婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ

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第十七話 問い詰められる王

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第十七話 問い詰められる王

 アンピール帝国の帝都は、属国の王にとって特別な場所だった。

 それは、歓迎される場ではない。
 裁かれる可能性のある場所だ。

 プリケアリアス王国国王タイラントは、
 帝都中央区画の一角――
 帝国統治院へと案内されていた。

 ここは、皇帝が直接統治を監督する機関。
 属国の王が呼び出される時点で、
 「事情聴取」では済まない。

 重厚な扉が閉じられる。

 室内にいたのは、数名の帝国高官と――
 中央に座す、アンピール帝国皇帝カイザー。

 余計な装飾も、威圧的な演出もない。
 だが、その沈黙自体が、
 国王という立場を否定する力を持っていた。

「プリケアリアス王国国王、タイラント」

 淡々とした呼びかけ。

「貴国の現状について、説明を求める」

 命令だった。

 タイラント王は、深く頭を下げる。

「……現在、王国は一時的な混乱状態にありますが、
 すでに収束へ向かって――」

「混乱の内容を述べよ」

 遮られる。

 言い訳は、不要という態度だった。

「王太子による婚約破棄を発端として、
 貴族間の対立が激化。
 外交交渉、財政、軍備調整に遅滞が生じております」

「“生じております”ではない」

 カイザーは、視線を上げる。

「属国が外交交渉を失敗させた場合、
 影響を受けるのは誰だ?」

 答えは一つしかない。

「……帝国でございます」

「そうだ」

 静かな肯定。

「属国の失策は、帝国全体の信用低下につながる」

 その言葉に、
 帝国が属国を管理する理由が、端的に示されていた。

「にもかかわらず、貴国は」

 カイザーは、書類を一枚めくる。

「王太子の判断を制御できず、
 国王自らも事態を収拾できず、
 最終的には王族と貴族を幽閉するという強権に出た」

 一拍。

「これは、統治だと思うか?」

 問いではない。
 確認でもない。

 断罪の前段だった。

 タイラント王は、言葉を探す。

「国家存続のための、苦渋の決断で――」

「国家存続?」

 カイザーの声が、わずかに低くなる。

「属国が国家存続を理由に、
 帝国へ事前報告もなく内政を混乱させる権限があると?」

 その瞬間、
 タイラント王は理解した。

 自分はすでに、
 “判断を誤った王”として扱われている。

「貴国は、属国である」

 カイザーは、明確に告げた。

「内政の自由は認めている。
 だが、それは“統治能力がある限り”だ」

 静かな声が、決定打になる。

「現在のプリケアリアス王国は、
 帝国から見て、
 安定した統治が行われているとは言い難い」

 帝国高官たちが、無言で頷く。

「本日は、結論を出さない」

 カイザーは、立ち上がった。

「だが、調査は続ける」

 一歩、タイラント王に近づく。

「次は、
 “なぜここまで統治が歪んだのか”を確認する」

 それが何を意味するか。
 タイラント王には、嫌というほど分かった。

 次は、人の問題だ。

 王太子か。
 重臣か。
 それとも――

 その答えが、
 自分にとって致命的なものであることだけは、
 確信できた。

「本日の審問は、以上だ」

 その一言で、
 国王としての時間は、
 静かに削られていった。

 帝都の空は、どこまでも高く、
 タイラント王には、
 あまりにも遠く感じられた。

 ――この国の行く末は、
 もはや、自分の手にはない。

 そう悟らされるには、
 十分すぎる一日だった。
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