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欧州遠征
第78話 戦艦撫で斬り
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艦爆隊と艦戦隊の攻撃が終わり、ようやくのことで出番が回ってきた艦攻隊。
その指揮を務める「瑞鶴」飛行隊長の嶋崎少佐が短く命令する。
「五航戦、目標『レナウン』。六航戦、左翼の戦艦。一航戦、右翼の戦艦。攻撃法については各隊指揮官の指示に従え」
命令発出と同時。
待ってましたとばかりに六航戦所属の二〇機の九七艦攻が右に、一航戦の一八機が左へと回り込んでいく。
五航戦の一九機もまた巡洋戦艦「レナウン」にその機首を向けつつ高度を下げていく。
第四次攻撃隊のうちで、九七艦攻の搭載数が少ないはずの一航戦が五航戦や六航戦に近い数の機体を残しているのは、第三次攻撃の際に割り当てられた目標が手負いの巡洋艦だったからだ。
このため、無傷の「キングジョージV」級戦艦を相手取った五航戦や六航戦に比べて損害が少なくて済み、そのことで稼働率もまた相応に高いものを維持していた。
「五航戦各員に達す。『翔鶴』隊は左舷、『瑞鶴』隊は右舷から攻撃せよ」
嶋崎少佐が直率する五航戦の部下たちに命令を重ねる。
わずかに間を置き、一九機の九七艦攻が二手に分かれる。
「レナウン」を挟撃すべく、一〇機が同艦の左舷側に、九機が右舷側に機体を遷移させていく。
一方の「レナウン」は九七艦攻を寄せ付けまいと、高角砲や機関砲、それに機銃を総動員してそれらを叩き墜としにかかる。
改装によって機関砲や機銃を大量に増備したのだろう。
旧式の巡洋戦艦でありながら、しかし対空砲火の激しさは新型の「キングジョージV」級戦艦に引けを取らない。
五航戦の搭乗員にとっては、あまり嬉しくない誤算だった。
その「レナウン」が取舵を切り、左へと回り込んでいく。
おそらく、わずかに数が多い「翔鶴」隊への対処を優先させたのだろう。
「翔鶴」隊にとってはありがたくない機動だが、しかし「瑞鶴」隊からすればそれこそ「レナウン」が自ら横腹をさらすような動きに映っている。
艦が回頭する中にあっては、いかに優秀な射撃指揮装置を装備する英艦といえども精度を保てないのだろう。
まして、最大速度を発揮しようとしている中においては、なおのことではないか。
そのことで、高角砲弾の炸裂する位置や、あるいは機関砲や機銃の火箭も微妙にずれている。
それでも、近づき過ぎればやはり被弾する機体は出てくる。
あとわずかで射点に到達するといったその瞬間、「瑞鶴」第二中隊四番機が高角砲弾の危害半径に捉えられ、そのまま大西洋の海に叩きつけられる。
しかし、「瑞鶴」隊のうちで魚雷を投下するまでに撃墜されたのはこの一機のみだった。
もちろん、他に被弾した機体もあった。
ただ、こちらは被弾した個所が致命部ではなく、そのことで撃墜を免れていた。
残る「瑞鶴」隊の八機はそのすべてが投雷に成功、超低空飛行を維持しつつ対空砲火の射程圏から離脱を図る。
しかし、その避退途中に第三中隊五番機が、こちらは機関砲弾かあるいは機銃弾による追撃の火箭をまともに浴びて爆散する。
(防弾性能を高めた新型の九七艦攻といえども、やはり肉薄雷撃は犠牲が大きい)
対空砲火の有効射程圏を脱すると同時に上昇。
そのことで超低空飛行の緊張から解放された嶋崎少佐は、戦死した部下を悼むとともに今後への不安がわき上がるのを抑えられなかった。
戦闘機の傘が無く、そのうえ護衛艦艇まで失った相手に「瑞鶴」隊は二割を超える損害を被った。
旧式の英巡洋戦艦でさえこの有り様なのだから、もしこれがさらに対空火器が充実した米軍の新型戦艦や防空巡洋艦であったらどうなっていたことか。
