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ミッドウェー海戦
第85話 復讐の提督
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ミッドウェー基地が敵の艦砲射撃によってその機能の大半を喪失した。
その凶報が飛び込んできたとき、三個任務部隊を指揮するフレッチャー提督は、これまでに練り上げてきた作戦が完全に瓦解したことを悟る。
ミッドウェー基地には飛行艇を含めれば、それこそ二〇〇機近くの軍用機があった。
しかし、それら機体は一晩にしてまったく役に立たないスクラップと化してしまった。
もともと、フレッチャー提督は日本の機動部隊がミッドウェー島に対して空襲を仕掛けてきたタイミングでその側背を突くつもりでいた。
日本の艦上機がミッドウェー島に対する空襲から母艦に戻り、その収容の最中にこちらの攻撃隊が殺到すれば、それこそ理想的だ。
もし、そこで日本の空母を撃破すれば、珊瑚海海戦で不覚を取った自身の汚名が雪がれる。
つまりは、復仇が果たされるということだ。
しかし、日本の機動部隊はミッドウェー島に攻撃隊を出すこともなく、B17やあるいはB24といった脚の長い重爆だけが往復できる海域で遊弋するだけだった。
それが、戦艦による艦砲射撃を企図しての行動だと分かったのは、実際にミッドウェー島がそれらによって襲われた後だった。
それでも、フレッチャー提督に戦いを避ける意志は無かった。
珊瑚海海戦で乗艦の「ヨークタウン」を沈められ、海上をただ漂うだけの存在に成り下がった時の怒りの炎は、今もフレッチャー提督の中に燻り続けている。
そのフレッチャー提督に残された手駒は「エセックス」と「レキシントン2」の二隻の「エセックス」級空母。
それに、「インデペンデンス」と「プリンストン」の二隻の「インデペンデンス」級空母。
そして、開戦前に整備された空母の中で、唯一の生き残りとなった「レンジャー」の合わせて五隻。
このうち、「エセックス」と「インデペンデンス」で第一任務部隊を形成する。
第二任務部隊は「レキシントン2」と「プリンストン」からなり、残る「レンジャー」が第三任務部隊となっている。
さらに、空母の護衛として六隻の巡洋艦と二四隻の駆逐艦が付き従っている。
また、これら以外にも太平洋艦隊には「ヨークタウン2」と「バンカー・ヒル」の二隻の「エセックス」級空母と、それに「ベロー・ウッド」と「カウペンス」の同じく二隻の「インデペンデンス」級空母があった。
しかし、これら四隻は慣熟訓練が未了だったことで参陣はかなわなかった。
新しく戦列に加わった空母のうち、「エセックス」級空母のほうは基準排水量が二七一〇〇トンにも達する大型正規空母で、建造時には五個飛行隊の合わせて九〇機を運用することとされていた。
このうち戦闘機のほうは三六機が予定されていた。
しかし、日本の機動部隊との戦いで得た戦訓から、これを四八機へと増強している。
このことで、「エセックス」級空母の搭載機数は一〇〇機を超えてしまい、それに伴って飛行甲板の運用が窮屈なものになった。
ただ、戦闘機の不足が原因で沈められるよりはマシだという意見が圧倒的に多かったこともあり、その増載についてはこれがあっさりと認められることになった。
一方、「インデペンデンス」級空母のほうは新型軽巡をベースとしたために格納庫や飛行甲板が狭く、そのことで搭載する機体のほうは二四機の戦闘機とそれに九機の雷撃機の合わせて三三機を基本としていた。
それと、「レンジャー」のほうは雷撃機をすべて降ろし、戦闘機と急降下爆撃機をそれぞれ三六機搭載している。
そして、この日の索敵当番だった第三任務部隊の「レンジャー」は一六機のSBDドーントレス急降下爆撃機をもって日本艦隊の発見に努めた。
そして、これらのうちの一機が六隻の空母を主力とする一群と、さらに別の機体がこちらは四隻の空母を中心とする一群の、合わせて一〇隻の空母を擁する二個機動部隊を発見していた。
