26 / 32
第二十六話 正統の重み
しおりを挟む
第二十六話 正統の重み
ノーランド家の没落が確定してから、王都の空気は不思議なほど静かだった。
騒ぎ立てる者はいない。
同情も、非難も、声高には語られない。
貴族社会は感情で動かない。
ただ一つの事実だけが共有される。
――統治能力を失った家は退けられた。
それだけだ。
一方、サウザー公爵邸。
朝の執務室には整然と書類が並ぶ。
冬季備蓄の確認、街道補修の進捗、税収報告。
すべてが滞りなく回っている。
ナチュは机の端で帳簿を確認していた。
数字に乱れはない。
報告は正確。
署名の位置も揃っている。
「北部地区の備蓄率、予定通りでございます」
財務官が報告する。
「王都からの視察にも対応可能かと」
サウザーは頷いた。
「余剰は出ているか」
「わずかに」
ナチュが口を開く。
「備蓄は削りませぬ。余剰は来期へ回します」
即断。
無理に成果を誇らない。
安定を優先する。
サウザーはその判断を静かに受け入れる。
「その方針で進めよ」
会議は短い。
余計な議論はない。
必要な点だけを確認し、即決する。
家が回るとはこういうことだ。
会議後、サウザーは窓際に立つ。
遠くに広がる自領。
煙突から上がる白煙、整備された街道。
「王家より視察団が来る」
ナチュは表情を変えない。
「存じております」
「今回の件を受けての確認だ」
ノーランド家の褫奪。
王家は秩序を示した。
同時に、他家の安定も確認する。
「問題はございません」
淡々とした答え。
それは虚勢ではない。
帳簿が裏付けている。
統治とは、積み重ねだ。
サウザーはナチュを見る。
「家は揺れていない」
「揺らしておりません」
短いやり取り。
そこに誇示はない。
責任を引き受け、制度を守る。
それだけ。
王都の一部では囁かれている。
ノーランド家の実務を担っていたのは長女だった、と。
王家もそれを把握している。
婿養子である父が家を守れなかった一方で、
血統を継ぐ娘は制度を守っていた。
正統とは何か。
血か。
理念か。
その両方を備えた者だけが、重みを持つ。
午後、視察団が到着する。
形式的な挨拶。
帳簿の閲覧。
倉庫の確認。
質疑応答。
滞りはない。
財務官の問いに、ナチュは簡潔に答える。
余計な飾りはない。
数字で示す。
制度で示す。
視察官は最後に言う。
「安定している」
それは最大の評価だった。
夜。
執務室の灯りは静かにともる。
ナチュは母の遺した古い帳簿を手に取る。
最初の頁に書かれた言葉。
地位とは責任の量。
地位を欲する者は多い。
だが、責任を引き受ける者は少ない。
ノーランド家は地位を失った。
サウザー家は揺らがない。
違いは、ただ一つ。
責任を誰が背負ったか。
窓の外の夜は静かだ。
正統とは、叫ばない。
だが、重みを持つ。
そしてその重みは、確実に評価されていた。
ノーランド家の没落が確定してから、王都の空気は不思議なほど静かだった。
騒ぎ立てる者はいない。
同情も、非難も、声高には語られない。
貴族社会は感情で動かない。
ただ一つの事実だけが共有される。
――統治能力を失った家は退けられた。
それだけだ。
一方、サウザー公爵邸。
朝の執務室には整然と書類が並ぶ。
冬季備蓄の確認、街道補修の進捗、税収報告。
すべてが滞りなく回っている。
ナチュは机の端で帳簿を確認していた。
数字に乱れはない。
報告は正確。
署名の位置も揃っている。
「北部地区の備蓄率、予定通りでございます」
財務官が報告する。
「王都からの視察にも対応可能かと」
サウザーは頷いた。
「余剰は出ているか」
「わずかに」
ナチュが口を開く。
「備蓄は削りませぬ。余剰は来期へ回します」
即断。
無理に成果を誇らない。
安定を優先する。
サウザーはその判断を静かに受け入れる。
「その方針で進めよ」
会議は短い。
余計な議論はない。
必要な点だけを確認し、即決する。
家が回るとはこういうことだ。
会議後、サウザーは窓際に立つ。
遠くに広がる自領。
煙突から上がる白煙、整備された街道。
「王家より視察団が来る」
ナチュは表情を変えない。
「存じております」
「今回の件を受けての確認だ」
ノーランド家の褫奪。
王家は秩序を示した。
同時に、他家の安定も確認する。
「問題はございません」
淡々とした答え。
それは虚勢ではない。
帳簿が裏付けている。
統治とは、積み重ねだ。
サウザーはナチュを見る。
「家は揺れていない」
「揺らしておりません」
短いやり取り。
そこに誇示はない。
責任を引き受け、制度を守る。
それだけ。
王都の一部では囁かれている。
ノーランド家の実務を担っていたのは長女だった、と。
王家もそれを把握している。
婿養子である父が家を守れなかった一方で、
血統を継ぐ娘は制度を守っていた。
正統とは何か。
血か。
理念か。
その両方を備えた者だけが、重みを持つ。
午後、視察団が到着する。
形式的な挨拶。
帳簿の閲覧。
倉庫の確認。
質疑応答。
滞りはない。
財務官の問いに、ナチュは簡潔に答える。
余計な飾りはない。
数字で示す。
制度で示す。
視察官は最後に言う。
「安定している」
それは最大の評価だった。
夜。
執務室の灯りは静かにともる。
ナチュは母の遺した古い帳簿を手に取る。
最初の頁に書かれた言葉。
地位とは責任の量。
地位を欲する者は多い。
だが、責任を引き受ける者は少ない。
ノーランド家は地位を失った。
サウザー家は揺らがない。
違いは、ただ一つ。
責任を誰が背負ったか。
窓の外の夜は静かだ。
正統とは、叫ばない。
だが、重みを持つ。
そしてその重みは、確実に評価されていた。
20
あなたにおすすめの小説
おかしくなったのは、彼女が我が家にやってきてからでした。
ましゅぺちーの
恋愛
公爵家の令嬢であるリリスは家族と婚約者に愛されて幸せの中にいた。
そんな時、リリスの父の弟夫婦が不慮の事故で亡くなり、その娘を我が家で引き取ることになった。
娘の名前はシルビア。天使のように可愛らしく愛嬌のある彼女はすぐに一家に馴染んでいった。
それに対してリリスは次第に家で孤立していき、シルビアに嫌がらせをしているとの噂までたち始めた。
婚約者もシルビアに奪われ、父からは勘当を言い渡される。
リリスは平民として第二の人生を歩み始める。
全8話。完結まで執筆済みです。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。
理由は他の女性を好きになってしまったから。
10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。
意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。
ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。
セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】狡い人
ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。
レイラは、狡い。
レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。
双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。
口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。
そこには、人それぞれの『狡さ』があった。
そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。
恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。
2人の違いは、一体なんだったのか?
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました
山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。
※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。
コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。
ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。
トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。
クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。
シモン・グレンツェ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。
ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。
シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。
〈あらすじ〉
コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。
ジレジレ、すれ違いラブストーリー
妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
双子として生まれたエレナとエレン。
かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。
だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。
エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。
両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。
そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。
療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。
エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。
だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。
自分がニセモノだと知っている。
だから、この1年限りの恋をしよう。
そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。
※※※※※※※※※※※※※
異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。
現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦)
ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる