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ミッドウェー海戦
第83話 MI作戦
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英国と枢軸国の講和が成ったのは、東大西洋海戦と呼称される一大艦隊決戦が生起してから三カ月余りが経過した三月三日のことだった。
それまでの間、遣欧艦隊は英国近海で暴れ回った。
そのほとんどは、空母艦上機を用いた商船狩りとも呼ぶべき通商破壊活動だった。
その空母艦上機が持つ捜索能力と打撃力はUボートの比ではなかった。
ひとたび発見された英商船はそのほとんどが撃沈され、艦上機の魔手から逃れたものは皆無に等しかった。
また、この間、同盟国も遊んでいたわけではなかった。
ドイツ海軍のUボート部隊は米東海岸で猛威を振るい、多数の連合国商船を撃沈している。
そのなかでも、特に効果を上げたのが機雷戦で、そのことで米東海岸の海上交通線は、その機能を停止する寸前にまで追い込まれたこともあった。
一方、イタリア海軍のほうは東大西洋海戦で被った傷が癒えておらず、こちらは休業状態だった。
日本の機動部隊とドイツの潜水艦隊による一連の通商破壊戦で、英国はそれこそあっという間に物資の困窮に陥った。
貧困層の中には餓死する者まで現れ、さらに自殺者も増加の一途をたどった。
また、食料だけでなく医療品も不足し、厳冬期の真っ只中という時期も重なって、多くの人間が流行性感冒をはじめとした病魔に侵され、そして死んでいった。
そして、その多くが体の弱い老人か子どもであり、特に大勢の子どもたちの死は英国民に大きなショックを与えていた。
いずれにせよ、国民がこのような有り様では戦争を続けることなど出来ない。
英政府としては決定的な飢餓が生じる前に、降伏にも似た講和に応じざるを得なかった。
所期の目的が達成されたことに伴い、遣欧艦隊は急ぎ帰路についた。
太平洋艦隊が急速に戦力を回復させつつある中にあっては、欧州で安穏としているわけにもいかない。
遣欧艦隊は精いっぱいの速度で本土を目指した。
それでも帰ってきた頃には五月もすでに後半に差し掛かっていた。
そして、帰国して早々、生沢長官はこれまで自身が浦島太郎状態にあったことを思い知ることになった。
現状で連合艦隊が動かすことができる戦力の大半を動員した一大作戦、それが発動されているのを知らずにいたのだ。
その作戦とは第一航空艦隊と第三航空艦隊、それに第二艦隊から成る連合艦隊を主力とし、その戦力をもってミッドウェー島を攻略するという、いわゆるMI作戦と呼ばれるものだった。
同作戦は連合艦隊司令長官の山本大将の信念から実行に移されたものだという。
いずれにせよ、さすがにここまで話が進んでいれば、生沢長官といえどももはやどうすることもできない。
やれることと言えば、友軍の勝利を祈るくらいのものだった。
「しかし、大丈夫なんですかね。『翔鶴』型空母とそれに『赤城』と『加賀』は欧州から帰ってきたばかりで使えません。また、それらを護衛していた三〇隻あまりの巡洋艦や駆逐艦も同様です。これら帝国海軍の最強戦力を欠いた中でミッドウェーに攻め込むのは、兵力面から見てもかなり厳しいのではないかと思うのですが」
生沢長官からMI作戦のことを聞かされた志津頼航空甲参謀が懸念の色を顕にする。
本来であれば、志津頼航空甲参謀には決して話してはならない軍機なのだが、しかし生沢長官はそのようなことには頓着しない。
こういったことは、バレなければいいだけの話だ。
それと、「翔鶴」型空母とそれに「赤城」と「加賀」が使えないのは、それぞれが指定された造修施設で整備を受けている最中だからだ。
半年あまりにわたる長期遠征の際には本格的な整備が出来なかったことから、本土に戻ってすぐのドック入りとなったのだ。
ただ、六隻の大型空母を同時にドック入りさせることは無理なので、こちらは半数ずつ実施することになっている。
そして、それは空母以外の巡洋艦や駆逐艦といった艦艇もまた同様だった。
「確かに厳しいな。一航艦とそれに三航艦の空母は合わせて八隻。これに『千歳』と『千代田』が新しく加わったことで一〇隻となったが、しかしその実態は中小型空母の寄せ集めだ。もし、ミッドウェーの基地航空隊と米機動部隊を同時に相手取るようなことがあれば、その兵力の不足から不覚を取るかもしれん」
もともと、一航艦は「赤城」「加賀」の一航戦と「蒼龍」「飛龍」の二航戦、それに「瑞鳳」「祥鳳」の三航戦から成り、本来であれば三〇〇機を超える常用機を運用できるはずだった。
しかし、「赤城」と「加賀」は使えないから、そのことで艦上機については四五パーセントのダウンを強いられていた。
三航艦のほうは「隼鷹」「飛鷹」の七航戦と「龍驤」「龍鳳」の四航戦、さらに「千歳」と「千代田」で新しく編組された八航戦を主力とし、その常用機は二一〇機となっている。
