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第十六話 実務の相性
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第十六話 実務の相性
サウザー公爵家の執務室は、午前の光に満ちていた。
大きな窓から差し込む陽光が、整然と並ぶ書類の端を照らす。
机の上に広げられているのは、サウザー領の港湾管理と備蓄配分の見直し案だった。
ナチュは書類を手に取り、静かに目を通している。
隣にはサウザー。
対面ではない。
同じ方向を見ている。
それが、すでに違いだった。
「南港の積載量が上限に近い」
ナチュが言う。
「冬季前に一度、流れを分散なさるのがよろしいかと」
サウザーは即座に問い返す。
「理由は」
「凍結時の停滞を防ぐためでございます。昨年の北方領の例をご存じでしょう」
「把握している」
短い返答。
だが否定はない。
「倉庫の再配置を前倒しで進めれば、来季の損失は抑えられます」
提案は簡潔。
感情はない。
サウザーは資料に視線を落とし、計算を追う。
「負担は増える」
「一時的に」
ナチュは淡々と続ける。
「ただし、事故が起こればそれ以上の損失となります」
沈黙。
やがてサウザーは小さく頷いた。
「前倒しで進める」
決定は速い。
ナチュは余計な礼を言わない。
ただ次の書類へ手を伸ばす。
「備蓄穀物の回転率が低下しております」
「理由は」
「在庫管理が中央集約型のままでございます」
「分散させるべきか」
「はい。地方の裁量を増やせば、無駄は減ります」
言葉のやり取りは短い。
だが、噛み合っている。
問いが飛び、答えが返り、判断が下る。
装飾のない実務の会話。
しばらくして、サウザーが手を止めた。
「ノーランドでは、あなたが判断していたのか」
「提案まででございます」
「最終決裁は」
「父上の名で」
淡々とした事実。
サウザーはわずかに息を吐く。
「無駄がない」
それは評価だった。
ナチュは顔を上げる。
「役割が明確であれば、無駄は減ります」
その答えに、サウザーの視線が柔らぐ。
彼は机の上の書類を整えながら言った。
「君のおかげで事務処理が楽になった」
それは飾らぬ本音だった。
ナチュは一瞬だけ瞬きをし、静かに返す。
「それは光栄でございます」
照れも誇張もない。
事実として受け止める。
執務室の空気は穏やかだった。
競い合う空気ではない。
補い合う空気。
サウザーは窓の外を見た。
整備された街路、規律ある動き。
「家を守るとは、こういうことだ」
独り言のような声。
ナチュは答えない。
守るとは、声を上げることではない。
崩れぬ仕組みを整えること。
静かに積み上げること。
机の上に新たな書類が置かれる。
議論は続く。
無駄はなく、感情もない。
だが確かな信頼が芽生えている。
華ではなく、重み。
地位ではなく、責任。
実務の相性は、何より雄弁だった。
サウザー公爵家の執務室は、午前の光に満ちていた。
大きな窓から差し込む陽光が、整然と並ぶ書類の端を照らす。
机の上に広げられているのは、サウザー領の港湾管理と備蓄配分の見直し案だった。
ナチュは書類を手に取り、静かに目を通している。
隣にはサウザー。
対面ではない。
同じ方向を見ている。
それが、すでに違いだった。
「南港の積載量が上限に近い」
ナチュが言う。
「冬季前に一度、流れを分散なさるのがよろしいかと」
サウザーは即座に問い返す。
「理由は」
「凍結時の停滞を防ぐためでございます。昨年の北方領の例をご存じでしょう」
「把握している」
短い返答。
だが否定はない。
「倉庫の再配置を前倒しで進めれば、来季の損失は抑えられます」
提案は簡潔。
感情はない。
サウザーは資料に視線を落とし、計算を追う。
「負担は増える」
「一時的に」
ナチュは淡々と続ける。
「ただし、事故が起こればそれ以上の損失となります」
沈黙。
やがてサウザーは小さく頷いた。
「前倒しで進める」
決定は速い。
ナチュは余計な礼を言わない。
ただ次の書類へ手を伸ばす。
「備蓄穀物の回転率が低下しております」
「理由は」
「在庫管理が中央集約型のままでございます」
「分散させるべきか」
「はい。地方の裁量を増やせば、無駄は減ります」
言葉のやり取りは短い。
だが、噛み合っている。
問いが飛び、答えが返り、判断が下る。
装飾のない実務の会話。
しばらくして、サウザーが手を止めた。
「ノーランドでは、あなたが判断していたのか」
「提案まででございます」
「最終決裁は」
「父上の名で」
淡々とした事実。
サウザーはわずかに息を吐く。
「無駄がない」
それは評価だった。
ナチュは顔を上げる。
「役割が明確であれば、無駄は減ります」
その答えに、サウザーの視線が柔らぐ。
彼は机の上の書類を整えながら言った。
「君のおかげで事務処理が楽になった」
それは飾らぬ本音だった。
ナチュは一瞬だけ瞬きをし、静かに返す。
「それは光栄でございます」
照れも誇張もない。
事実として受け止める。
執務室の空気は穏やかだった。
競い合う空気ではない。
補い合う空気。
サウザーは窓の外を見た。
整備された街路、規律ある動き。
「家を守るとは、こういうことだ」
独り言のような声。
ナチュは答えない。
守るとは、声を上げることではない。
崩れぬ仕組みを整えること。
静かに積み上げること。
机の上に新たな書類が置かれる。
議論は続く。
無駄はなく、感情もない。
だが確かな信頼が芽生えている。
華ではなく、重み。
地位ではなく、責任。
実務の相性は、何より雄弁だった。
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