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欧州遠征
第82話 通商破壊戦
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天敵とも言える英海軍との艦隊決戦に勝利したイタリア艦隊。
その将兵らの戦意は珍しく旺盛だった。
あるいは、それは復仇を果たしたことによる一時的な高揚かもしれない。
だが、今はその興奮が良い方に作用していた。
甲一と呼称される英艦隊を撃滅した後、そのイタリア艦隊は這々の体で敗走を続ける乙一の残存艦艇を捕捉した。
これらに対して容赦の無い砲撃を加え、そこにあった巡洋艦や駆逐艦のそのことごとくを沈めてしまった。
それは、昨年生起したマタパン岬沖海戦における英海軍とイタリア海軍の立場を真逆にしたような戦いだった。
そして、このことで英艦隊は早々に離脱した三隻の空母とそれに六隻の駆逐艦を除いて、そのすべてが撃沈されてしまった。
四隻の新型を含む一三隻の戦艦と一隻の巡洋戦艦、それに二〇隻の巡洋艦と三二隻の駆逐艦がただの一度の海戦で失われたのだ。
日本海海戦はもちろん、マーシャル沖海戦をも上回る大戦果にドイツ国民やイタリア国民は熱狂の極致へと誘われる。
ヒトラー総統やムッソリーニ統領もまた、その例外ではなかった。
また、日伊艦隊と英艦隊が激突する最中に実施されたドイツ空軍による英本土空襲も枢軸側の圧勝に終わった。
ドイツ空軍がイタリア空軍による増援を得たのに対し、英空軍のほうは多数のベテラン戦闘機乗りを母艦航空隊に引き抜かれたことで弱体化が著しかった。
そのことで、これまでの均衡が大きく崩れ、英空軍は取り返しのつかない不覚を取ってしまった。
それでも、枢軸側から見れば、現状は作戦の第一段階をクリアしたのにしか過ぎなかった。
英国周辺の商船を沈めて回ることで英米航路を断ち切り、そのことで英国を兵糧攻めにする。
そして、その結果として英国を戦争から脱落させる。
それが出来て、初めて今回の作戦は成功だと言える。
この動きに対応するため、生沢長官は遣欧艦隊の再編成に臨んだ。
まず、英戦艦との戦いで深手を負った「長門」と「陸奥」はすぐに日本に帰すことにした。
先の海戦でイタリアの艦艇も多数が損害を被っていたから、イタリア国内の造修施設はこれを修理するのに手一杯で、日本の艦艇に手が回りそうにない。
だから、生沢長官がとったこの措置に反対する者は皆無だった。
それと、第二戦隊の四隻の戦艦も、脚が遅いことで通商破壊戦には不向きだから、こちらもまた「長門」や「陸奥」とともに本土に送り返すことにした。
さらに、これら六隻の戦艦の護衛として、一個駆逐隊を同道させた。
このことで、生沢長官の手元には六隻の空母と同じく六隻の重巡、それに三隻の軽巡と二四隻の駆逐艦が残ることになった。
そして、彼はそれらを三分割し、一隊は英国周辺海域で作戦行動にあて、別の一隊は補給ならびに移動、さらに残る一隊は整備と休養にこれをあてることにした。
通商破壊戦の主役となる艦上機については、英艦隊との戦いで相当な数の損耗を強いられた。
しかし、被弾損傷した機体の修理や補用機の組み立て、さらに補給船団に随伴してきた護衛空母「大鷹」ならびに「雲鷹」から機体と搭乗員の提供を受けたことで、「翔鶴」型空母は一〇〇機、「赤城」と「加賀」は六〇機程度にまでその稼働機を回復させていた。
海上交通線破壊の先鋒を受け持つのは、新たに遣欧第一機動部隊と呼称されることになった艦隊で、空母「翔鶴」と「加賀」を主力としている。
それらはかつての遣欧機動部隊に所属していた艦艇で固められていた。
遣欧打撃部隊の巡洋艦や駆逐艦には被弾によって損害を被った艦が少なからず存在したからだ。
だから、遣欧第一機動部隊が暴れまわっている間に、これら艦については出来うる限りの修理を進めることにしていた。
それと遣欧第一機動部隊は生沢長官が直率し、第二機動部隊は第一航空戦隊司令官、第三機動部隊は第六航空戦隊司令官がそれぞれ指揮を執ることになっている。
