『働いたら負けだと思ったので、何もしなかったら勝手に勝ちました』

ふわふわ

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第22話 完全に無関係

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第22話 完全に無関係


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 謝罪の書簡が届けられてから、数日が経った。

 シグナス公爵家には、目立った変化はない。
 来客が増えることもなければ、
 王宮からの追加の連絡もない。

 それが、最も正しい反応だった。


---

「……何も起きませんね」

 朝の紅茶を用意しながら、マリエがぽつりと言う。

「起きる理由がありませんもの」

 ファワーリスは、穏やかに答える。

「謝罪は、過去を整理するための行為です。
 未来を要求するものではありません」

「……確かに」

 マリエは頷きながらも、少し不思議そうだ。

「王宮と、完全に切れた……
 という感じがします」

「ええ」

 ファワーリスは、はっきりと肯定した。

「ようやく、
 完全に“無関係”になりました」


---

 王宮では、その“無関係”という状態を、
 想像以上に強く実感していた。

「……もう、相談する相手ではないのだな」

 若い官僚の呟きに、
 宰相は静かに答える。

「最初から、
 相談できる立場ではなかった」

 王宮と彼女の関係は、
 婚約という名の“近道”で歪められていただけだ。

 それが、正しい距離に戻った。
 ただ、それだけ。


---

 王太子レオンハルトは、
 報告を聞きながら、小さく息を吐いた。

「返事も、条件も、要求もない……か」

「はい。
 本当に、何も」

「……それが、答えだな」

 彼は、ようやく理解していた。

 謝罪は、
 関係修復の第一歩ではなかった。

 関係を終わらせるための、区切りだったのだ。


---

 一方、ファワーリスは、
 公爵領の新しい温室予定地から届いた報告書を読んでいた。

「順調、ですね」

「はい。
 管理人と研究者の判断で、
 作付け計画も決まったそうです」

「では、私はもう確認する必要もありませんわ」

 それだけ言って、書類を閉じる。

 口出ししない。
 指示しない。
 責任も持たない。

 だが、
 現場は問題なく回っている。


---

「お嬢様」

 マリエが、少しだけ笑いながら言う。

「本当に……
 何もしませんね」

「ええ」

 ファワーリスは、当然のように答える。

「何もしなくて済むように、
 距離を取ったのですから」


---

 午後の庭園は、静かだった。

 風に揺れる木々。
 遠くで聞こえる鳥の声。

(王宮は、もう他人)

 そう思っても、
 胸は少しも痛まない。

(依存されないというのは)

 こんなにも、
 穏やかなことなのだ。


---

 その日の夜、
 ファワーリスは日記に一行だけ書いた。

『完全に無関係』

 それは、
 断絶でも、拒絶でもない。

 正しい距離の名前だった。

 彼女は今日も、何もしない。
 だがそれは、
 何も失っていない証拠でもあった。

 むしろ――
 ようやく、
 すべてを手放せたという証だった。
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