『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ

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第11話 真似は出来ても、同じにはならない

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第11話 真似は出来ても、同じにはならない

動きがあったのは、視察から数日後だった。

王都の一角。
とある中堅貴族の屋敷で、新しい噂が立つ。

「孤児院を始めたらしいわよ」

「例の、アルヴェイン家を真似たとか」

「流行りに敏感ですこと」

言葉は軽い。
だが、その判断は浅かった。


---

その孤児院は、形だけは整っていた。

古い倉庫を改装し、
孤児を集め、
作業を割り振る。

「畑仕事は外で」
「料理は中で」
「記録? ああ、後で誰かがまとめればいい」

始めた貴族は、満足げだった。

「これで、
慈善も出来て、
人手も確保出来る」

――ノエリアのやり方を、
半分だけ理解した結果だった。


---

三日で、問題が出た。

「なんで、
あの子ばかり楽な仕事なの?」

「私は、
ずっと外なのに」

「火を任されてるの、
怖い……」

不満が噴き出す。

だが、
それを聞く者はいない。

「文句を言うな」

「働かせてもらってる立場だろう」

誰かが、そう言った。

それは、
ノエリアが最も嫌う言葉だった。


---

一週間後、
パンは焼けなくなった。

分量は適当。
火は強すぎ、
焦げるか、生焼け。

「失敗が多すぎる」

「才能がない」

責任は、
すべて子供たちに向けられた。


---

二週間後、
孤児の数は減った。

逃げた者。
戻された者。
体調を崩した者。

「使えない」

「思ったより、
役に立たない」

貴族は、
苛立ちを隠さない。


---

その噂は、
すぐに王都に広がった。

「ほら、やっぱり危険だったのよ」

「孤児に労働なんて」

「アルヴェイン家も、
同じことをしているのでは?」

噂は、
再びノエリアのもとへ戻る。


---

だが、
孤児院は静かだった。

「今日は、
水を少し増やします」

「火、
昨日より安定してます」

「帳簿、
誤差なしです」

淡々と、
日常が進む。


---

昼休憩、
子供たちの間で、
小さな話題が出た。

「……別の孤児院、
閉まったらしい」

「喧嘩ばっかりだったって」

「……怖いね」

リリィが、
不安そうにノエリアを見る。

「……私たちも、
同じに見られますか?」

ノエリアは、少し考えた。

「見られるでしょう」

正直だった。

「ですが」

「同じではありません」

それだけだった。


---

その日の夕方、
役人が一人、
孤児院を訪れた。

以前、
視察に来た男だ。

「……例の孤児院が、
閉鎖されました」

「そうですか」

ノエリアは、驚かない。

「理由は?」

「管理不足。
記録なし。
責任の所在不明」

「子供たちへの、
過度な負担」

ノエリアは、静かに頷いた。

「こちらへの、
影響は?」

「……あります」

役人は言いづらそうに続ける。

「比較されます」

「ええ」

「説明を、
求められるでしょう」

「構いません」

ノエリアは即答した。

「説明出来ますから」


---

役人は、
しばらく沈黙したあと、
ぽつりと言った。

「……同じことを、
しているように見えて」

「まったく、
違いますね」

ノエリアは、答えない。

理解してもらうために、
言葉は要らない。


---

その夜、
子供たちを集めて、
ノエリアは短く話した。

「外で、
失敗がありました」

ざわめきが起きる。

「理由は、
簡単です」

「やり方を、
真似ただけだから」

子供たちは、
真剣に聞いている。

「ここでしているのは、
作業ではありません」

「判断です」

「役割です」

「責任です」

「それが、
揃って初めて、
成り立ちます」


---

リリィが、
小さく手を挙げた。

「……じゃあ、
私たちは、
真似されても……」

「壊れません」

ノエリアは、即答する。

「中身が、
ありますから」

その言葉に、
子供たちの表情が変わった。


---

夜、
中庭で猫が転がっている。

子猫たちは、
もう走り回れるほどになっていた。

「……真似されるのは、
面倒ね」

猫は答えない。

だが、
子猫の一匹が、
ノエリアの足元にじゃれついた。

守るものは、
増えている。

そして、
狙われる理由も。

だが、
揺らぐ理由は、
どこにもなかった。

孤児院は、
“正しいやり方”を証明した場所になりつつある。

皮肉なことに、
失敗したのは、
それを一番軽く考えた者たちだった。


---
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