婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ

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第十九話 後妻の焦り

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第十九話 後妻の焦り

 ノーランド公爵邸の奥まった私室で、現公爵夫人はひとり、鏡の前に立っていた。

 豪奢な装いは変わらない。
 宝石も、絹も、外から見れば以前と同じ。

 だが、呼ばれる席が違う。

 王家の夜会からの招待は途絶え、
 大貴族の晩餐会は「都合により延期」と続いた。

 延期は、実質的な拒絶である。

 扇を強く閉じる。

「どうして……」

 王家との婚約は正式発表されていない。
 ならば傷は浅いはずだった。

 そう思っていた。

 だが現実は違う。

 “選ばれなかった”という事実だけで、社交界は判断を下す。

 しかも、よりによって理由は“理念の不一致”。

 能力や病気なら、まだ言い訳が立つ。
 だが理念は人格の問題。

 それは取り繕えない。

 机の上には、断りの書簡が重なっている。

 北方伯、南方侯、西方伯……。

 どの文面も丁寧だ。
 だが、同じ。

 「今回はご縁を見送らせていただく」

 今回は。

 次はない。

 背後で扉が静かに閉じる。

 コンキュが入ってきた。

「母上……」

 その声には、以前の自信がない。

「どうして、皆さま態度を変えられたのでしょう」

 後妻はゆっくり振り返る。

「分からないの?」

 問いは優しい。
 だが目は冷たい。

「王家に選ばれなかったのよ」

「でも、まだ公表は――」

「公表されなくても、王家が退けたという事実は動かない」

 沈黙。

 コンキュは唇を噛む。

「わたくしは、王太子妃にふさわしい振る舞いを――」

「違うわ」

 きっぱりと遮る。

「あなたは“王太子妃になる立場”の振る舞いをしたの」

 言葉の差は大きい。

「王家に入る者は、王家を支える者でなければならない」

 後妻は自分でも気づいている。

 あの場での発言。
 踏み台。
 より上へ。

 あれは王家の理念に反する。

 だが、それを教えなかったのは自分だ。

「……本来は」

 呟きが零れる。

「本来は、あなたが正統であるはずだった」

 その言葉に、コンキュの顔が上がる。

「そうでしょう?」

 後妻は歩み寄る。

「わたくしが公爵夫人。あなたはその娘。何が足りないというの」

 血。

 それを口にしない。

 ナチュは前夫人の娘。
 この家の“最初の血”。

 公爵は婿養子。

 家名を守るために迎えられた存在。

 そしてナチュは、前夫人に似ている。

 実務も、思想も。

「皆があの子を評価する」

 扇が軋む。

「静かに帳簿を回すだけの娘を」

 その静かさこそが怖い。

 派手に争わない。
 声を荒げない。
 だが着実に信頼を積む。

 後妻は理解している。

 ナチュがいなければ、領地は回らなかった。

 交際費をせびる公爵。
 帳簿を整える娘。

 あれは象徴だ。

 家を守っているのは誰か。

「正統が崩れる」

 思わず声が漏れる。

 もし爵位に問題が出れば。
 もし王家が統治能力を疑えば。

 婿養子である公爵の立場は弱い。

 その上、実務を担っていた娘を遠ざけた。

 誰が家を支えていると見られるか。

 後妻は、初めて焦りを覚える。

 これは単なる婚約破棄ではない。

 家そのものの評価が揺らいでいる。

「取り戻すわ」

 小さく、だが強く。

「何を、ですの?」

 コンキュが問う。

「正統よ」

 その言葉は重い。

 ナチュを押しのけることではない。

 家が“こちら側”にあると示すこと。

 だが、どうやって。

 王家は距離を置いた。
 大貴族は様子見。

 残る道は限られている。

 鏡に映る自分を見つめる。

 野心家と呼ばれても構わない。

 だが、家を失うわけにはいかない。

 扇を握り直す。

 焦りはまだ表に出ない。

 だが、確実に燻り始めていた。

 ノーランド家の根元が、静かに揺れている。
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