44 / 67
マリアナ沖海戦
第44話 逆襲の司令長官
しおりを挟む
開戦以降における最大の勝利に、米海軍将兵らの士気は上がっている。
日本軍の最大の要衝であるトラック島に対して太平洋艦隊はこれを奇襲、大戦果を挙げたからだ。
電波傍受、それに諜報員の働きによって三隻の巡洋艦と四隻の駆逐艦、それに三〇隻を上回る商船を撃沈したことが分かっている。
また、これ以外にも複数の小型護衛艦艇の撃沈が確認されていた。
航空機のほうは七〇機あまりを撃墜、さらに二〇〇機以上を地上撃破している。
その一方で、こちらはわずかに二五機を失ったのにしか過ぎない。
彼我の損害比率を考えれば、これはもう圧勝と言ってよかった。
それと、直接の戦果ではないが、しかし一〇〇〇人を超える艦上機のクルーが実戦経験を積んだことは、間違いなく大きな成果だと言っていい。
いくら訓練で好成績を挙げたとしても、しょせん訓練は訓練だ。
今回の戦いで搭乗員らは悪意や殺意を持った相手と対峙し、そしてそういった連中に打ち勝った。
この経験は、搭乗員の血肉となって、彼らをさらなる高みへと導いてくれるはずだ。
だが、それはそれとして、太平洋艦隊司令長官のニミッツ大将は新たに発生した問題に頭を悩ませていた。
一〇月半ばまでにマリアナ諸島を攻略せよとの命令が、海軍上層部よりもたらされたからだ。
そして、それはルーズベルト大統領からの直々の命令だという。
その理由はあまりにも分かりやすい。
米国では大統領選挙が一一月に実施される、
その大統領選挙を前にルーズベルト大統領は大きな手柄が欲しいのだ。
(日本本土奇襲で味を覚え、そしてトラック奇襲でそのことが決定的となったのだろう)
開戦からこれまで、ルーズベルト大統領の支持率は戦闘の結果によって大きく上下動していた。
マーシャル沖海戦の敗北やフィリピンの失陥、それに二度にわたるミッドウェー海戦における惨敗にあたっては、当然のこととして彼の支持率は低下した。
一方で、日本本土奇襲やトラック奇襲に成功した際には、その支持率は顕著な上昇を見せている。
そして、ルーズベルト大統領は選挙を目前としている今、その再現、つまりは勝利を望んでいる。
ニミッツ長官としては、その動機はあまりにもバカバカしいものでしかなかった。
軍事的整合性を考えれば、マリアナ攻略はどんなに早くても年明けに実施すべきなのだ。
そして、その頃であれば、「エセックス」級空母も十分な数が揃っているし、「アイオワ」級戦艦の三番艦や四番艦、それに「アラスカ」級巡洋艦の一番艦や二番艦といった大型水上打撃艦艇も作戦に間に合うだろう。
そして、戦力が多ければ多いほど、逆に将兵が流す血は少なくて済むというのは戦争の真理だ。
しかし、その正論も四選を目指す今のルーズベルト大統領には通じない。
彼には枢軸国、わけてもナチス・ドイツを打倒するという野望にも近い信念があった。
そして、そのためには大統領の椅子が絶対に必要だった。
だから、当選するためであれば、彼は手段を選ばない。
実際に一〇月中のマリアナ攻略を自分たちに強要しているのだから、そのことは間違いない。
結局、そのトバッチリを食らったのが太平洋艦隊司令長官であるニミッツ大将であり、また部下の将兵たちだった。
ただ、ニミッツ長官は今回の作戦について、これが成算無しだとは考えていない。
「エセックス」級空母の大量就役が始まったことで、昨年までの絶望的な空母戦力の格差は、それこそ無視できるくらいにまで縮まったからだ。
それに、ニミッツ長官自身の矜持の問題もある。
本来であれば、第二次ミッドウェー海戦が終わった時点で自身の更迭は、これを免れないものとニミッツ長官は認識していた。
実際、米海軍上層部の中にはニミッツ長官の更迭を訴える者もいるという。
ニミッツ長官自身にしたところで、一度の海戦で空母と戦艦を合わせて一五隻も失った最高指揮官がその職を解かれないことなど、それこそあり得ないと考えていたくらいだ。
しかし、現実にはニミッツ長官の首はいまだにつながっている。
その理由をニミッツ長官は理解している。
自分を更迭すれば、それはルーズベルト大統領の責任問題に波及するからだ。
ニミッツ長官、さらには前任のキンメル提督の太平洋艦隊司令長官への就任を強く推したのは誰あろうルーズベルト大統領その人だった。
その彼が推薦した司令長官が、しかも二人も立て続けに更迭されたのであれば、国民は間違いなく任命者であるルーズベルト大統領の失態として認識するだろう。
そして、そのことを彼は恐れている。
(理由が何であれ、首がつながったというのであれば、二度にわたるミッドウェー海戦のリベンジを果たすだけだ)
そう考えて、ニミッツ長官はマリアナ攻略作戦に参加が可能な戦力を思い起こす。
主力となるのはもちろん七隻の「エセックス」級空母とそれに五隻の「インデペンデンス」級空母だ。
