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第16話 責任の継承
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第16話 責任の継承
王宮の執務室に、朝の光が差し込む。
アルベルトは、机に広げた組織図を静かに見つめていた。
かつては一枚で済んでいた図が、今は複雑な線で結ばれている。
分担、監督、報告――それぞれの役割を明確にするための、試行錯誤の跡だ。
(……重いな)
誰か一人に集約していた責任を、分け合う。
言葉にすれば簡単だが、実際には摩擦と時間を伴う。
扉が叩かれ、財務官と外務官が同時に入室した。
「殿下。新体制での初回決裁が揃いました」
差し出された書類を受け取り、アルベルトは一つずつ目を通す。
以前なら、迷いなく承認していた案件だ。
だが今日は、確認のために質問を重ねる。
「この条件付き合意の解除基準は?」
「数値で明示しております。市場変動が一定範囲を超えた場合です」
「外交文言の“留保”は、相手国のどの懸念に対応している?」
「主権への誤解を避けるためです。最悪の解釈を先に潰しています」
短いやり取りの中で、アルベルトは確かな変化を感じていた。
判断の“材料”が、初めて彼の手元に揃っている。
「……よし。承認する」
二人が一礼して退出する。
その背中を見送りながら、アルベルトは思う。
(これは、彼女のやり方だ)
だが、もう彼女はいない。
代わりにいるのは、責任を理解し始めた自分と、役割を背負う官たちだ。
午後、貴族院との定例協議が行われた。
以前のような紛糾はない。代わりに、確認と修正が淡々と続く。
「決裁は遅いが、戻らない」
「責任の所在が明確だ」
評価は厳しいが、否定ではなかった。
老侯爵が、ぽつりと呟く。
「……ようやく、王宮が王宮らしくなった」
アルベルトは、その言葉を胸に刻む。
夜、公爵家。
エレノアは書斎で帳簿を閉じ、深く息を吐いた。
商会から届く報告は安定し、過度な相談も減っている。
“線の外”で整える役割が、少しずつ不要になり始めているのだ。
(いい兆しですわ)
それは、彼女にとっても解放だった。
窓の外で、風が木々を揺らす。
名を持たぬ秩序は、名を持つ体制へと、静かに継承されつつある。
数日後、アルベルトは短い覚書を作成した。
――条件付き合意と段階履行を、恒常制度として明文化する。
――決裁前の整理責任者を置き、最終責任は王太子が負う。
署名を終え、ペンを置く。
(責任は、逃がさない)
それが、彼の答えだった。
同じ夜、エレノアは短い便りを書く。
――体制が整い始めていますね。
――これ以上の助言は、不要でしょう。
返事を期待しない一文。
だが、確かな信頼が滲んでいる。
王宮は、依存から継承へと移った。
外の秩序は、内の責任に引き渡される。
責任は、個人から体制へ。
それが、この国が選んだ成長だった。
そしてアルベルトは、初めて実感していた。
王であるとは、支えられることではない。
支えを受け継ぎ、次へ渡すことなのだと。
王宮の執務室に、朝の光が差し込む。
アルベルトは、机に広げた組織図を静かに見つめていた。
かつては一枚で済んでいた図が、今は複雑な線で結ばれている。
分担、監督、報告――それぞれの役割を明確にするための、試行錯誤の跡だ。
(……重いな)
誰か一人に集約していた責任を、分け合う。
言葉にすれば簡単だが、実際には摩擦と時間を伴う。
扉が叩かれ、財務官と外務官が同時に入室した。
「殿下。新体制での初回決裁が揃いました」
差し出された書類を受け取り、アルベルトは一つずつ目を通す。
以前なら、迷いなく承認していた案件だ。
だが今日は、確認のために質問を重ねる。
「この条件付き合意の解除基準は?」
「数値で明示しております。市場変動が一定範囲を超えた場合です」
「外交文言の“留保”は、相手国のどの懸念に対応している?」
「主権への誤解を避けるためです。最悪の解釈を先に潰しています」
短いやり取りの中で、アルベルトは確かな変化を感じていた。
判断の“材料”が、初めて彼の手元に揃っている。
「……よし。承認する」
二人が一礼して退出する。
その背中を見送りながら、アルベルトは思う。
(これは、彼女のやり方だ)
だが、もう彼女はいない。
代わりにいるのは、責任を理解し始めた自分と、役割を背負う官たちだ。
午後、貴族院との定例協議が行われた。
以前のような紛糾はない。代わりに、確認と修正が淡々と続く。
「決裁は遅いが、戻らない」
「責任の所在が明確だ」
評価は厳しいが、否定ではなかった。
老侯爵が、ぽつりと呟く。
「……ようやく、王宮が王宮らしくなった」
アルベルトは、その言葉を胸に刻む。
夜、公爵家。
エレノアは書斎で帳簿を閉じ、深く息を吐いた。
商会から届く報告は安定し、過度な相談も減っている。
“線の外”で整える役割が、少しずつ不要になり始めているのだ。
(いい兆しですわ)
それは、彼女にとっても解放だった。
窓の外で、風が木々を揺らす。
名を持たぬ秩序は、名を持つ体制へと、静かに継承されつつある。
数日後、アルベルトは短い覚書を作成した。
――条件付き合意と段階履行を、恒常制度として明文化する。
――決裁前の整理責任者を置き、最終責任は王太子が負う。
署名を終え、ペンを置く。
(責任は、逃がさない)
それが、彼の答えだった。
同じ夜、エレノアは短い便りを書く。
――体制が整い始めていますね。
――これ以上の助言は、不要でしょう。
返事を期待しない一文。
だが、確かな信頼が滲んでいる。
王宮は、依存から継承へと移った。
外の秩序は、内の責任に引き渡される。
責任は、個人から体制へ。
それが、この国が選んだ成長だった。
そしてアルベルトは、初めて実感していた。
王であるとは、支えられることではない。
支えを受け継ぎ、次へ渡すことなのだと。
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