おそらく、二割程度の喪失ではとどまらず、さらに多くの機体を失うことになっていたはずだ。
そう考える嶋崎少佐の耳に、遠藤一飛曹の大きな声が飛び込んでくる。
「『レナウン』の右舷に水柱! さらに一本! 左舷にも水柱! さらに一本!」
どうやら、五航戦は「レナウン」に対して四本の魚雷を命中させたようだった。
ただ、「翔鶴」隊よりも明らかに投雷条件が良かったはずの「瑞鶴」隊が同じ命中本数に甘んじたというのは、少しばかり不満が残ることでもあった。
しかし、防御力が低い巡洋戦艦が一度に四本もの魚雷を突き込まれては、さすがに保たないだろう。
実際、「レナウン」は這うように進むだけとなり、かつての韋駄天は影を潜めている。
ひとまず目標を達成したことで肩の荷を降ろした嶋崎少佐のもとに、六航戦とそれに一航戦から戦果報告が上げられてくる。
「六航戦攻撃終了。『ネルソン』級戦艦に魚雷六本命中。撃沈確実」
「一航戦攻撃終了。『ネルソン』級戦艦に魚雷五本命中。目標は大傾斜のうえ洋上停止」
六航戦それに一航戦ともにそれぞれの目標に十分な数の魚雷を叩き込むことに成功したようだった。
彼らの成績が五航戦のそれを上回っているのは、「ネルソン」級戦艦が「レナウン」よりも脚が遅いことによるものだろう。
(それにしても、空母は凄いな)
嶋崎少佐は改めて思う。
その彼が率いる「瑞鶴」艦攻隊は午前の攻撃で「キングジョージV」級戦艦を撃沈し、さらに先ほどは「翔鶴」艦攻隊と共同で「レナウン」にも致命の一撃を加えている。
「翔鶴」艦攻隊もまた「瑞鶴」艦攻隊と同様に「キングジョージV」級戦艦を撃沈しているから、五航戦は今日一日だけで二隻の最新鋭戦艦とそれに一隻の旧式巡洋戦艦を撃沈したことになる。
また、六航戦の「雲鶴」それに「神鶴」も二隻の「キングジョージV」級戦艦とそれに一隻の「ネルソン」級戦艦を海底に叩き込んでいる。
わずかに四隻の空母が六隻もの戦艦を、しかもたったの一日でこれを葬ったのだ。
(おそらく、英国は自分たち以上に空母の怖さを理解していた。だからこそ、相打ち覚悟で無謀とも言える突撃を仕掛けてきた)
戦艦でさえ容易にこれを葬る力を持つ空母。
それらが英国周辺海域で暴れ回れば、それこそ手がつけられなくなる。
そして、英国は何よりもそのことを恐れた。
だからこそ、味方の空母を囮あるいは生贄に供してでも遣欧艦隊を止めようとした。
だが、その意表を突く作戦も、しかし生沢長官には通用しなかった。
そのことで、真っ先に「キングジョージV」級戦艦を無力化され、そして英海軍はいきなり切り札を失った。
後はもう、戦艦の数任せによる力押し以外に取れる手段が無くなってしまった。
その結果として、今の状況がある。
いずれにせよ、目標とした甲二を撃滅したことで嶋崎少佐としてはまずはホッと一息といったところだった。
だからといって、完全に気を抜くわけにもいかなかった。
いまだ甲一と甲三は健在であり、「クイーン・エリザベス」級戦艦と「リヴェンジ」級戦艦が合わせて七隻も残っている。
そして、これら甲一と甲三は友軍の水上打撃部隊がこれを始末することになっている。
こちらは九隻の戦艦を擁している。
ただ、そのうちの三隻は計算が立たないイタリア海軍の戦艦だ。
もし、そのイタリア海軍が下手を打てば、遣欧打撃部隊は六対七という数的劣勢の中で砲撃戦を強いられることになる。
そして、イタリア海軍のこれまでの実績を考えれば、その可能性は決して小さくはない。
(まさか、他力本願ならぬイタリア海軍本願の日が来ようとはな)
自力本願こそをその旨としなければならない軍人の身としては、それこそ忸怩たる思いを抱かずにはいられない。
しかし、戦況がそれを必要とする推移をたどっているのだから、そこはどうしようも無いのかもしれない。
自嘲にも似た気分を宿しつつ、嶋崎少佐は帰投に向けて部下たちに集合を命じる。
同時に、第五次攻撃の必要が無いことを祈った。
その指揮を務める「瑞鶴」飛行隊長の嶋崎少佐が短く命令する。
「五航戦、目標『レナウン』。六航戦、左翼の戦艦。一航戦、右翼の戦艦。攻撃法については各隊指揮官の指示に従え」
命令発出と同時。
待ってましたとばかりに六航戦所属の二〇機の九七艦攻が右に、一航戦の一八機が左へと回り込んでいく。
五航戦の一九機もまた巡洋戦艦「レナウン」にその機首を向けつつ高度を下げていく。
第四次攻撃隊のうちで、九七艦攻の搭載数が少ないはずの一航戦が五航戦や六航戦に近い数の機体を残しているのは、第三次攻撃の際に割り当てられた目標が手負いの巡洋艦だったからだ。
このため、無傷の「キングジョージV」級戦艦を相手取った五航戦や六航戦に比べて損害が少なくて済み、そのことで稼働率もまた相応に高いものを維持していた。
「五航戦各員に達す。『翔鶴』隊は左舷、『瑞鶴』隊は右舷から攻撃せよ」
嶋崎少佐が直率する五航戦の部下たちに命令を重ねる。
わずかに間を置き、一九機の九七艦攻が二手に分かれる。
「レナウン」を挟撃すべく、一〇機が同艦の左舷側に、九機が右舷側に機体を遷移させていく。
一方の「レナウン」は九七艦攻を寄せ付けまいと、高角砲や機関砲、それに機銃を総動員してそれらを叩き墜としにかかる。
改装によって機関砲や機銃を大量に増備したのだろう。
旧式の巡洋戦艦でありながら、しかし対空砲火の激しさは新型の「キングジョージV」級戦艦に引けを取らない。
五航戦の搭乗員にとっては、あまり嬉しくない誤算だった。
その「レナウン」が取舵を切り、左へと回り込んでいく。
おそらく、わずかに数が多い「翔鶴」隊への対処を優先させたのだろう。
「翔鶴」隊にとってはありがたくない機動だが、しかし「瑞鶴」隊からすればそれこそ「レナウン」が自ら横腹をさらすような動きに映っている。
艦が回頭する中にあっては、いかに優秀な射撃指揮装置を装備する英艦といえども精度を保てないのだろう。
まして、最大速度を発揮しようとしている中においては、なおのことではないか。
そのことで、高角砲弾の炸裂する位置や、あるいは機関砲や機銃の火箭も微妙にずれている。
それでも、近づき過ぎればやはり被弾する機体は出てくる。
あとわずかで射点に到達するといったその瞬間、「瑞鶴」第二中隊四番機が高角砲弾の危害半径に捉えられ、そのまま大西洋の海に叩きつけられる。
しかし、「瑞鶴」隊のうちで魚雷を投下するまでに撃墜されたのはこの一機のみだった。
もちろん、他に被弾した機体もあった。
ただ、こちらは被弾した個所が致命部ではなく、そのことで撃墜を免れていた。
残る「瑞鶴」隊の八機はそのすべてが投雷に成功、超低空飛行を維持しつつ対空砲火の射程圏から離脱を図る。
しかし、その避退途中に第三中隊五番機が、こちらは機関砲弾かあるいは機銃弾による追撃の火箭をまともに浴びて爆散する。
(防弾性能を高めた新型の九七艦攻といえども、やはり肉薄雷撃は犠牲が大きい)
対空砲火の有効射程圏を脱すると同時に上昇。
そのことで超低空飛行の緊張から解放された嶋崎少佐は、戦死した部下を悼むとともに今後への不安がわき上がるのを抑えられなかった。
戦闘機の傘が無く、そのうえ護衛艦艇まで失った相手に「瑞鶴」隊は二割を超える損害を被った。
旧式の英巡洋戦艦でさえこの有り様なのだから、もしこれがさらに対空火器が充実した米軍の新型戦艦や防空巡洋艦であったらどうなっていたことか。
おそらく、二割程度の喪失ではとどまらず、さらに多くの機体を失うことになっていたはずだ。
そう考える嶋崎少佐の耳に、遠藤一飛曹の大きな声が飛び込んでくる。
「『レナウン』の右舷に水柱! さらに一本! 左舷にも水柱! さらに一本!」
どうやら、五航戦は「レナウン」に対して四本の魚雷を命中させたようだった。
ただ、「翔鶴」隊よりも明らかに投雷条件が良かったはずの「瑞鶴」隊が同じ命中本数に甘んじたというのは、少しばかり不満が残ることでもあった。
しかし、防御力が低い巡洋戦艦が一度に四本もの魚雷を突き込まれては、さすがに保たないだろう。
実際、「レナウン」は這うように進むだけとなり、かつての韋駄天は影を潜めている。
ひとまず目標を達成したことで肩の荷を降ろした嶋崎少佐のもとに、六航戦とそれに一航戦から戦果報告が上げられてくる。
「六航戦攻撃終了。『ネルソン』級戦艦に魚雷六本命中。撃沈確実」
「一航戦攻撃終了。『ネルソン』級戦艦に魚雷五本命中。目標は大傾斜のうえ洋上停止」
六航戦それに一航戦ともにそれぞれの目標に十分な数の魚雷を叩き込むことに成功したようだった。
彼らの成績が五航戦のそれを上回っているのは、「ネルソン」級戦艦が「レナウン」よりも脚が遅いことによるものだろう。
(それにしても、空母は凄いな)
嶋崎少佐は改めて思う。
その彼が率いる「瑞鶴」艦攻隊は午前の攻撃で「キングジョージV」級戦艦を撃沈し、さらに先ほどは「翔鶴」艦攻隊と共同で「レナウン」にも致命の一撃を加えている。
「翔鶴」艦攻隊もまた「瑞鶴」艦攻隊と同様に「キングジョージV」級戦艦を撃沈しているから、五航戦は今日一日だけで二隻の最新鋭戦艦とそれに一隻の旧式巡洋戦艦を撃沈したことになる。
また、六航戦の「雲鶴」それに「神鶴」も二隻の「キングジョージV」級戦艦とそれに一隻の「ネルソン」級戦艦を海底に叩き込んでいる。
わずかに四隻の空母が六隻もの戦艦を、しかもたったの一日でこれを葬ったのだ。
(おそらく、英国は自分たち以上に空母の怖さを理解していた。だからこそ、相打ち覚悟で無謀とも言える突撃を仕掛けてきた)
戦艦でさえ容易にこれを葬る力を持つ空母。
それらが英国周辺海域で暴れ回れば、それこそ手がつけられなくなる。
そして、英国は何よりもそのことを恐れた。
だからこそ、味方の空母を囮あるいは生贄に供してでも遣欧艦隊を止めようとした。
だが、その意表を突く作戦も、しかし生沢長官には通用しなかった。
そのことで、真っ先に「キングジョージV」級戦艦を無力化され、そして英海軍はいきなり切り札を失った。
後はもう、戦艦の数任せによる力押し以外に取れる手段が無くなってしまった。
その結果として、今の状況がある。
いずれにせよ、目標とした甲二を撃滅したことで嶋崎少佐としてはまずはホッと一息といったところだった。
だからといって、完全に気を抜くわけにもいかなかった。
いまだ甲一と甲三は健在であり、「クイーン・エリザベス」級戦艦と「リヴェンジ」級戦艦が合わせて七隻も残っている。
そして、これら甲一と甲三は友軍の水上打撃部隊がこれを始末することになっている。
こちらは九隻の戦艦を擁している。
ただ、そのうちの三隻は計算が立たないイタリア海軍の戦艦だ。
もし、そのイタリア海軍が下手を打てば、遣欧打撃部隊は六対七という数的劣勢の中で砲撃戦を強いられることになる。
そして、イタリア海軍のこれまでの実績を考えれば、その可能性は決して小さくはない。
(まさか、他力本願ならぬイタリア海軍本願の日が来ようとはな)
自力本願こそをその旨としなければならない軍人の身としては、それこそ忸怩たる思いを抱かずにはいられない。
しかし、戦況がそれを必要とする推移をたどっているのだから、そこはどうしようも無いのかもしれない。
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同時に、第五次攻撃の必要が無いことを祈った。
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