『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ

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第37話 戻し方の作法

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第37話 戻し方の作法

 余力を削った翌日は、派手な達成感がない。
 代わりに残るのは、静かな疲労と、次の問いだ。
 どう戻すか。

 アルベルトは朝の報告を聞き終え、すぐに指示を出さなかった。
 被害は抑えられ、現場は落ち着いている。
 だからこそ、今は“回復”に目を向ける。

「削った分を、数字で見せてくれ」

 老侯爵が頷き、一覧が並ぶ。
 時間、集中、裁量。
 見えない資源が、見える形にされている。

「戻し方は、三段階だ」

 アルベルトは言葉を選ぶ。

「まず、止める。次に、休ませる。最後に、戻す」

 追加施策は凍結。
 決裁は翌日回し。
 交代制の休みを、例外なく回す。

「英雄はいらない。通常運転に戻る」

 称賛は、回復を遅らせる。
 彼は、それを知っていた。

 午前中、各部署に“回復モード”が通達された。
 拍子抜けするほど、淡々と。

 一方、領地。
 エレノアも同じ朝を迎えていた。
 応急対応は終わり、被害は限定的。

「今日から、戻します」

 彼女は、作業表を裏返す。

「延長はしない。休みは増やす」

 現場から、安堵の息が漏れる。

「でも、遅れが……」

「遅れは、説明で埋めます。疲れは、休みでしか戻りません」

 昼、王宮では“何もしない時間”が増えた。
 会議室は空き、回廊は静か。

 若い官が不安そうに言う。

「本当に、これで?」

「これでいい。回復は、静かに起きる」

 アルベルトは、机に触れない。

 同じ昼、領地では市場が早仕舞いになった。
 理由は掲示板に短く。

――回復のため
――明日は通常

 人々は頷き、帰路につく。

 午後、王宮に一件の問い合わせが来る。
 余力を使った件の“評価”を求める声。

「評価は、出さない」

 アルベルトは答える。

「結果は共有する。称賛は、休みを削る」

 数字だけを公開し、言葉を足さない。

 同じ午後、領地でも噂が立つ。
 「よくやった」と。

 エレノアは、軽く首を振る。

「次に備えただけです」

 夕刻。
 王宮の灯りは、いつもより早く落ちる。
 領地の屋敷でも、笑い声が戻る。

 アルベルトは、翌週の予定を見直し、空白を増やす。
 エレノアは、赤で書いた“回復計画”に、青で線を引く。

――完了。

 戻し方の作法は、派手ではない。
 止め、休ませ、静かに戻す。

 王は、称賛を抑えて回復を守り、
 公爵令嬢は、説明で遅れを引き受ける。

 交わらぬ道でも、同じ所作が行われる。
 削った余力は、確かに戻った。

 そして次に残るのは、
 余力を削らずに守るための、もう一段深い知恵だった。
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