婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ

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第十八話 取り戻せない席

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第十八話 取り戻せない席

 王家との話が静かに消えたあと、ノーランド公爵邸の空気は重く沈んでいた。

 縁談の打診は止まり、夜会の招待は減り、書簡は丁寧な断り文句ばかり。

 後妻は焦りを隠せない。

「原点に戻りましょう」

 その一言が、すべての始まりだった。

 応接室で向かい合う公爵と後妻。コンキュは不安げに扇を握っている。

「原点……とは」

「サウザー公爵家ですわ」

 空気が凍る。

 かつて、最初に持ち上がった縁談。

 コンキュが王家を選び、反故にした相手。

「今ならまだ間に合いますわ。王家との話は公表されていないのですもの。サウザー家なら体面も保てます」

 後妻は言葉を重ねる。

「向こうも悪い話ではなかったはず。こちらから折れて差し上げれば――」

 公爵は長く息を吐いた。

「……筋が通らぬ」

「筋など、結果でどうとでもなりますわ」

 その言葉に、公爵は何も返さなかった。

 だが、結局は使者が立った。

 形式を整え、丁寧な文面で。

 ――改めて、御縁を。

 数日後。

 返書は早かった。

 封蝋はサウザー公爵家の紋章。

 公爵が開封する。

 短い。

 だが明確だった。

 ――一度ご辞退なさった御縁でございます。再考の余地はございません。

 後妻の顔が引きつる。

「再考の余地がない、ですって?」

 コンキュが立ち上がる。

「わたくしが断ったのは王家のためであって、サウザー家を軽んじたわけでは――」

 その言葉を、公爵が遮った。

「向こうはそうは見ぬ」

 沈黙。

 それでも後妻は諦めない。

「直接お会いすれば、印象も変わりますわ」

 無理を承知で、面会を願い出る。

 そして、許可は出た。

 サウザー公爵家。

 広間は静かで、過度な装飾はない。

 そこに立つサウザーは、変わらぬ冷静さで迎えた。

「本日はお時間を」

 形式的な挨拶。

 後妻が口火を切る。

「以前の件は、若さゆえの判断違いでございました。改めてご縁を――」

 サウザーは遮らない。

 だが、視線は動かない。

 コンキュが一歩前に出る。

「わたくしは、サウザー公爵家にふさわしいよう努めます」

 その言葉に、ようやく彼が口を開いた。

「努める、という言葉は重い」

 静かな声。

「最初の御縁は、貴女が自らお退けになった」

「より良き未来を選ぶのは当然ではございませんか」

 コンキュの声に、わずかな苛立ちが混じる。

「その通りでございます」

 サウザーは肯いた。

「そして私もまた、より良き判断を致します」

 空気が張り詰める。

「一度、家の名を軽く扱われた縁は、再び結ぶに値しない」

 言葉は冷たいが、感情はない。

「恩義を感じるには値しない、と以前申し上げましたが――」

 彼の視線が真っ直ぐにコンキュへ向く。

「それは今も変わりません」

 後妻が息を呑む。

「では……ナチュを迎えると?」

 一瞬の沈黙。

「家を共に支える者を選びます」

 肯定も否定もしない。

 だが十分だった。

 面会は終わる。

 帰路の馬車の中、コンキュは唇を噛む。

「わたくしが間違えたとでも……」

 後妻は答えない。

 公爵もまた、何も言わない。

 サウザーの判断は冷静だった。

 反故にされた最初の約定。

 王家での振る舞い。

 それを許した家の姿勢。

 全てを見たうえでの、常識的な結論。

 ノーランド家の門が閉じる。

 取り戻そうとした席は、最初から存在しなかったかのように、静かに消えていた。
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