『働いたら負けだと思ったので、何もしなかったら勝手に勝ちました』

ふわふわ

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第21話 謝罪という選択肢

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第21話 謝罪という選択肢


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 それは、誰もが口に出さずに避けてきた話題だった。

「……謝罪、という形は」

 宰相の言葉に、会議室の空気が一瞬だけ揺れる。

 反発はない。
 だが、賛同もない。

 謝罪とは、
 過去の判断が誤っていたと認める行為だ。
 そしてそれは、
 誰が誤ったのかを明確にする行為でもある。

「誰が、誰に?」

 誰かが、慎重に問い返す。

 宰相は、答えを濁さなかった。

「王宮が、ファワーリス・シグナスに」

 静まり返る。

 怒号も、否定も起きない。
 ただ、重さだけが落ちた。


---

 王太子レオンハルトは、その提案を聞き、深く息を吐いた。

「……謝罪か」

 それは敗北宣言ではない。
 だが、誇りを削る行為だ。

「今さら、意味があるでしょうか」

 側近の問いに、王太子はしばらく黙った。

「意味は……
 相手のためではない」

 低い声。

「自分たちのためだ」

 間違いを認めなければ、
 同じことを、必ず繰り返す。

 それだけは、はっきりしていた。


---

 数日後。

 王宮から、シグナス公爵家へ
 正式な書簡が届けられた。

 呼び戻しでも、提案でもない。
 条件提示もない。

 ただ、
 過去の婚約破棄手続きの不備、
 責任の所在を曖昧にしたこと、
 そして、その結果生じた混乱について――
 謝罪のみが、簡潔に記されていた。


---

 ファワーリスは、書簡を読み終え、
 そっと机に置いた。

 しばらくの沈黙。

「……どう、なさいますか?」

 マリエが、慎重に尋ねる。

「どうもしませんわ」

 即答だった。

「受け取ります。
 それで終わりです」

「お返事は?」

「必要ありません」

 マリエは、少し戸惑う。

「ですが……
 せめて、受領の返事くらいは……」

「返事を書くということは、
 その謝罪を“評価”する立場に立つことです」

 ファワーリスは、静かに言う。

「私は、
 誰かの反省を採点する役目を
 引き受けるつもりはありません」


---

 その夜、
 王宮では「返事がない」ことが報告された。

「……拒否、でしょうか」

 誰かが不安げに言う。

 王太子は、首を横に振った。

「違う」

 短く、しかし確信をもって。

「受け取られた。
 それ以上でも、それ以下でもない」

 それで十分だった。

 謝罪とは、
 許しを得るためのものではない。
 自分たちが前に進むための行為なのだから。


---

 ファワーリスは、その夜も、
 静かな時間を過ごしていた。

 謝罪を受け取ったからといって、
 何かが変わるわけではない。

(謝る、という選択肢が選ばれたなら)

 それは、
 王宮が“自分で立つ”方向を選んだということ。

(……ならば)

 私が、何かをする必要はありませんわ。

 何もしない。
 それでいい。

 謝罪という選択肢が選ばれた時点で、
 この物語の主導権は、
 完全に彼女の手を離れていた。

 そしてそれは、
 彼女にとって
 最も心地よい結末の形だった。
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