『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ

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第39話 見張る役目

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第39話 見張る役目

 条件を前に出した瞬間から、次の問いは避けられなかった。
 誰が、それを見張るのか。

 アルベルトは朝の回覧を読み終え、机の端に置いた三条件の紙を指で叩いた。
 観測。分散。代替。
 正しい。だが、紙の上に置いただけでは、すぐに風化する。

(王が見張る? 違う)

 老侯爵が静かに言う。

「陛下。条件の監督役を設けますか?」

「役職は要らない。役目が要る」

 肩書きを置けば、依存が生まれる。
 役目にすれば、分散できる。

 アルベルトは短く告げた。

「見張るのは、最後に触った者だ」

 会議室が、わずかにざわつく。

「案件の最後の判断者が、条件を確認する。
 満たしていなければ、次へ渡さない」

 責任は、最終工程に集める。
 だが、決裁に集めない。

 午前中、その運用が試された。
 一件の提案が、観測不足で差し戻される。
 拒否ではない。条件未達だ。

「観測を足して、また持ってきます」

「それでいい」

 止まる理由が、明確だ。

 一方、領地。
 エレノアも同じ問いに向き合っていた。
 条件は共有した。
 だが、誰が見張るのか。

 彼女は、集会所で短く言う。

「見張るのは、次に困る人です」

 人々が顔を見合わせる。

「兆しに最初に気づく人。
 負担をかぶる人。
 代替が要る人」

 見張りは、遠い誰かではない。
 近い当事者だ。

 昼、王宮では“最後に触った者”の欄が書式に追加された。
 名前は要らない。部署だけでいい。
 匿名性が、正直さを守る。

 同じ昼、領地では作業表に小さな印がついた。
 星印。
 「次に困る人」を示すだけの記号。

 午後、アルベルトのもとに一件の苦情が届く。

「条件確認で、進みが遅い」

「正しい遅れだ」

 彼は、理由を添えて返す。

「進みが遅いのではない。事故が早く見つかった」

 同じ午後、領地では星印の付いた箇所から改善案が上がる。
 代替が一つ増え、観測が簡素化された。

 夕刻、老侯爵が感心した。

「見張りが、仕事になっています」

「見張りは、仕事ではない。習慣だ」

 王は、線を引く。
 あとは、習慣が守る。

 同じ夕刻、エレノアは星印の数を数える。
 増えすぎていない。
 必要なところに、必要なだけ。

(見張りが、現場にある)

 夜。
 王宮の灯りは静かで、報告は短い。
 領地の屋敷でも、紙は薄い。

 アルベルトは、三条件の紙を引き出しに戻す。
 エレノアは、星印の付いた表を畳む。

 見張る役目は、権限ではない。
 最後に触った者が、条件を確かめ、
 次に困る人が、兆しを拾う。

 王は、役目を分散し、
 公爵令嬢は、当事者に預ける。

 交わらぬ道でも、同じ見張り方が息づく。
 条件は、誰かに守られるのではない。
 皆の手で、見張られている。

 そして次に残る問いは、ただ一つ。
 ――見張りを、どう続けるか。
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