作戦開始があと三カ月遅ければ「シャングリラ」と「ランドルフ」それに「ボノム・リシャール」の三隻の「エセックス」級空母を戦列に加えられたはずなのだが、しかし、戦争でたらればを言い出したらきりがない。
それに、空母の数では劣勢だが、しかし肝心の艦上機の数の比較で言えば、日本海軍のそれに対して遜色は無いはずだ。
水上打撃艦艇のほうは戦艦が一〇隻も参加するから問題は無いように思える。
しかし、このうちで新型戦艦は「アイオワ」と「ニュージャージー」の二隻のみでしかない。
残りは最高速力が二〇ノット程度しか発揮できない旧式戦艦だから、こちらは船団護衛かあるいは上陸支援程度にしか使えない。
なので、艦隊決戦における戦力としてはカウントできない。
ただ、一方で補助艦艇は充実していた。
戦艦や空母に比べて巡洋艦や駆逐艦は短期間で建造できるから、その分だけ数を揃えやすいことが大きな理由だった。
ただ、これら巡洋艦や駆逐艦については、船団を護衛する部隊にも配備する必要があったから、それほど余裕があるわけでもなかった。
そのようなことを考えながら、ニミッツ長官は編成表にその視線を向ける。
そこにはマリアナ攻略作戦に参加する、つまりは連合艦隊を打ち破るために集結しつつある艨艟の名が記されていた。
日本軍の最大の要衝であるトラック島に対して太平洋艦隊はこれを奇襲、大戦果を挙げたからだ。
電波傍受、それに諜報員の働きによって三隻の巡洋艦と四隻の駆逐艦、それに三〇隻を上回る商船を撃沈したことが分かっている。
また、これ以外にも複数の小型護衛艦艇の撃沈が確認されていた。
航空機のほうは七〇機あまりを撃墜、さらに二〇〇機以上を地上撃破している。
その一方で、こちらはわずかに二五機を失ったのにしか過ぎない。
彼我の損害比率を考えれば、これはもう圧勝と言ってよかった。
それと、直接の戦果ではないが、しかし一〇〇〇人を超える艦上機のクルーが実戦経験を積んだことは、間違いなく大きな成果だと言っていい。
いくら訓練で好成績を挙げたとしても、しょせん訓練は訓練だ。
今回の戦いで搭乗員らは悪意や殺意を持った相手と対峙し、そしてそういった連中に打ち勝った。
この経験は、搭乗員の血肉となって、彼らをさらなる高みへと導いてくれるはずだ。
だが、それはそれとして、太平洋艦隊司令長官のニミッツ大将は新たに発生した問題に頭を悩ませていた。
一〇月半ばまでにマリアナ諸島を攻略せよとの命令が、海軍上層部よりもたらされたからだ。
そして、それはルーズベルト大統領からの直々の命令だという。
その理由はあまりにも分かりやすい。
米国では大統領選挙が一一月に実施される、
その大統領選挙を前にルーズベルト大統領は大きな手柄が欲しいのだ。
(日本本土奇襲で味を覚え、そしてトラック奇襲でそのことが決定的となったのだろう)
開戦からこれまで、ルーズベルト大統領の支持率は戦闘の結果によって大きく上下動していた。
マーシャル沖海戦の敗北やフィリピンの失陥、それに二度にわたるミッドウェー海戦における惨敗にあたっては、当然のこととして彼の支持率は低下した。
一方で、日本本土奇襲やトラック奇襲に成功した際には、その支持率は顕著な上昇を見せている。
そして、ルーズベルト大統領は選挙を目前としている今、その再現、つまりは勝利を望んでいる。
ニミッツ長官としては、その動機はあまりにもバカバカしいものでしかなかった。
軍事的整合性を考えれば、マリアナ攻略はどんなに早くても年明けに実施すべきなのだ。
そして、その頃であれば、「エセックス」級空母も十分な数が揃っているし、「アイオワ」級戦艦の三番艦や四番艦、それに「アラスカ」級巡洋艦の一番艦や二番艦といった大型水上打撃艦艇も作戦に間に合うだろう。
そして、戦力が多ければ多いほど、逆に将兵が流す血は少なくて済むというのは戦争の真理だ。
しかし、その正論も四選を目指す今のルーズベルト大統領には通じない。
彼には枢軸国、わけてもナチス・ドイツを打倒するという野望にも近い信念があった。
そして、そのためには大統領の椅子が絶対に必要だった。
だから、当選するためであれば、彼は手段を選ばない。
実際に一〇月中のマリアナ攻略を自分たちに強要しているのだから、そのことは間違いない。
結局、そのトバッチリを食らったのが太平洋艦隊司令長官であるニミッツ大将であり、また部下の将兵たちだった。
ただ、ニミッツ長官は今回の作戦について、これが成算無しだとは考えていない。
「エセックス」級空母の大量就役が始まったことで、昨年までの絶望的な空母戦力の格差は、それこそ無視できるくらいにまで縮まったからだ。
それに、ニミッツ長官自身の矜持の問題もある。
本来であれば、第二次ミッドウェー海戦が終わった時点で自身の更迭は、これを免れないものとニミッツ長官は認識していた。