「飛行長によると、ここ最近の戦闘で戦闘機搭乗員の爆撃技量がずいぶんと向上しているそうです」
通商破壊戦において、生沢長官は英商船に対する攻撃について、零戦による緩降下爆撃を多用していた。
来たるべき太平洋艦隊との決戦に備え、少しでも戦闘機搭乗員の爆撃技量を上げておきたかったからだ。
逆にサンドバッグ代わりにされる英国の商船乗りからすれば、それこそ迷惑極まりない話ではあったが、しかしそこは運が悪かったと諦めてもらうしかなかった。
「命中率についての数字はあるか」
ふんわりとした志津頼航空甲参謀の報告に、一方の生沢長官のほうは冷厳な現実を示すデータを求める。
「最初二割程度だったのが、今では三割を大きく超えているそうです。ただ、こちらはせいぜい一〇ノット程度の速度しか出ていない商船が相手ですから、もしこれが軍艦相手であればかなり命中率は下がるでしょうね」
回頭性能が高く、脚も速い軍艦であればたぶん命中率は半分かあるいはそれ以下に下がるかもしれない。
そうであれば、さらなる命中率の向上を目指し、今以上に実戦訓練を積み重ねる必要がある。
そう考えている生沢長官の元に、通信参謀がその姿を現す。
「索敵に出した『翔鶴』艦攻一四号機より商船二隻を発見との報告がありました。こちらからの方位二七〇度、距離は一七〇浬。商船の大きさについては五〇〇〇トン乃至六〇〇〇トンと見積もっています。なお、これら二隻に護衛の艦艇はついていないとのことです」
生沢長官は零戦搭乗員以外に九九艦爆や九七艦攻の搭乗員にも実戦訓練を施していた。
これら機体を積極的に索敵に出すことで、航法訓練の機会を増やしていたのだ。
母艦航空隊の搭乗員の中で、航法を苦手としている者は多い。
経験豊富な熟練でさえ機位を失うことは決して珍しいことではなく、そのたびに艦隊は誘導電波を発信しなければならない羽目に陥っていた。
生沢長官としては、そのような無様は少しでもこれを減らしておきたかった。
「『翔鶴』艦攻一四号機の搭乗員の錬度はどうなっている」
通信参謀から志津頼航空甲参謀に視線を変えた生沢長官が端的に尋ねる。
「技量区分はAですね。彼らからの報告は信用して良いと思います」
志津頼航空甲参謀の即答に、生沢長官は満足気に頷く。
そして「攻撃法はどうする」と志津頼航空甲参謀に重ねて問う。
「『翔鶴』と『加賀』からそれぞれ一個中隊の零戦に二五番を装備させたうえでこれを出しましょう。一七〇浬であれば増槽は必要ありません」
一隻あたり九機の零戦が爆撃を仕掛けるとして、命中率が三割と仮定すれば三発が命中する。
五〇〇〇トンクラスの商船であれば、よほど当たりどころに恵まれない限りは致命傷となるはずだ。
「了解した。貴官の戦策を採用しよう。それと零戦隊が出撃する前に接触機を出してくれ。こちらは『翔鶴』と『加賀』からそれぞれ一機ずつだ。可能であれば、腕の悪い連中を頼む」
生沢長官の指示に、志津頼航空甲参謀が苦笑する。
その生沢長官は搭乗員の技量向上につながるものであれば、わずかな機会もこれを逃さずに生かそうとする。
特に技量未熟な搭乗員らは、それこそ馬車馬のごとき扱いとなっている。
今回、接触維持任務にあたる搭乗員もまた、それらのうちの一部だ。
しかし、その積み重ねの有無、あるいは経験の厚みが戦場での生死を分けることを、生沢長官は搭乗員以上にこれを理解している。
少なくとも、志津頼航空甲参謀はそう考えている。
だから、通商破壊戦にもかかわらず、遣欧第一機動部隊は多忙を極めている。
艦隊決戦の時と同じかあるいはそれ以上に艦上機の離発艦の回数も多い。
また、そのたびごとに「翔鶴」と「加賀」が風上に艦首を向けるものだから、周囲の巡洋艦や駆逐艦もその動きに合わせる必要がある。
そのことで、連中もまた気の休まる暇は無いだろう。
「目には見えないが、しかし搭乗員だけでなく空母も、さらには護衛の巡洋艦や駆逐艦もまた、それぞれ腕を上げているだろうな」
志津頼航空甲参謀が小さくつぶやく。
そして、彼は改めて確信する。
生沢長官は将兵を酷使しているようで、実のところは彼らの生存率を可能な限り上げるように努めているのだ、と。
その将兵らの戦意は珍しく旺盛だった。
あるいは、それは復仇を果たしたことによる一時的な高揚かもしれない。
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甲一と呼称される英艦隊を撃滅した後、そのイタリア艦隊は這々の体で敗走を続ける乙一の残存艦艇を捕捉した。
これらに対して容赦の無い砲撃を加え、そこにあった巡洋艦や駆逐艦のそのことごとくを沈めてしまった。
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そして、このことで英艦隊は早々に離脱した三隻の空母とそれに六隻の駆逐艦を除いて、そのすべてが撃沈されてしまった。
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日本海海戦はもちろん、マーシャル沖海戦をも上回る大戦果にドイツ国民やイタリア国民は熱狂の極致へと誘われる。
ヒトラー総統やムッソリーニ統領もまた、その例外ではなかった。
また、日伊艦隊と英艦隊が激突する最中に実施されたドイツ空軍による英本土空襲も枢軸側の圧勝に終わった。
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そのことで、これまでの均衡が大きく崩れ、英空軍は取り返しのつかない不覚を取ってしまった。
それでも、枢軸側から見れば、現状は作戦の第一段階をクリアしたのにしか過ぎなかった。
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そして、その結果として英国を戦争から脱落させる。
それが出来て、初めて今回の作戦は成功だと言える。
この動きに対応するため、生沢長官は遣欧艦隊の再編成に臨んだ。
まず、英戦艦との戦いで深手を負った「長門」と「陸奥」はすぐに日本に帰すことにした。
先の海戦でイタリアの艦艇も多数が損害を被っていたから、イタリア国内の造修施設はこれを修理するのに手一杯で、日本の艦艇に手が回りそうにない。
だから、生沢長官がとったこの措置に反対する者は皆無だった。
それと、第二戦隊の四隻の戦艦も、脚が遅いことで通商破壊戦には不向きだから、こちらもまた「長門」や「陸奥」とともに本土に送り返すことにした。
さらに、これら六隻の戦艦の護衛として、一個駆逐隊を同道させた。
このことで、生沢長官の手元には六隻の空母と同じく六隻の重巡、それに三隻の軽巡と二四隻の駆逐艦が残ることになった。
そして、彼はそれらを三分割し、一隊は英国周辺海域で作戦行動にあて、別の一隊は補給ならびに移動、さらに残る一隊は整備と休養にこれをあてることにした。
通商破壊戦の主役となる艦上機については、英艦隊との戦いで相当な数の損耗を強いられた。
しかし、被弾損傷した機体の修理や補用機の組み立て、さらに補給船団に随伴してきた護衛空母「大鷹」ならびに「雲鷹」から機体と搭乗員の提供を受けたことで、「翔鶴」型空母は一〇〇機、「赤城」と「加賀」は六〇機程度にまでその稼働機を回復させていた。
海上交通線破壊の先鋒を受け持つのは、新たに遣欧第一機動部隊と呼称されることになった艦隊で、空母「翔鶴」と「加賀」を主力としている。
それらはかつての遣欧機動部隊に所属していた艦艇で固められていた。
遣欧打撃部隊の巡洋艦や駆逐艦には被弾によって損害を被った艦が少なからず存在したからだ。
だから、遣欧第一機動部隊が暴れまわっている間に、これら艦については出来うる限りの修理を進めることにしていた。
それと遣欧第一機動部隊は生沢長官が直率し、第二機動部隊は第一航空戦隊司令官、第三機動部隊は第六航空戦隊司令官がそれぞれ指揮を執ることになっている。
「飛行長によると、ここ最近の戦闘で戦闘機搭乗員の爆撃技量がずいぶんと向上しているそうです」
通商破壊戦において、生沢長官は英商船に対する攻撃について、零戦による緩降下爆撃を多用していた。
来たるべき太平洋艦隊との決戦に備え、少しでも戦闘機搭乗員の爆撃技量を上げておきたかったからだ。
逆にサンドバッグ代わりにされる英国の商船乗りからすれば、それこそ迷惑極まりない話ではあったが、しかしそこは運が悪かったと諦めてもらうしかなかった。
「命中率についての数字はあるか」
ふんわりとした志津頼航空甲参謀の報告に、一方の生沢長官のほうは冷厳な現実を示すデータを求める。
「最初二割程度だったのが、今では三割を大きく超えているそうです。ただ、こちらはせいぜい一〇ノット程度の速度しか出ていない商船が相手ですから、もしこれが軍艦相手であればかなり命中率は下がるでしょうね」
回頭性能が高く、脚も速い軍艦であればたぶん命中率は半分かあるいはそれ以下に下がるかもしれない。
そうであれば、さらなる命中率の向上を目指し、今以上に実戦訓練を積み重ねる必要がある。
そう考えている生沢長官の元に、通信参謀がその姿を現す。
「索敵に出した『翔鶴』艦攻一四号機より商船二隻を発見との報告がありました。こちらからの方位二七〇度、距離は一七〇浬。商船の大きさについては五〇〇〇トン乃至六〇〇〇トンと見積もっています。なお、これら二隻に護衛の艦艇はついていないとのことです」
生沢長官は零戦搭乗員以外に九九艦爆や九七艦攻の搭乗員にも実戦訓練を施していた。
これら機体を積極的に索敵に出すことで、航法訓練の機会を増やしていたのだ。
母艦航空隊の搭乗員の中で、航法を苦手としている者は多い。
経験豊富な熟練でさえ機位を失うことは決して珍しいことではなく、そのたびに艦隊は誘導電波を発信しなければならない羽目に陥っていた。
生沢長官としては、そのような無様は少しでもこれを減らしておきたかった。
「『翔鶴』艦攻一四号機の搭乗員の錬度はどうなっている」
通信参謀から志津頼航空甲参謀に視線を変えた生沢長官が端的に尋ねる。
「技量区分はAですね。彼らからの報告は信用して良いと思います」
志津頼航空甲参謀の即答に、生沢長官は満足気に頷く。
そして「攻撃法はどうする」と志津頼航空甲参謀に重ねて問う。
「『翔鶴』と『加賀』からそれぞれ一個中隊の零戦に二五番を装備させたうえでこれを出しましょう。一七〇浬であれば増槽は必要ありません」
一隻あたり九機の零戦が爆撃を仕掛けるとして、命中率が三割と仮定すれば三発が命中する。
五〇〇〇トンクラスの商船であれば、よほど当たりどころに恵まれない限りは致命傷となるはずだ。
「了解した。貴官の戦策を採用しよう。それと零戦隊が出撃する前に接触機を出してくれ。こちらは『翔鶴』と『加賀』からそれぞれ一機ずつだ。可能であれば、腕の悪い連中を頼む」
生沢長官の指示に、志津頼航空甲参謀が苦笑する。
その生沢長官は搭乗員の技量向上につながるものであれば、わずかな機会もこれを逃さずに生かそうとする。
特に技量未熟な搭乗員らは、それこそ馬車馬のごとき扱いとなっている。
今回、接触維持任務にあたる搭乗員もまた、それらのうちの一部だ。
しかし、その積み重ねの有無、あるいは経験の厚みが戦場での生死を分けることを、生沢長官は搭乗員以上にこれを理解している。
少なくとも、志津頼航空甲参謀はそう考えている。
だから、通商破壊戦にもかかわらず、遣欧第一機動部隊は多忙を極めている。
艦隊決戦の時と同じかあるいはそれ以上に艦上機の離発艦の回数も多い。
また、そのたびごとに「翔鶴」と「加賀」が風上に艦首を向けるものだから、周囲の巡洋艦や駆逐艦もその動きに合わせる必要がある。
そのことで、連中もまた気の休まる暇は無いだろう。
「目には見えないが、しかし搭乗員だけでなく空母も、さらには護衛の巡洋艦や駆逐艦もまた、それぞれ腕を上げているだろうな」
志津頼航空甲参謀が小さくつぶやく。
そして、彼は改めて確信する。
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