婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ

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第十七話 家を守る者

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第十七話 家を守る者

 サウザー公爵家の広間では、月に一度の領政報告会が開かれていた。

 集まっているのは、各地区の代官、商会代表、財務官。
 華やかな社交の場ではない。実務の場だ。

 ナチュはサウザーの隣に座っている。

 だが前に出ることはない。

 必要なときだけ、口を開く。

「北部街道の補修費が想定を超えております」

 財務官が報告する。

「冬季の凍結が予想以上に激しく」

 サウザーが資料を確認する。

「積立金の残高は」

「余裕はございます。ただし来期の備蓄予算に影響が」

 そこでナチュが静かに言った。

「街道は交易の動脈でございます。止まれば損失は補修費を上回ります」

 視線が彼女に向く。

 だが驚きはない。

 既に彼女の発言は重みを持っていた。

「代替案は」

 サウザーが問う。

「修繕区間を優先順位で分け、全線一括ではなく段階施工に」

「期間は延びる」

「はい。ただし資金圧迫は抑えられます」

 短いやり取り。

 判断はすぐに下る。

「段階施工とする」

 議論は続く。

 ナチュは必要以上に発言しない。

 だが、空気の流れを読み、的確な一点を示す。

 会議が終わる頃には、方向性は明確になっていた。

 散会後、代官のひとりが小声で言う。

「奥様はよく見ておられる」

 それは称賛だった。

 ナチュは微笑むだけ。

 夜。

 執務室で書類を整理していると、サウザーが入室する。

「今日の判断、どう見る」

「妥当かと」

「北部は不満を抱く」

「補修は行われます。不満は一時的でございます」

 サウザーは机に手を置く。

「あなたは“嫁ぐ”のではないのだな」

 唐突な言葉。

 ナチュは顔を上げる。

「家は役割でございます」

「サウザー家に入ることをどう考えている」

「支える立場になると」

 迷いなく答える。

「支配ではないのか」

「支配は持続いたしません」

 静かな断言。

 サウザーの目に、わずかな安堵が浮かぶ。

 彼は感情に流される男ではない。

 だが、家を共に守る者を求めている。

「あなたは怒らぬ」

 彼が言う。

「怒りは判断を鈍らせます」

 ナチュは書類を閉じる。

「家は人の集合体でございます。感情で揺らせば、制度が崩れます」

 その言葉は重い。

 ノーランド家では揺らぎが始まっている。

 だがサウザー家は違う。

 静かに整え、支え合う。

 窓の外に、整然と並ぶ灯りが見える。

 サウザーは低く言った。

「家を守る者が必要だ」

 ナチュは一礼する。

「守るべきは、家名ではございません」

「何だ」

「継がれる思想でございます」

 沈黙。

 それで十分だった。

 華ではなく、声高な主張でもない。

 ただ静かに、責任を引き受ける姿勢。

 家を守る者とは、そういう存在だった。
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