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ミッドウェー海戦
第84話 夜間艦砲射撃
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ようやくのことで欧州に到着したと思ったら、一度の海戦を経ただけですぐに本土へと戻る羽目になった。
英戦艦との砲撃戦で傷ついた「長門」と「陸奥」を一刻も早く本土に戻して修理を実施するというもっともらしい理由が有ったが、しかし実態としては厄介払いに近い措置だろう。
ただ、勝ち戦の後の航海だったことで、「長門」艦内の空気はそれほど悪いものではなかった。
それでも、遣欧打撃部隊を指揮した角田長官は、途中退場を宣告されたような何とも言えない気持ちをその胸中に抱えていた。
本土に戻ってからは英雄の扱いだった。
東大西洋海戦で英戦艦との堂々たる砲撃戦に撃ち勝ち、「リヴェンジ」級戦艦を一度に四隻も葬ったのだから、当然と言えば当然だった。
その角田中将は人事面で報奨を得ることになった。
遣欧打撃部隊での指揮が評価され、四月二九日付をもって第二艦隊司令長官に就任することになったのだ。
六隻の戦艦を擁した遣欧打撃部隊に比べ、第二艦隊のほうはそれが四隻と少ないが、しかし臨時編成の遣欧打撃部隊よりも建制化されている第二艦隊のほうが艦隊としての格は明らかに上だ。
そのことに満足を覚えつつ、第二艦隊司令長官として初の実戦任務にあたる角田中将は旗艦「比叡」の艦橋で暗闇の中にぼんやりと浮かび上がる稜線を見据えていた。
すでにMI作戦は発動されていた。
第一航空艦隊とそれに第三航空艦隊の前衛として同作戦に参加していた第二艦隊は、日没とともにミッドウェー島に向けて猛進、その島影を捉えるポジションに到達していた。
「時間です」
参謀長の短い言葉に、角田長官は首肯をもって了解の意を示す。
そして、自身もまた短い命令を吐き出す。
「全艦、所定の手順に従って砲撃を開始せよ」
角田長官の命令一下、「比叡」の主砲が傲然と火を噴き、さらに「霧島」と「金剛」、それに「榛名」も続く。
第三戦隊の「金剛」型戦艦が主砲弾を撃ち込んでいるのはミッドウェー島にある航空基地だった。
ミッドウェー島の攻略に関しては、いろいろな難問が持ち上がっていた。
その中で最も問題とされたのは、米機動部隊とミッドウェー基地航空隊のその両方を同時に相手取らなければならない可能性が高かったことだ。
そして、これまでの実績から、同島攻略時には米機動部隊の待ち伏せが有るものだと考えられていた。
さらに悪いことに、米機動部隊とミッドウェー基地の航空機は、一航艦と三航艦の艦上機を足したそれよりも数が多いものと見積もられていた。
いかに精強な一航艦や三航艦といえども、しかし数に勝る相手に挟撃されては大損害は免れない。
だから、連合艦隊司令部内において、これに対応するための様々な案が検討された。
最も多かったのは、三航艦をミッドウェー基地攻撃に充て、一航艦のほうは出現が予想される米機動部隊への対抗戦力にするというものだった。
確かに、それぞれの艦隊ごとに目的や目標が一本化されるのは好ましいことではある。
しかし、一方で数的劣勢を解消することについてはこれが考慮されていない。
だからこの案はあっさりと却下された。
それからも喧々囂々の議論がなされた。
しかし、決定的ともいえる良案は出なかった。
そうした中、某参謀が思いつきを口にする。
「戦艦の主砲で飛行場ごと敵機を焼き払えば、すべて問題は解決するのではないか」
一見したところでは、これは無謀な考えのようにも思えた。
戦艦が飛行場に艦砲射撃を仕掛けようものなら、間違いなくその前に飛行機によって袋叩きにされてしまう。
しかし、飛行機の活動が制限される夜間にこれを実施するのであれば話は違ってくる。
昼の間、戦艦は敵の航空機の航続圏外で韜晦行動に徹し、そして日没とともに猛進、飛行場を主砲の射程圏に捉える。
ただ、この場合は脚の速い戦艦が必要になってくる。
のろまな戦艦では砲撃の最中に夜明けを迎えてしまうか、下手をすれば砲撃ポジションに到達する前に空が明るくなってしまうかもしれない。
そして、帝国海軍にはこのアイデアを成就させるのにうってつけの戦艦があった。
連合艦隊司令長官の山本大将はこのアイデアに飛びついた。
