何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ

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第三十二話 呼ばれない会議

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第三十二話 呼ばれない会議

 

 王国の外務局に、ぽっかりと空白の時間が生まれていた。

 午前中に予定されていた定例会議。
 中立都市と周辺国を交えた、調整の場。

 ――その招待が、来ていない。

 

「……日程、変更でしょうか」

 若い官僚が、予定表を何度も確認する。

「いや」

 上司は、静かに首を振った。

「今回は、
 最初から呼ばれていない」

 言葉が落ちる。
 重く、乾いた音を立てて。

 

 王太子のもとに、その報告が届いたのは昼前だった。

「理由は?」

「帝国主導で、
 “迅速な合意形成のため”と」

「……そうか」

 それ以上、
 王太子は何も言わなかった。

 反論は、できない。
 抗議は、成り立たない。

 なぜなら――
 遅らせたのは、王国自身だからだ。

 

 外務局では、別の動きも起きていた。

「今回の合意内容、
 すでに大枠が固まっています」

「王国の意見は?」

「参考資料として、
 後日受け取るそうです」

 参考資料。

 決定に影響しない、
 読むかどうかも分からない位置づけ。

 

 会議室に、
 小さな苛立ちが広がる。

「それでは、
 ただの報告先ではないですか」

「違う」

 年配の官僚が、
 苦く言う。

「報告先ですら、
 “必要な場合のみ”になっている」

 

 一方、帝国。

 会議室には、
 中立都市の代表と、
 周辺国の使節が揃っていた。

「王国は?」

「今回は、
 正式参加ではありません」

 誰も驚かない。

 理由を聞く者もいない。

 それが、
 今の前提だからだ。

 

「では、進めましょう」

 帝国側の進行役が、淡々と告げる。

 議論は、
 簡潔で、具体的だった。

 期限。
 条件。
 撤退ライン。

 全員が、
 “今、決めるべきこと”だけに集中している。

 

 宰相府で、
 ネフェリアは進捗報告を受けていた。

「王国は、
 今回の会議に参加していません」

「承知しています」

 彼女は、
 淡々と答える。

「後から意見が来る可能性は?」

「あります」

「では、
 読める形で受け取りましょう」

 それだけだ。

 反発も、
 拒絶もない。

 ただ、
 順番が変わっただけだ。

 

 王国では、
 ようやく現実を言葉にする者が現れ始めていた。

「我々は、
 “関係者”ではなくなりつつある」

「“当事者”から、
 “周辺国”へ……」

 誰も、
 声を荒げない。

 怒る段階は、
 もう過ぎている。

 

 夜。

 王太子は、
 執務室で一人、
 空白の予定表を見つめていた。

 そこには、
 かつて当然のように入っていた会議名が、
 一つもない。

「……呼ばれない、か」

 小さく呟く。

 信用を失ったわけではない。
 敵視されたわけでもない。

 ただ――
 必要とされなくなった。

 

 同じ夜、帝国。

 ネフェリアは、
 簡単な覚書を書き留めていた。

 “会議に呼ぶ基準”
 “判断を共有する範囲”

 それらは、
 すでに暗黙の了解になりつつある。

 

「……会議に呼ばれる、というのは」

 彼女は、
 ペンを置いて呟く。

「信頼よりも前に、
 “期待”がある証です」

 期待されているから、
 席が用意される。

 期待されていないなら、
 席は、
 最初から存在しない。

 

 王国は、
 まだ国として存続している。

 だが、
 呼ばれない会議が増えるたびに、
 その存在感は、
 静かに、
 削られていく。

 声を上げる場所がない国は、
 いずれ、
 声の出し方そのものを
 忘れてしまう。

 それが、
 今、王国が立っている地点だった。
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