実際、米海軍上層部の中にはニミッツ長官の更迭を訴える者もいるという。
ニミッツ長官自身にしたところで、一度の海戦で空母と戦艦を合わせて一五隻も失った最高指揮官がその職を解かれないことなど、それこそあり得ないと考えていたくらいだ。
しかし、現実にはニミッツ長官の首はいまだにつながっている。
その理由をニミッツ長官は理解している。
自分を更迭すれば、それはルーズベルト大統領の責任問題に波及するからだ。
ニミッツ長官、さらには前任のキンメル提督の太平洋艦隊司令長官への就任を強く推したのは誰あろうルーズベルト大統領その人だった。
その彼が推薦した司令長官が、しかも二人も立て続けに更迭されたのであれば、国民は間違いなく任命者であるルーズベルト大統領の失態として認識するだろう。
そして、そのことを彼は恐れている。
(理由が何であれ、首がつながったというのであれば、二度にわたるミッドウェー海戦のリベンジを果たすだけだ)
そう考えて、ニミッツ長官はマリアナ攻略作戦に参加が可能な戦力を思い起こす。
主力となるのはもちろん七隻の「エセックス」級空母とそれに五隻の「インデペンデンス」級空母だ。
作戦開始があと三カ月遅ければ「シャングリラ」と「ランドルフ」それに「ボノム・リシャール」の三隻の「エセックス」級空母を戦列に加えられたはずなのだが、しかし、戦争でたらればを言い出したらきりがない。
それに、空母の数では劣勢だが、しかし肝心の艦上機の数の比較で言えば、日本海軍のそれに対して遜色は無いはずだ。
水上打撃艦艇のほうは戦艦が一〇隻も参加するから問題は無いように思える。
しかし、このうちで新型戦艦は「アイオワ」と「ニュージャージー」の二隻のみでしかない。
残りは最高速力が二〇ノット程度しか発揮できない旧式戦艦だから、こちらは船団護衛かあるいは上陸支援程度にしか使えない。
なので、艦隊決戦における戦力としてはカウントできない。
ただ、一方で補助艦艇は充実していた。
戦艦や空母に比べて巡洋艦や駆逐艦は短期間で建造できるから、その分だけ数を揃えやすいことが大きな理由だった。
ただ、これら巡洋艦や駆逐艦については、船団を護衛する部隊にも配備する必要があったから、それほど余裕があるわけでもなかった。
そのようなことを考えながら、ニミッツ長官は編成表にその視線を向ける。
そこにはマリアナ攻略作戦に参加する、つまりは連合艦隊を打ち破るために集結しつつある艨艟の名が記されていた。
134
あなたにおすすめの小説
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
現在1945年夏まで執筆
日英同盟不滅なり
竹本田重朗
歴史・時代
世界は二度目の世界大戦に突入した。ヒトラー率いるナチス・ドイツがフランス侵攻を開始する。同時にスターリン率いるコミンテルン・ソビエトは満州に侵入した。ヨーロッパから極東まで世界を炎に包まれる。悪逆非道のファシストと共産主義者に正義の鉄槌を下せ。今こそ日英同盟が島国の底力を見せつける時だ。
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
以上をご理解の上でお読みください
暁のミッドウェー
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。
真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。
一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。
そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。
ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。
日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。
その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。
(※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
電子の帝国
Flight_kj
歴史・時代
少しだけ電子技術が早く技術が進歩した帝国はどのように戦うか
明治期の工業化が少し早く進展したおかげで、日本の電子技術や精密機械工業は順調に進歩した。世界規模の戦争に巻き込まれた日本は、そんな技術をもとにしてどんな戦いを繰り広げるのか? わずかに早くレーダーやコンピューターなどの電子機器が登場することにより、戦場の様相は大きく変わってゆく。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる