としてドイツやイタリアでもたいそう喧伝されていたからだ。
つまり、いくら向こうの階級が上であろうとも、実績十分の生沢長官であれば、こと海戦に関しては下手な横槍は入らないだろうという判断だった。
無名の大将よりも、常勝無敗の中将のほうが相手も話を聞くという理屈だ。
それに、そもそもとして生沢長官という人間をドイツやイタリアの海軍軍人が制御できるはずもなかった。
彼の上官であるはずの連合艦隊司令長官でさえ、生沢長官に「はい」と言わせるのは至難なのだ。
それが生沢和也という軍人であり、それこそが帝国海軍上層部が彼に向ける信頼の根拠でもあった。
角田長官は脱線した思考を本筋に戻す。
敵の戦艦を前にして、人事のあれこれを考えていても何も良いことは無い。
すでに、六隻の戦艦からは観測機を打ち出していた。
制空権を獲得していることもあって、それら機体は最良の観測ポイントで旋回を続けている。
「敵艦隊変針。右舷をこちらに向ける動きです」
見張りからの報告に、角田長官もまた面舵を命じる。
相手が意図するT字戦法に、わざわざ乗ってやる義理は無い。
その間にさらに続報が入る。
「敵の並びは中央に戦艦四、左右にそれぞれ駆逐艦四に巡洋艦が二。ただし左の巡洋艦と駆逐艦は右に変針。右翼のそれと合流を図るものとみられる」
戦艦は六対四。
巡洋艦も同じく六対四。
駆逐艦は一六対八。
そのうえ制空権を有していることで観測機が使い放題となっている。
「これで負けたら、司令部全員切腹ものだな」
そう言って角田長官が幕僚らに笑みを向ける。
三隻の戦艦を擁する甲一には、間もなくイタリア艦隊が取り付くはずだ。
仮にそのイタリア艦隊が順当に負けたとしても、相応の時間は粘ってくれるだろうから、その前に遣欧打撃部隊が甲三を撃破すれば問題は無いはずだった。
甲三、それに遣欧打撃部隊の距離が縮まるにつれて、「長門」艦橋内の緊張の度も高まっていく。
すでに、各艦の目標については指示を出してあった。
第一戦隊の「長門」と「陸奥」が敵の一番艦と二番艦、第二戦隊の「伊勢」と「日向」、それに「山城」と「扶桑」はそれぞれ二隻がかりで敵の三番艦と四番艦を相手取る。
英戦艦の主砲は三八センチのそれだから、四一センチ砲を搭載する「長門」と「陸奥」であれば一対一でも後れをとることは無い。
しかし、三六センチ砲装備の「伊勢」と「日向」、それに「山城」と「扶桑」にとっては格上となるから、こちらはその数をもって対抗する。
また、第七戦隊の四隻の「最上」型重巡は敵巡洋艦の撃攘を、一方の水雷戦隊は友軍の戦艦に敵の駆逐艦を近づけさせないことを第一の任務としている。
敵の巡洋艦はその艦型が小さいことから旧式軽巡もしくは防空巡洋艦と目されている。
二〇センチ砲をそれぞれ一〇門装備する「最上」型重巡であれば、魚雷に足下をすくわれない限りは決して不覚を取るような相手ではない。
英駆逐艦の型式は不明だが、しかし二倍の数の「陽炎」型駆逐艦であればまず負けることは考えられないし、さらにそのうえ二隻の「川内」型軽巡の支援もある。
こちらもまた、心配は無用なはずだった。
「砲戦距離はこれを二五〇〇〇メートルとする」
帝国海軍の戦艦の射程は、最も短いものでさえ三〇〇〇〇メートルを大きく超える。
しかし、それは砲弾を届かせることが出来るというだけの話であり、命中させ得るかどうかは別の話だ。
そして、今は天気も穏やかで視程もかなり良い。
そうであれば、観測機を用いることで二五〇〇〇メートルの遠距離であったとしても十分に命中が期待できる。
「間もなくだな」
敵の艦影から、彼我の間合いが砲戦距離のそれに近づいていることを見て取った角田長官がつぶやく。
これから命のやり取りが始まるのにもかかわらず、しかしその声音には喜色が混じっている。
その様子を見た幕僚たちは、帝国海軍きっての猛将の本領がこの後すぐに発揮されるであろうことを確信する。
かつての同盟国であり、そして師弟の間柄でもあった英海軍と日本海軍のぶつかり合い。
その艦隊決戦の火蓋が、今まさに切られようとしていた。
その甲三は四隻の戦艦を主力としているが、その艦型については「リヴェンジ」級戦艦ではないかと目されている。
遣欧艦隊はこれまでの攻撃で「キングジョージV」級戦艦とそれに「ネルソン」級戦艦については、そのすべてを撃沈していた。
さらに、これらに加え、巡洋戦艦「レナウン」もまたこれを葬っている。
そして、そのいずれもが九七艦攻の航空雷撃によるものだった。
このことで、英海軍に残っている主力艦は四隻の「リヴェンジ」級戦艦とそれに三隻の「クイーン・エリザベス」級戦艦の合わせて七隻となっている。
これら戦艦をはじめとした軍艦は速力や航続力、それに補給や整備等の問題から同じ型式の艦で戦隊を組むのが一般的だった。
そして、その常識が働いているのであれば、甲三のそれは「リヴェンジ」級戦艦となる。
「さすがはジョン・ブルと言ったところか」
双眼鏡越しにその姿を見やりつつ、遣欧打撃部隊を指揮する角田覚治中将が感嘆混じりの声を上げる。
もはや、逆転はほぼ不可能というところまで追いつめられてなお、自分たちに立ち向かってくる英艦隊。
まさにジョン・ブル、不屈の精神を持つ英国人を体現したような振る舞いだ。
「だが、これも戦争だ。容赦はせん」
旗艦「長門」の艦橋で角田長官は、今度は獰猛な笑みを見せる。
その角田長官が率いる遣欧打撃部隊は、六隻の戦艦と四隻の重巡、それに二隻の軽巡と一六隻の駆逐艦から成る。
これだけの規模の艦隊だと、本来であれば大将昇任を目前とした古参の中将がそのポストに着いていたはずだ。
二カ月前にようやっと中将になったばかりの角田長官がこれを務めるのは異例中の異例と言ってもいい。
それでもこの人事となったのは、角田長官が帝国海軍きっての猛将であることが大きかった。
不屈の精神、あるいは見敵必戦を旨とする英国人に対し、気迫負けせずに真っ向からぶつかることが出来る将官はさほど多くはない。
一方、角田長官と同時期に中将昇任を果たした山口多聞中将を推す声もあった。
しかし、こちらは機動部隊同士の実戦経験を持つ貴重極まりない人材だったことで、欧州に派遣するのは躊躇われた。
また、角田長官が生沢長官の海兵二期後輩であることも理由の一つだった。
これまで生沢長官は当時第一艦隊を指揮していた高須中将とコンビを組んで戦うことが多かった。
高須中将は生沢長官の海兵二期先輩であり、また先任順も上だった。
それでも、高須中将は航空戦に関しては常に生沢長官にフリーハンドを与え、細かい指示や命令を出すようなことはしなかった。
ただ、生沢長官の先輩のその誰もが高須中将のような人物とは限らない。
中には部下に対してこと細かく指示を与えなければ気が済まない人物もいるし、しかもそういった者は決して珍しくはない。
もちろん、生沢長官のことだから、不合理な指示や命令についてはこれを断固拒否するだろう。
だが、命令は絶対だという軍隊においては、そういった行為は決して好ましいことではない。
しかし、遣欧打撃部隊の指揮官が角田長官であれば、当然全体指揮は生沢長官がこれを執ることになるから、そういった問題は気にせずに済む。
逆に、ドイツやイタリアと共同戦線を張るからには、大将を送るべきだという声もあった。
国家をまたがる作戦ともなれば、中将ではいささかばかり貫目不足のきらいがあったからだ。
ただ、これについては生沢長官という存在によって、それほど大きな問題ではないとされた。
マーシャル沖海戦や珊瑚海海戦における生沢長官の立ち回りとその勝利は、同じく同盟国の勝利としてドイツやイタリアでもたいそう喧伝されていたからだ。
つまり、いくら向こうの階級が上であろうとも、実績十分の生沢長官であれば、こと海戦に関しては下手な横槍は入らないだろうという判断だった。
無名の大将よりも、常勝無敗の中将のほうが相手も話を聞くという理屈だ。
それに、そもそもとして生沢長官という人間をドイツやイタリアの海軍軍人が制御できるはずもなかった。
彼の上官であるはずの連合艦隊司令長官でさえ、生沢長官に「はい」と言わせるのは至難なのだ。
それが生沢和也という軍人であり、それこそが帝国海軍上層部が彼に向ける信頼の根拠でもあった。
角田長官は脱線した思考を本筋に戻す。
敵の戦艦を前にして、人事のあれこれを考えていても何も良いことは無い。
すでに、六隻の戦艦からは観測機を打ち出していた。
制空権を獲得していることもあって、それら機体は最良の観測ポイントで旋回を続けている。
「敵艦隊変針。右舷をこちらに向ける動きです」
見張りからの報告に、角田長官もまた面舵を命じる。
相手が意図するT字戦法に、わざわざ乗ってやる義理は無い。
その間にさらに続報が入る。
「敵の並びは中央に戦艦四、左右にそれぞれ駆逐艦四に巡洋艦が二。ただし左の巡洋艦と駆逐艦は右に変針。右翼のそれと合流を図るものとみられる」
戦艦は六対四。
巡洋艦も同じく六対四。
駆逐艦は一六対八。
そのうえ制空権を有していることで観測機が使い放題となっている。
「これで負けたら、司令部全員切腹ものだな」
そう言って角田長官が幕僚らに笑みを向ける。
三隻の戦艦を擁する甲一には、間もなくイタリア艦隊が取り付くはずだ。
仮にそのイタリア艦隊が順当に負けたとしても、相応の時間は粘ってくれるだろうから、その前に遣欧打撃部隊が甲三を撃破すれば問題は無いはずだった。
甲三、それに遣欧打撃部隊の距離が縮まるにつれて、「長門」艦橋内の緊張の度も高まっていく。
すでに、各艦の目標については指示を出してあった。
第一戦隊の「長門」と「陸奥」が敵の一番艦と二番艦、第二戦隊の「伊勢」と「日向」、それに「山城」と「扶桑」はそれぞれ二隻がかりで敵の三番艦と四番艦を相手取る。
英戦艦の主砲は三八センチのそれだから、四一センチ砲を搭載する「長門」と「陸奥」であれば一対一でも後れをとることは無い。
しかし、三六センチ砲装備の「伊勢」と「日向」、それに「山城」と「扶桑」にとっては格上となるから、こちらはその数をもって対抗する。
また、第七戦隊の四隻の「最上」型重巡は敵巡洋艦の撃攘を、一方の水雷戦隊は友軍の戦艦に敵の駆逐艦を近づけさせないことを第一の任務としている。
敵の巡洋艦はその艦型が小さいことから旧式軽巡もしくは防空巡洋艦と目されている。
二〇センチ砲をそれぞれ一〇門装備する「最上」型重巡であれば、魚雷に足下をすくわれない限りは決して不覚を取るような相手ではない。
英駆逐艦の型式は不明だが、しかし二倍の数の「陽炎」型駆逐艦であればまず負けることは考えられないし、さらにそのうえ二隻の「川内」型軽巡の支援もある。
こちらもまた、心配は無用なはずだった。
「砲戦距離はこれを二五〇〇〇メートルとする」
帝国海軍の戦艦の射程は、最も短いものでさえ三〇〇〇〇メートルを大きく超える。
しかし、それは砲弾を届かせることが出来るというだけの話であり、命中させ得るかどうかは別の話だ。
そして、今は天気も穏やかで視程もかなり良い。
そうであれば、観測機を用いることで二五〇〇〇メートルの遠距離であったとしても十分に命中が期待できる。
「間もなくだな」
敵の艦影から、彼我の間合いが砲戦距離のそれに近づいていることを見て取った角田長官がつぶやく。
これから命のやり取りが始まるのにもかかわらず、しかしその声音には喜色が混じっている。
その様子を見た幕僚たちは、帝国海軍きっての猛将の本領がこの後すぐに発揮されるであろうことを確信する。
かつての同盟国であり、そして師弟の間柄でもあった英海軍と日本海軍のぶつかり合い。
その艦隊決戦の火蓋が、今まさに切られようとしていた。
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