『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ

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第40話 続けるという約束

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第40話 続けるという約束

 見張る役目が分散され、条件が現場に根づいたあとに残るのは、
 派手ではないが、最も難しい問いだった。
 どうやって、それを続けるのか。

 アルベルトは朝の回覧を閉じ、珍しく何も言わずに立ち上がった。
 窓辺に立ち、王都を見下ろす。

 騒ぎはない。
 混乱もない。
 だが、それは「終わった」からではなく、「続いている」からだ。

(続けるには、誓いはいらない)

 誓いは、破られる前提で立てられる。
 必要なのは、約束が破られても戻れる構造だ。

 老侯爵が、控えめに尋ねる。

「陛下。制度として固定なさいますか?」

「しない」

 即答だった。

「固定すると、守る理由が“決まりだから”になる。
 それでは、見張りが眠る」

 続けるために、少しずつ変わり続ける。

 アルベルトは、最後の一手を打つ。

「条件と見張りを、定期的に疑う日を作る」

 年に二度。
 全体を止めず、半日だけ。

「この条件は、今も必要か。
 見張りは、機能しているか」

 答えは、強制しない。
 疑うこと自体を、続ける。

 午前中、その日程が共有された。
 誰も拍手しない。
 だが、誰も反対しない。

 一方、領地。
 エレノアは同じ問いを、別の形で終わらせようとしていた。

 集会所で、彼女は短く言う。

「毎年、やめるものを決めます」

 人々がざわつく。

「続けるものではなく?」

「続けるものは、残ります。
 やめると決めたものだけ、終わります」

 惰性を断つ。
 それが、続けるための約束だ。

 昼、王宮では若い官がぽつりと呟いた。

「……終わりが、決まっていると楽ですね」

「終わりがあるから、続けられる」

 アルベルトは、振り返らずに答える。

 同じ昼、領地では“やめる候補”が箱に入れられ始めた。
 不満は出ない。
 理由が書かれているからだ。

 午後、王宮で一件の見張り報告が上がる。
 条件は満たしているが、形骸化の兆し。

「次の疑う日に、扱う」

 即断しない。
 約束に預ける。

 同じ午後、領地では“やめる箱”から一件が外される。
 必要だと分かったからだ。

 夕刻。
 王宮の灯りは穏やかで、回廊は静か。
 領地の屋敷でも、人々は早めに家路につく。

 アルベルトは、白紙を引き出しに戻し、鍵をかけない。
 エレノアは、帳簿を閉じ、最後の頁に一行だけ書く。

――続けるという約束。

 続けるという約束は、未来への宣言ではない。
 今日、疑い、やめ、戻れるという合意だ。

 王は、疑う日を置き、
 公爵令嬢は、やめる勇気を残す。

 交わらぬ道でも、同じ約束が静かに交わされる。
 それは、声に出さない約束。
 だが、最も長く守られる約束だった。

 ――そして物語は、ここで終わらない。
 終わらないように、終わらせ方を決めたのだから。
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