『働いたら負けだと思ったので、何もしなかったら勝手に勝ちました』

ふわふわ

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第27話 善意という名の圧力

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第27話 善意という名の圧力


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 期待を拒む、と決めてからしばらく。

 表立った動きは何も起きていない。
 だが、水面下では、別の種類の“圧力”が静かに形を取り始めていた。

「……最近、
 “善意”を装ったお誘いが増えております」

 朝の報告で、マリエが少し疲れた声を出す。

「善意、ですか」

 ファワーリスは、紅茶をかき混ぜながら答えた。

「はい。
 “お嬢様のためを思って”
 “才能を埋もれさせるのは惜しい”
 といった類の言葉です」

 ファワーリスは、小さく息を吐く。

「分かりやすいですわね」


---

 その日の午後、
 公爵家には旧知の貴族夫人が訪れていた。

「あなたほどの方が、
 このまま静かにしているなんて……」

 柔らかな笑み。
 心配しているような口調。

「世間は、
 あなたが“遠慮している”と思っていますのよ?」

 その言葉に、
 ファワーリスは視線を上げた。

「遠慮ではありませんわ」

 穏やかだが、迷いのない声。

「必要がないだけです」

 夫人は、一瞬だけ言葉に詰まる。

「でも……
 あなたが動けば、
 もっと良くなる方々が……」

「それは」

 ファワーリスは、静かに遮った。

「私が動かなければ、
 成り立たない状態が
 すでに歪んでいます」

 夫人は、何も言えなくなった。


---

 その夜、
 マリエがぽつりと尋ねる。

「お嬢様は……
 冷たいと思われるのが、
 怖くありませんか?」

 ファワーリスは、少し考えてから答えた。

「冷たいのではありません」

 窓の外を見ながら、続ける。

「期待に応えないだけです」

「……違い、でしょうか」

「大きな違いですわ」

 彼女は、はっきりと言った。

「善意は、
 拒まれると怒りに変わります。
 それは最初から、
 相手のためではなかった証拠です」


---

 王宮でも、
 同じ空気を感じ取っている者がいた。

「……彼女は、
 本当に戻らないつもりだな」

 宰相の呟きに、
 若い官僚が答える。

「はい。
 しかも、
 “誰かを突き放している”ようで、
 実際は何も奪っていません」

「奪っていない、か」

「ええ。
 ただ、引き受けないだけです」

 その言葉に、
 宰相は静かに頷いた。


---

 夜。

 ファワーリスは日記を開き、
 短く書き記す。

『善意は、断ると敵になる』

 ペンを置き、
 小さく微笑む。

(だからこそ)

 最初から、
 引き受けない。

 誰かの期待も、
 誰かの善意も、
 背負わない。

 それは、
 孤立ではない。

 自立だ。


---

 ファワーリス・シグナスは、
 今日も何もしなかった。

 だが、
 善意という名の圧力を、
 静かに、確実に無効化していた。

 何もしない。
 それは、
 最も誤解されやすく、
 最も強い選択だった。
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