婚約破棄されたので、戻らない選択をしました

ふわふわ

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第32話 頼られない強さ

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第32話 頼られない強さ

 その変化に、最初に気づいたのは外から来た者だった。

 政庁の応接室で、地方からの商人が、落ち着かない様子で椅子に座っている。

「……あの、ミディア様に直接、ご相談をと思ったのですが」

 応対していた職員は、首を傾げた。

「内容によります。
 今回は、商会間の調整ですよね?」

「はい。価格の件で……」

「では、商業担当へどうぞ。
 こちらで判断できます」

 商人は、目を瞬いた。

「……ミディア様のご判断は?」

「不要です」

 その言葉に、戸惑いが浮かぶ。

「失礼ですが……それで、よろしいのですか?」

 職員は、当たり前のように答えた。

「ええ。
 決めるのは、現場ですから」

 そのやり取りを、廊下の向こうでミディア・バイエルンは聞いていた。
 だが、足を止めることはない。

 ――それでいい。

 昼前、アイロス・アルツハイムが、資料を抱えてやって来る。

「……最近、“ミディア様に聞け”が減っています」

「ええ」

 ミディアは、頷いた。

「いい傾向です」

「普通は、権威が弱まったと捉えられますが」

「そう思う人は、王都的です」

 彼女は、淡々と言葉を続ける。

「頼られ続ける組織は、止まります」

 頼る先が一つなら、
 そこが詰まった瞬間、すべてが止まる。

「ここでは、止まらないことが最優先です」

 午後、政庁内で小さな混乱が起きた。

 倉庫の配置換えで、担当同士の判断が食い違ったのだ。

「どちらの案で進めますか?」

 若い職員が、ミディアに尋ねようとして――途中で止まる。

 そして、深呼吸した。

「……すみません。
 まず、担当同士で詰めます」

 その様子を見ていた周囲が、何も言わずに頷く。

 数刻後、修正案が提出された。

「両案の中間です」

「現場の動線を優先しました」

 ミディアは、資料に目を通し、短く答えた。

「問題ありません」

 承認印は、押さない。

 それでも、誰も不安を覚えない。

 夕方、集落を歩くと、以前とは違う視線を感じる。

 敬意はある。
 だが、過剰な期待はない。

「最近、相談しなくてすみません」

 年配の職人が、少し照れたように言う。

「自分たちで、決められるようになりまして」

「それは、良いことです」

 ミディアは、即答した。

「……怒りませんか?」

「なぜ?」

「前なら、“報告が遅い”と怒られる立場の人もいるので」

 ミディアは、首を振った。

「ここでは、
 報告は“許可”ではありません」

 報告とは、
 共有のためにある。

 夜、執務室で一日の記録をまとめる。

 決裁書類は、以前よりも明らかに減っている。
 だが、仕事量は減っていない。

「……頼られない強さ、ですか」

 アイロスが、ぽつりと呟く。

「はい」

 ミディアは、静かに答える。

「頼られなくても、崩れない。
 それが、本当の強さです」

 王都では、
 “必要とされること”が力だった。

 だが、その力は、
 常に人を縛る。

「私は、必要でなくなりたいのです」

 その言葉に、アイロスは驚かなかった。

 むしろ、納得したように頷いた。

 灯りを落とし、窓の外を見る。

 街は静かだ。
 だが、止まっていない。

 誰かが指示しなくても、
 誰かの名前を呼ばなくても、
 明日は、きっと来る。

 ミディア・バイエルンは、
 その光景を、静かに見つめていた。

 頼られないということは、
 孤立ではない。

 自立が、広がっている証だった。
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