「ミッドウェー基地の飛行機が使えなくなった今、発見された二つの機動部隊を同時に叩くことは不可能だ。そこで、まずは六隻の空母を持つ機動部隊の撃滅にその全力を投入する」
そう命令しつつ、フレッチャー提督はひとつの残念な事実に思いを馳せていた。
それは新型戦闘機のことだ。
実のところ、「エセックス」とそれに「レキシントン2」にはF4Fワイルドキャット戦闘機の後継として開発された新型の機体が搭載されていた。
F6Fヘルキャットという名を持つそれは、本来であればその数が揃い出す八月下旬から九月初旬にかけて実戦デビューするはずだった。
しかし、日本軍がミッドウェー島の攻略を企図しているということが明らかになったため、前倒しで初陣に臨むことになったのだ。
そのF6Fは搭乗員の安全を重視し、そのことで堅牢につくられている。
しかし、その分だけ重量がかさみ、全備重量に至ってはこれが六トン近くにまで達している。
超ヘビー級とも言うべき機体だが、しかし二〇〇〇馬力級発動機を搭載することで最高速度のほうは六〇〇キロの大台を突破している。
これは最新型の零戦と比べて、最低でも五〇キロは優速なはずだった。
もし、指揮下にある空母戦闘機隊のそのすべての機体がF6Fで固められていたら。
フレッチャー提督としてはそんな思いを抱かずにはいられない。
しかし、戦場でのタラレバは意味を持たない。
有りあわせの戦力で戦うしかない。
フレッチャー提督の命令一下、三つの任務部隊に配備された五隻の空母がその舳先を風上へと向ける。
真っ先に出撃するのは「エセックス」ならびに「レキシントン2」の戦闘機隊で、それぞれ二四機のF6Fからなる。
そして、それら四八機のF6Fの任務はファイタースイープ、つまりは零戦の撃滅だった。
そのF6Fを駆る搭乗員は、そのいずれもがF6Fの不具合の洗い出しやあるいは戦技研究を任されるほどの腕利きで固められていた。
第二次攻撃隊のほうは第一任務部隊の「エセックス」からF6Fが一二機にSBDが三六機、それにTBFアベンジャー雷撃機が一八機。
「インデペンデンス」からF4Fが一二機にTBFが九機。
第二任務部隊の「レキシントン2」からF6Fが一二機にSBDが三六機、それにTBFが一八機。
「プリンストン」からF4Fが一二機にTBFが九機。
残る第三任務部隊の「レンジャー」からF4Fが一二機にSBDが一八機。
そして、これら第二次攻撃隊の目標は敵空母の撃破だった。
二波にわたる攻撃に二五二機を投入するのに対し、一方で艦隊を守る戦闘機は任務部隊ごとにそれぞれ二四機しか残していない。
つまりは、攻撃に極振りしたということだ。
これは米海軍の意志であり、またフレッチャー提督の決断でもあった。
昨年の珊瑚海海戦の際、フレッチャー提督は味方の空母については可能な限りこれを無傷で持ち帰ってくれという指示を受けて、日本の機動部隊との戦いに臨んでいた。
当時、米海軍が保有する正規空母は四隻にしか過ぎず、そのうえ新型正規空母の一番艦が完成するまでに半年以上もの間が有ったからだ。
しかし、今は違う。
これまでに四隻の「エセックス」級空母が産声を上げ、さらに今年中に三隻乃至四隻の追加が予定されている。
また、同級以外にも一〇隻近い「インデペンデンス」級空母が、こちらは年内にそのすべてが完成する見込みだった。
また、「エセックス」級空母を遥かに上回る装甲空母の起工が目前に迫っているうえに、さらに新型重巡を空母に改造するための設計も進められている。
もはや、空母の喪失を恐れて戦うようなことは、これをやらなくていいのだ。
実際、「エセックス」級空母に関してはすでに三〇隻以上が発注済みだから、一隻や二隻失ったところで、どうということはない。
だから、直掩機の少なさを指摘する幕僚の声に対し、フレッチャー提督が耳を貸すこともなかった。
むしろ、フレッチャー提督としてはその直掩機でさえ、そのすべてを攻撃に割り振りたいというのが本音だった。
いずれにせよ、こちらは日本の機動部隊を相手にノーガードもかくやといった戦法でこれに臨む。
そのことで、味方の空母のうちの何隻かはやられてしまうだろう。
しかし、それは日本側もまた同じだ。
こちらが繰り出した必殺パンチは、必ず日本の空母にヒットする。
そのことを確信し、フレッチャー提督は激戦の舞台となるであろう西の空を見据える。
米日の艨艟が血を流すその時は、すでに間近に迫っていた。
その凶報が飛び込んできたとき、三個任務部隊を指揮するフレッチャー提督は、これまでに練り上げてきた作戦が完全に瓦解したことを悟る。
ミッドウェー基地には飛行艇を含めれば、それこそ二〇〇機近くの軍用機があった。
しかし、それら機体は一晩にしてまったく役に立たないスクラップと化してしまった。
もともと、フレッチャー提督は日本の機動部隊がミッドウェー島に対して空襲を仕掛けてきたタイミングでその側背を突くつもりでいた。
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そのフレッチャー提督に残された手駒は「エセックス」と「レキシントン2」の二隻の「エセックス」級空母。
それに、「インデペンデンス」と「プリンストン」の二隻の「インデペンデンス」級空母。
そして、開戦前に整備された空母の中で、唯一の生き残りとなった「レンジャー」の合わせて五隻。
このうち、「エセックス」と「インデペンデンス」で第一任務部隊を形成する。
第二任務部隊は「レキシントン2」と「プリンストン」からなり、残る「レンジャー」が第三任務部隊となっている。
さらに、空母の護衛として六隻の巡洋艦と二四隻の駆逐艦が付き従っている。
また、これら以外にも太平洋艦隊には「ヨークタウン2」と「バンカー・ヒル」の二隻の「エセックス」級空母と、それに「ベロー・ウッド」と「カウペンス」の同じく二隻の「インデペンデンス」級空母があった。
しかし、これら四隻は慣熟訓練が未了だったことで参陣はかなわなかった。
新しく戦列に加わった空母のうち、「エセックス」級空母のほうは基準排水量が二七一〇〇トンにも達する大型正規空母で、建造時には五個飛行隊の合わせて九〇機を運用することとされていた。
このうち戦闘機のほうは三六機が予定されていた。
しかし、日本の機動部隊との戦いで得た戦訓から、これを四八機へと増強している。
このことで、「エセックス」級空母の搭載機数は一〇〇機を超えてしまい、それに伴って飛行甲板の運用が窮屈なものになった。
ただ、戦闘機の不足が原因で沈められるよりはマシだという意見が圧倒的に多かったこともあり、その増載についてはこれがあっさりと認められることになった。
一方、「インデペンデンス」級空母のほうは新型軽巡をベースとしたために格納庫や飛行甲板が狭く、そのことで搭載する機体のほうは二四機の戦闘機とそれに九機の雷撃機の合わせて三三機を基本としていた。
それと、「レンジャー」のほうは雷撃機をすべて降ろし、戦闘機と急降下爆撃機をそれぞれ三六機搭載している。
そして、この日の索敵当番だった第三任務部隊の「レンジャー」は一六機のSBDドーントレス急降下爆撃機をもって日本艦隊の発見に努めた。
そして、これらのうちの一機が六隻の空母を主力とする一群と、さらに別の機体がこちらは四隻の空母を中心とする一群の、合わせて一〇隻の空母を擁する二個機動部隊を発見していた。
「ミッドウェー基地の飛行機が使えなくなった今、発見された二つの機動部隊を同時に叩くことは不可能だ。そこで、まずは六隻の空母を持つ機動部隊の撃滅にその全力を投入する」
そう命令しつつ、フレッチャー提督はひとつの残念な事実に思いを馳せていた。
それは新型戦闘機のことだ。
実のところ、「エセックス」とそれに「レキシントン2」にはF4Fワイルドキャット戦闘機の後継として開発された新型の機体が搭載されていた。
F6Fヘルキャットという名を持つそれは、本来であればその数が揃い出す八月下旬から九月初旬にかけて実戦デビューするはずだった。
しかし、日本軍がミッドウェー島の攻略を企図しているということが明らかになったため、前倒しで初陣に臨むことになったのだ。
そのF6Fは搭乗員の安全を重視し、そのことで堅牢につくられている。
しかし、その分だけ重量がかさみ、全備重量に至ってはこれが六トン近くにまで達している。
超ヘビー級とも言うべき機体だが、しかし二〇〇〇馬力級発動機を搭載することで最高速度のほうは六〇〇キロの大台を突破している。
これは最新型の零戦と比べて、最低でも五〇キロは優速なはずだった。
もし、指揮下にある空母戦闘機隊のそのすべての機体がF6Fで固められていたら。
フレッチャー提督としてはそんな思いを抱かずにはいられない。
しかし、戦場でのタラレバは意味を持たない。
有りあわせの戦力で戦うしかない。
フレッチャー提督の命令一下、三つの任務部隊に配備された五隻の空母がその舳先を風上へと向ける。
真っ先に出撃するのは「エセックス」ならびに「レキシントン2」の戦闘機隊で、それぞれ二四機のF6Fからなる。
そして、それら四八機のF6Fの任務はファイタースイープ、つまりは零戦の撃滅だった。
そのF6Fを駆る搭乗員は、そのいずれもがF6Fの不具合の洗い出しやあるいは戦技研究を任されるほどの腕利きで固められていた。
第二次攻撃隊のほうは第一任務部隊の「エセックス」からF6Fが一二機にSBDが三六機、それにTBFアベンジャー雷撃機が一八機。
「インデペンデンス」からF4Fが一二機にTBFが九機。
第二任務部隊の「レキシントン2」からF6Fが一二機にSBDが三六機、それにTBFが一八機。
「プリンストン」からF4Fが一二機にTBFが九機。
残る第三任務部隊の「レンジャー」からF4Fが一二機にSBDが一八機。
そして、これら第二次攻撃隊の目標は敵空母の撃破だった。
二波にわたる攻撃に二五二機を投入するのに対し、一方で艦隊を守る戦闘機は任務部隊ごとにそれぞれ二四機しか残していない。
つまりは、攻撃に極振りしたということだ。
これは米海軍の意志であり、またフレッチャー提督の決断でもあった。
昨年の珊瑚海海戦の際、フレッチャー提督は味方の空母については可能な限りこれを無傷で持ち帰ってくれという指示を受けて、日本の機動部隊との戦いに臨んでいた。
当時、米海軍が保有する正規空母は四隻にしか過ぎず、そのうえ新型正規空母の一番艦が完成するまでに半年以上もの間が有ったからだ。
しかし、今は違う。
これまでに四隻の「エセックス」級空母が産声を上げ、さらに今年中に三隻乃至四隻の追加が予定されている。
また、同級以外にも一〇隻近い「インデペンデンス」級空母が、こちらは年内にそのすべてが完成する見込みだった。
また、「エセックス」級空母を遥かに上回る装甲空母の起工が目前に迫っているうえに、さらに新型重巡を空母に改造するための設計も進められている。
もはや、空母の喪失を恐れて戦うようなことは、これをやらなくていいのだ。
実際、「エセックス」級空母に関してはすでに三〇隻以上が発注済みだから、一隻や二隻失ったところで、どうということはない。
だから、直掩機の少なさを指摘する幕僚の声に対し、フレッチャー提督が耳を貸すこともなかった。
むしろ、フレッチャー提督としてはその直掩機でさえ、そのすべてを攻撃に割り振りたいというのが本音だった。
いずれにせよ、こちらは日本の機動部隊を相手にノーガードもかくやといった戦法でこれに臨む。
そのことで、味方の空母のうちの何隻かはやられてしまうだろう。
しかし、それは日本側もまた同じだ。
こちらが繰り出した必殺パンチは、必ず日本の空母にヒットする。
そのことを確信し、フレッチャー提督は激戦の舞台となるであろう西の空を見据える。
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