『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ

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第10話 視察という名の介入

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第10話 視察という名の介入

それは「お願い」ではなかった。

朝一番、屋敷に届けられた書状には、簡潔な文言が並んでいた。

> 「王都貴族会の名において、
孤児院の運営状況を確認する。
本日午後、視察に赴く」



執事は、読み終えたあと言葉を失った。

「……拒否は、難しいかと」

「ええ」

ノエリアは頷いた。

「拒否する理由が、ありません」

拒めば、疑われる。
受け入れれば、見られる。

ならば、選択は一つだ。


---

午後、門の前に馬車が三台並んだ。

降りてきたのは、
二人の貴族と、記録係らしき人物。
どちらも、視線は厳しい。

「アルヴェイン家令嬢、
ノエリア殿ですね」

「ええ」

ノエリアは一礼する。

「本日は、
お時間を頂きます」

「どうぞ」

歓迎の言葉はない。
だが、拒絶もない。

それで十分だった。


---

最初に案内したのは、畑だった。

「……随分、整っていますね」

「基礎作物のみです」

ノエリアは淡々と説明する。

「自給用ですので、
品種は限定しています」

「孤児に、
農作業を?」

「生活に必要な技能です」

「危険は?」

「刃物は、
段階的に使用させています」

記録係が、素早く筆を走らせる。


---

次に、調理棟。

窯の前で、ミナが火を見ていた。

「……子供が、
火を管理している?」

「役割です」

「失敗したら?」

「私が責任を取ります」

一瞬、空気が止まる。

「……全責任を?」

「ええ」

ノエリアは即答した。

「ここは、
私の管理下です」


---

帳簿が置かれた机を見て、
貴族の一人が眉を上げた。

「……数字が、
整いすぎている」

「毎日、
記録しています」

「誰が?」

「孤児です」

一瞬、
露骨な不信が浮かんだ。

「偽装では?」

「でしたら、
確認なさってください」

ノエリアは帳簿を差し出す。

「昨日の粉の使用量、
今日の残量、
一致します」

記録係が確認し、
小さく頷いた。


---

視察が進むにつれ、
質問は変わっていった。

「……教育内容は?」

「読み書き、計算、
基礎礼儀」

「目的は?」

「自立です」

「貴族社会への参入?」

「いいえ」

ノエリアは、はっきり答える。

「どこでも、生きられるように」

それ以上でも、それ以下でもない。


---

中庭で、子供たちが集められた。

「……怖くないか?」

貴族の一人が問いかける。

沈黙。

ノエリアは、口を挟まない。

しばらくして、
リリィが一歩前に出た。

「……怖い時も、あります」

正直な答えだった。

「でも」

視線を上げる。

「何をすればいいか、
分からない方が、
もっと怖いです」

その言葉に、
貴族たちは黙り込んだ。


---

視察の終わりに、
代表の貴族が言った。

「……問題点が、
一つあります」

執事が息を呑む。

「はい」

ノエリアは、落ち着いて応じる。

「成果が、
早すぎる」

その言葉に、
一瞬、空気が凍った。

「この規模で、
この運営」

「真似をする者が、
出るでしょう」

「中途半端な形で」

ノエリアは、少し考えた。

「……それは、
止められません」

「ええ」

貴族は頷く。

「だからこそ、
注視します」

「承知しました」

それだけだった。


---

彼らが去ったあと、
子供たちは、不安そうに集まった。

「……閉められますか?」

誰かが小さく聞く。

「いいえ」

ノエリアは答える。

「閉める理由が、
ありません」

「今日、
何を見られましたか?」

子供たちは、考える。

「……いつも通り」

「ええ」

「それで十分です」


---

夕暮れ、
中庭で猫が伸びをしていた。

子猫たちは、
母猫の後を追ってよろよろ歩いている。

「……見られるのは、
嫌いじゃないわ」

ノエリアは呟く。

「隠すことが、
ないから」

孤児院は、
もはや「奇妙な噂」ではない。

確認された事実になった。

そしてそれは、
止められない流れの始まりでもあった。


---

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