もともと真珠湾攻撃を企図するなど、奇襲が大好きな性格の彼にとって、このような考え方はとても好みに合致していた。
さっそくとばかりに山本長官は幕僚らに細部を詰めさせる。
その幕僚らが諸条件を勘案した結果、「金剛」型戦艦による艦砲射撃についてはこれが成算有りと判断される。
そうなってくると、あとは指揮官の問題だった。
周囲の状況がよく分からない夜間に、しかも自ら敵の飛行機の巣に飛び込んでいくのだ。
そうであれば、多少のことには動じない豪胆で勇猛果敢な人物が良い。
現在、「金剛」型戦艦を主力とする第二艦隊を指揮するのは近藤中将だが、人選としては彼も決して悪くはない。
南方作戦を完遂させたその手腕は評価に値する。
それでも、山本長官としてはベストだと思える人材を起用したかった。
なにせ、ようやくのことで実現にこぎつけたミッドウェー攻略作戦なのだ。
すべての面において完全を期しておきたかった。
その山本長官の目に止まったのが欧州から戻ってきたばかりの角田中将だった。
現在、角田中将は遣欧打撃部隊の指揮官の肩書を持っているが、それも間もなく無くなる。
そうなれば彼はフリーだ。
一方、近藤中将のほうは四月二九日をもって大将へ昇任することが内定している。
第二艦隊司令長官の座を退いてもらうには格好の機会だ。
近藤中将が大将になった際にはひとまず軍事参議官にでもなってもらえばいい。
このことは、帝国海軍では決して珍しい人事ではないから、よけいな勘ぐりをされることも無いはずだ。
そう考えた山本長官は海軍省に手を回す。
そして、自身が希望した人事を通すことに成功する。
そして、そういった経緯を知らない角田長官のほうは今、三六センチ砲のつるべ打ちによって燃え上がるミッドウェー島にその視線を向けていた。
「待ち伏せが得意な米軍も、さすがに『金剛』型戦艦による夜間艦砲射撃はこれを予想していなかったようですな」
なぜか自分と同じタイミングで第二艦隊参謀長に就任した、かつての遣欧打撃部隊の参謀長の見立てに、角田長官も同意の言葉を返す。
夜間攻撃機や、あるいは魚雷艇の襲撃といったものは、今のところは確認されていない。
三六センチ砲弾によってすでに爆砕されたのか、あるいはもともと配備されていなかったのかは分からないが、しかし何よりの安心材料だ。
そのようなことを考えている間にも砲撃は続く。
遠目にも明るさが増していることが分かるミッドウェー島では、おそらく煉獄さながらの惨劇が展開されているのだろう。
「当初予定よりも早めに切り上げますか」
島の明るさから、砲撃の効果が十分に上がったと判断したのだろう。
参謀長が角田長官に質問の形を取った具申をする。
「いや、予定通りの数を撃ち込むまで砲撃は継続する」
敵をすべてやっつけたと見せておいて、しかし意外に取りこぼしが多いのが艦砲射撃だ。
それに、米軍の復旧能力には侮りがたいものがある。
滑走路の穴を埋め、飛行場を回復させることなど、それこそ朝飯前だろう。
ここは慎重を期すべきだった。
たとえ、それが死体蹴りになったとしても、それはそれで構わないと角田長官は割り切っている。
そして、その砲撃は各艦がそれぞれ四〇〇発の主砲弾を撃ち終えるまで続けられた。
一方、短時間のうちに一〇〇〇トンを超える鉄と火薬を叩き込まれたミッドウェー基地のほうは、完全に航空機の運用能力を喪失していた。
第二艦隊
戦艦「比叡」「霧島」「金剛」「榛名」
重巡「愛宕」「高雄」
軽巡「阿武隈」
駆逐艦「朝雲」「山雲」「夏雲」「峯雲」「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」
第一航空艦隊
「蒼龍」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻九、二式艦偵三)
「飛龍」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻九、二式艦偵三)
「瑞鳳」(零戦二一、九七艦攻六)
「祥鳳」(零戦二一、九七艦攻六)
重巡「妙高」「羽黒」
軽巡「鬼怒」
駆逐艦「霞」「霰」「白露」「時雨」「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」
第三航空艦隊
「隼鷹」(零戦二七、九九艦爆一二、九七艦攻九)
「飛鷹」(零戦二七、九九艦爆一二、九七艦攻九)
「龍驤」(零戦二七、九七艦攻六)
「龍鳳」(零戦二一、九七艦攻六)
「千歳」(零戦二一、九七艦攻六)
「千代田」(零戦二一、九七艦攻六)
重巡「摩耶」「那智」
軽巡「由良」
駆逐艦「海風」「山風」「江風」「涼風」「初春」「子日」「若葉」「初霜」「有明」「夕暮」
英戦艦との砲撃戦で傷ついた「長門」と「陸奥」を一刻も早く本土に戻して修理を実施するというもっともらしい理由が有ったが、しかし実態としては厄介払いに近い措置だろう。
ただ、勝ち戦の後の航海だったことで、「長門」艦内の空気はそれほど悪いものではなかった。
それでも、遣欧打撃部隊を指揮した角田長官は、途中退場を宣告されたような何とも言えない気持ちをその胸中に抱えていた。
本土に戻ってからは英雄の扱いだった。
東大西洋海戦で英戦艦との堂々たる砲撃戦に撃ち勝ち、「リヴェンジ」級戦艦を一度に四隻も葬ったのだから、当然と言えば当然だった。
その角田中将は人事面で報奨を得ることになった。
遣欧打撃部隊での指揮が評価され、四月二九日付をもって第二艦隊司令長官に就任することになったのだ。
六隻の戦艦を擁した遣欧打撃部隊に比べ、第二艦隊のほうはそれが四隻と少ないが、しかし臨時編成の遣欧打撃部隊よりも建制化されている第二艦隊のほうが艦隊としての格は明らかに上だ。
そのことに満足を覚えつつ、第二艦隊司令長官として初の実戦任務にあたる角田中将は旗艦「比叡」の艦橋で暗闇の中にぼんやりと浮かび上がる稜線を見据えていた。
すでにMI作戦は発動されていた。
第一航空艦隊とそれに第三航空艦隊の前衛として同作戦に参加していた第二艦隊は、日没とともにミッドウェー島に向けて猛進、その島影を捉えるポジションに到達していた。
「時間です」
参謀長の短い言葉に、角田長官は首肯をもって了解の意を示す。
そして、自身もまた短い命令を吐き出す。
「全艦、所定の手順に従って砲撃を開始せよ」
角田長官の命令一下、「比叡」の主砲が傲然と火を噴き、さらに「霧島」と「金剛」、それに「榛名」も続く。
第三戦隊の「金剛」型戦艦が主砲弾を撃ち込んでいるのはミッドウェー島にある航空基地だった。
ミッドウェー島の攻略に関しては、いろいろな難問が持ち上がっていた。
その中で最も問題とされたのは、米機動部隊とミッドウェー基地航空隊のその両方を同時に相手取らなければならない可能性が高かったことだ。
そして、これまでの実績から、同島攻略時には米機動部隊の待ち伏せが有るものだと考えられていた。
さらに悪いことに、米機動部隊とミッドウェー基地の航空機は、一航艦と三航艦の艦上機を足したそれよりも数が多いものと見積もられていた。
いかに精強な一航艦や三航艦といえども、しかし数に勝る相手に挟撃されては大損害は免れない。
だから、連合艦隊司令部内において、これに対応するための様々な案が検討された。
最も多かったのは、三航艦をミッドウェー基地攻撃に充て、一航艦のほうは出現が予想される米機動部隊への対抗戦力にするというものだった。
確かに、それぞれの艦隊ごとに目的や目標が一本化されるのは好ましいことではある。
しかし、一方で数的劣勢を解消することについてはこれが考慮されていない。
だからこの案はあっさりと却下された。
それからも喧々囂々の議論がなされた。
しかし、決定的ともいえる良案は出なかった。
そうした中、某参謀が思いつきを口にする。
「戦艦の主砲で飛行場ごと敵機を焼き払えば、すべて問題は解決するのではないか」
一見したところでは、これは無謀な考えのようにも思えた。
戦艦が飛行場に艦砲射撃を仕掛けようものなら、間違いなくその前に飛行機によって袋叩きにされてしまう。
しかし、飛行機の活動が制限される夜間にこれを実施するのであれば話は違ってくる。
昼の間、戦艦は敵の航空機の航続圏外で韜晦行動に徹し、そして日没とともに猛進、飛行場を主砲の射程圏に捉える。
ただ、この場合は脚の速い戦艦が必要になってくる。
のろまな戦艦では砲撃の最中に夜明けを迎えてしまうか、下手をすれば砲撃ポジションに到達する前に空が明るくなってしまうかもしれない。
そして、帝国海軍にはこのアイデアを成就させるのにうってつけの戦艦があった。
連合艦隊司令長官の山本大将はこのアイデアに飛びついた。
もともと真珠湾攻撃を企図するなど、奇襲が大好きな性格の彼にとって、このような考え方はとても好みに合致していた。
さっそくとばかりに山本長官は幕僚らに細部を詰めさせる。
その幕僚らが諸条件を勘案した結果、「金剛」型戦艦による艦砲射撃についてはこれが成算有りと判断される。
そうなってくると、あとは指揮官の問題だった。
周囲の状況がよく分からない夜間に、しかも自ら敵の飛行機の巣に飛び込んでいくのだ。
そうであれば、多少のことには動じない豪胆で勇猛果敢な人物が良い。
現在、「金剛」型戦艦を主力とする第二艦隊を指揮するのは近藤中将だが、人選としては彼も決して悪くはない。
南方作戦を完遂させたその手腕は評価に値する。
それでも、山本長官としてはベストだと思える人材を起用したかった。
なにせ、ようやくのことで実現にこぎつけたミッドウェー攻略作戦なのだ。
すべての面において完全を期しておきたかった。
その山本長官の目に止まったのが欧州から戻ってきたばかりの角田中将だった。
現在、角田中将は遣欧打撃部隊の指揮官の肩書を持っているが、それも間もなく無くなる。
そうなれば彼はフリーだ。
一方、近藤中将のほうは四月二九日をもって大将へ昇任することが内定している。
第二艦隊司令長官の座を退いてもらうには格好の機会だ。
近藤中将が大将になった際にはひとまず軍事参議官にでもなってもらえばいい。
このことは、帝国海軍では決して珍しい人事ではないから、よけいな勘ぐりをされることも無いはずだ。
そう考えた山本長官は海軍省に手を回す。
そして、自身が希望した人事を通すことに成功する。
そして、そういった経緯を知らない角田長官のほうは今、三六センチ砲のつるべ打ちによって燃え上がるミッドウェー島にその視線を向けていた。
「待ち伏せが得意な米軍も、さすがに『金剛』型戦艦による夜間艦砲射撃はこれを予想していなかったようですな」
なぜか自分と同じタイミングで第二艦隊参謀長に就任した、かつての遣欧打撃部隊の参謀長の見立てに、角田長官も同意の言葉を返す。
夜間攻撃機や、あるいは魚雷艇の襲撃といったものは、今のところは確認されていない。
三六センチ砲弾によってすでに爆砕されたのか、あるいはもともと配備されていなかったのかは分からないが、しかし何よりの安心材料だ。
そのようなことを考えている間にも砲撃は続く。
遠目にも明るさが増していることが分かるミッドウェー島では、おそらく煉獄さながらの惨劇が展開されているのだろう。
「当初予定よりも早めに切り上げますか」
島の明るさから、砲撃の効果が十分に上がったと判断したのだろう。
参謀長が角田長官に質問の形を取った具申をする。
「いや、予定通りの数を撃ち込むまで砲撃は継続する」
敵をすべてやっつけたと見せておいて、しかし意外に取りこぼしが多いのが艦砲射撃だ。
それに、米軍の復旧能力には侮りがたいものがある。
滑走路の穴を埋め、飛行場を回復させることなど、それこそ朝飯前だろう。
ここは慎重を期すべきだった。
たとえ、それが死体蹴りになったとしても、それはそれで構わないと角田長官は割り切っている。
そして、その砲撃は各艦がそれぞれ四〇〇発の主砲弾を撃ち終えるまで続けられた。
一方、短時間のうちに一〇〇〇トンを超える鉄と火薬を叩き込まれたミッドウェー基地のほうは、完全に航空機の運用能力を喪失していた。
第二艦隊
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軽巡「阿武隈」
駆逐艦「朝雲」「山雲」「夏雲」「峯雲」「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」
第一航空艦隊
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「飛龍」(零戦二七、九九艦爆一八、九七艦攻九、二式艦偵三)
「瑞鳳」(零戦二一、九七艦攻六)
「祥鳳」(零戦二一、九七艦攻六)
重巡「妙高」「羽黒」
軽巡「鬼怒」
駆逐艦「霞」「霰」「白露」「時雨」「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」
第三航空艦隊
「隼鷹」(零戦二七、九九艦爆一二、九七艦攻九)
「飛鷹」(零戦二七、九九艦爆一二、九七艦攻九)
「龍驤」(零戦二七、九七艦攻六)
「龍鳳」(零戦二一、九七艦攻六)
「千歳」(零戦二一、九七艦攻六)
「千代田」(零戦二一、九七艦攻六)
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