「そうなると、太平洋艦隊がどれだけ空母を投入できるかによって戦いの様相はずいぶんと変わってきますね。そこらあたりの情報は無いんですか」
戦争には相手がある。
その相手のことが分からなければ、どちらが有利でどちらが不利かの判断がつかない。
志津頼航空甲参謀の質問は、至極当然のものだといえた。
「情報部門では『エセックス』級と呼ばれる正規空母と、それに巡洋艦改造の小型空母について、それぞれ二隻がすでに実戦に耐えられる程度に仕上がっているものとみている。さらに、最近になって大西洋から太平洋へと回された『レンジャー』がこれらに加わることになると見込んでいる」
仮に「エセックス」級空母が九〇機に小型空母が三〇機、それに「レンジャー」が七〇機程度と仮定すれば、それだけで艦上機の総数は三一〇機となる。
さらに、これにミッドウェーの基地航空隊が加わる。
ミッドウェー基地に配備されている航空機の数は分からないが、それでも一〇〇機以下ということは無いだろう。
そうであれば、数に勝るのは米側となる。
「かなりまずい状況ですね。機動性に優れる空母と、それに浮沈の陸上航空基地の両方を持つ米軍に対して、艦上機の数で劣っていれば苦戦は免れません。仮に勝ったとしても艦上機隊の被害は甚大なものになります」
脳内計算の結果、友軍不利とみた志津頼航空甲参謀は上官の前であるのにもかかわらず、しかめっ面を形成する。
「それなんだがな、どうやら上層部のほうでは航空戦力の劣勢を覆すことについては、何か考えがあるらしい。それが何なのかは、さすがに教えてもらえなかったのだが」
そう話す生沢長官に、志津頼航空甲参謀のほうは「長官でも分からないことがあるのだ」ということを知り、少しばかり安堵する。
長年の付き合いから、生沢長官には千里眼や読心術といった、なにやら妖怪めいた能力が有るのではないかと思っていたからだ。
それくらい、彼の予想は的中するし、相手が取るであろう行動も的確に見抜く。
中でも、情報戦で後れをとったことによって絶体絶命の危機にさらされた珊瑚海海戦では、防御全振りという奇策を用いて起死回生ともいえる逆転劇を演じてみせた。
あの時、志津頼航空甲参謀は生沢長官が実は人外の存在ではないかと割と真面目に疑ったものだ。
「長官が思いつかないのですから、よほど意表を突いたものか、あるいは予想の遙か下をいく愚にもつかない作戦のどちらかでしょうね」
そう言って志津頼航空甲参謀は苦笑する。
ただ、もしも愚にもつかない作戦だった場合、地獄を見るのは現場の将兵だ。
だから、決してそうではないことを、志津頼航空甲参謀は真剣に祈った。
それまでの間、遣欧艦隊は英国近海で暴れ回った。
そのほとんどは、空母艦上機を用いた商船狩りとも呼ぶべき通商破壊活動だった。
その空母艦上機が持つ捜索能力と打撃力はUボートの比ではなかった。
ひとたび発見された英商船はそのほとんどが撃沈され、艦上機の魔手から逃れたものは皆無に等しかった。
また、この間、同盟国も遊んでいたわけではなかった。
ドイツ海軍のUボート部隊は米東海岸で猛威を振るい、多数の連合国商船を撃沈している。
そのなかでも、特に効果を上げたのが機雷戦で、そのことで米東海岸の海上交通線は、その機能を停止する寸前にまで追い込まれたこともあった。
一方、イタリア海軍のほうは東大西洋海戦で被った傷が癒えておらず、こちらは休業状態だった。
日本の機動部隊とドイツの潜水艦隊による一連の通商破壊戦で、英国はそれこそあっという間に物資の困窮に陥った。
貧困層の中には餓死する者まで現れ、さらに自殺者も増加の一途をたどった。
また、食料だけでなく医療品も不足し、厳冬期の真っ只中という時期も重なって、多くの人間が流行性感冒をはじめとした病魔に侵され、そして死んでいった。
そして、その多くが体の弱い老人か子どもであり、特に大勢の子どもたちの死は英国民に大きなショックを与えていた。
いずれにせよ、国民がこのような有り様では戦争を続けることなど出来ない。
英政府としては決定的な飢餓が生じる前に、降伏にも似た講和に応じざるを得なかった。
所期の目的が達成されたことに伴い、遣欧艦隊は急ぎ帰路についた。
太平洋艦隊が急速に戦力を回復させつつある中にあっては、欧州で安穏としているわけにもいかない。
遣欧艦隊は精いっぱいの速度で本土を目指した。
それでも帰ってきた頃には五月もすでに後半に差し掛かっていた。
そして、帰国して早々、生沢長官はこれまで自身が浦島太郎状態にあったことを思い知ることになった。
現状で連合艦隊が動かすことができる戦力の大半を動員した一大作戦、それが発動されているのを知らずにいたのだ。
その作戦とは第一航空艦隊と第三航空艦隊、それに第二艦隊から成る連合艦隊を主力とし、その戦力をもってミッドウェー島を攻略するという、いわゆるMI作戦と呼ばれるものだった。
同作戦は連合艦隊司令長官の山本大将の信念から実行に移されたものだという。
いずれにせよ、さすがにここまで話が進んでいれば、生沢長官といえどももはやどうすることもできない。
やれることと言えば、友軍の勝利を祈るくらいのものだった。
「しかし、大丈夫なんですかね。『翔鶴』型空母とそれに『赤城』と『加賀』は欧州から帰ってきたばかりで使えません。また、それらを護衛していた三〇隻あまりの巡洋艦や駆逐艦も同様です。これら帝国海軍の最強戦力を欠いた中でミッドウェーに攻め込むのは、兵力面から見てもかなり厳しいのではないかと思うのですが」
生沢長官からMI作戦のことを聞かされた志津頼航空甲参謀が懸念の色を顕にする。
本来であれば、志津頼航空甲参謀には決して話してはならない軍機なのだが、しかし生沢長官はそのようなことには頓着しない。
こういったことは、バレなければいいだけの話だ。
それと、「翔鶴」型空母とそれに「赤城」と「加賀」が使えないのは、それぞれが指定された造修施設で整備を受けている最中だからだ。
半年あまりにわたる長期遠征の際には本格的な整備が出来なかったことから、本土に戻ってすぐのドック入りとなったのだ。
ただ、六隻の大型空母を同時にドック入りさせることは無理なので、こちらは半数ずつ実施することになっている。
そして、それは空母以外の巡洋艦や駆逐艦といった艦艇もまた同様だった。
「確かに厳しいな。一航艦とそれに三航艦の空母は合わせて八隻。これに『千歳』と『千代田』が新しく加わったことで一〇隻となったが、しかしその実態は中小型空母の寄せ集めだ。もし、ミッドウェーの基地航空隊と米機動部隊を同時に相手取るようなことがあれば、その兵力の不足から不覚を取るかもしれん」
もともと、一航艦は「赤城」「加賀」の一航戦と「蒼龍」「飛龍」の二航戦、それに「瑞鳳」「祥鳳」の三航戦から成り、本来であれば三〇〇機を超える常用機を運用できるはずだった。
しかし、「赤城」と「加賀」は使えないから、そのことで艦上機については四五パーセントのダウンを強いられていた。
三航艦のほうは「隼鷹」「飛鷹」の七航戦と「龍驤」「龍鳳」の四航戦、さらに「千歳」と「千代田」で新しく編組された八航戦を主力とし、その常用機は二一〇機となっている。
「そうなると、太平洋艦隊がどれだけ空母を投入できるかによって戦いの様相はずいぶんと変わってきますね。そこらあたりの情報は無いんですか」
戦争には相手がある。
その相手のことが分からなければ、どちらが有利でどちらが不利かの判断がつかない。
志津頼航空甲参謀の質問は、至極当然のものだといえた。
「情報部門では『エセックス』級と呼ばれる正規空母と、それに巡洋艦改造の小型空母について、それぞれ二隻がすでに実戦に耐えられる程度に仕上がっているものとみている。さらに、最近になって大西洋から太平洋へと回された『レンジャー』がこれらに加わることになると見込んでいる」
仮に「エセックス」級空母が九〇機に小型空母が三〇機、それに「レンジャー」が七〇機程度と仮定すれば、それだけで艦上機の総数は三一〇機となる。
さらに、これにミッドウェーの基地航空隊が加わる。
ミッドウェー基地に配備されている航空機の数は分からないが、それでも一〇〇機以下ということは無いだろう。
そうであれば、数に勝るのは米側となる。
「かなりまずい状況ですね。機動性に優れる空母と、それに浮沈の陸上航空基地の両方を持つ米軍に対して、艦上機の数で劣っていれば苦戦は免れません。仮に勝ったとしても艦上機隊の被害は甚大なものになります」
脳内計算の結果、友軍不利とみた志津頼航空甲参謀は上官の前であるのにもかかわらず、しかめっ面を形成する。
「それなんだがな、どうやら上層部のほうでは航空戦力の劣勢を覆すことについては、何か考えがあるらしい。それが何なのかは、さすがに教えてもらえなかったのだが」
そう話す生沢長官に、志津頼航空甲参謀のほうは「長官でも分からないことがあるのだ」ということを知り、少しばかり安堵する。
長年の付き合いから、生沢長官には千里眼や読心術といった、なにやら妖怪めいた能力が有るのではないかと思っていたからだ。
それくらい、彼の予想は的中するし、相手が取るであろう行動も的確に見抜く。
中でも、情報戦で後れをとったことによって絶体絶命の危機にさらされた珊瑚海海戦では、防御全振りという奇策を用いて起死回生ともいえる逆転劇を演じてみせた。
あの時、志津頼航空甲参謀は生沢長官が実は人外の存在ではないかと割と真面目に疑ったものだ。
「長官が思いつかないのですから、よほど意表を突いたものか、あるいは予想の遙か下をいく愚にもつかない作戦のどちらかでしょうね」
そう言って志津頼航空甲参謀は苦笑する。
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だから、決してそうではないことを、志津頼航空甲参謀は真剣に祈った。
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