白い仮面の結婚を捨てた私が、裁かれない場所を作るまで

ふわふわ

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第39話 裁くことができないもの

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第39話 裁くことができないもの

 

 制度が最後に選ぶ手段は、
 裁くことだ。

 

 だが――
 裁けないものに対して、
 制度は脆い。

 

 王城からの召喚状は、
 形式だけは整っていた。

 

 日付。
 印章。
 公式文言。

 

 だが、
 肝心なものが
 一つ欠けている。

 

 罪名。

 

 ジェシカは、
 その紙を折り、
 外套の内にしまった。

 

 逃げるつもりはない。

 

 拒否もしない。

 

 だが、
 従属もしない。

 

 謁見の間は、
 異様な静けさに包まれていた。

 

 王ではない。
 裁判官でもない。

 

 集められていたのは、
 制度そのもの。

 

 貴族院代表。
 記録院長。
 法務局。
 秩序監査官。

 

 誰も、
 正面から
 ジェシカを見ない。

 

「第三の場所について、
 確認を行う」

 

 形式的な声。

 

「あなたは、
 何を目的として
 あの場所を
 運営しているのですか」

 

 ジェシカは、
 一瞬も迷わなかった。

 

「運営していません」

 

 空気が、
 わずかに揺れた。

 

「……
 では、
 なぜ人が集まる」

 

「必要だったからです」

 

「何に?」

 

「裁かれない時間に」

 

 沈黙。

 

 質問官は、
 次の札を探す。

 

「秩序を
 乱しているとの
 指摘があります」

 

「具体的に」

 

「……
 職の変更、
 配置転換、
 価値観の揺らぎ」

 

 ジェシカは、
 静かに首を傾げた。

 

「それは、
 違反ですか」

 

「……
 いいえ」

 

「犯罪ですか」

 

「……
 違います」

 

「命令違反ですか」

 

「……
 確認できていません」

 

 一つずつ、
 逃げ道が消えていく。

 

「では」

 

 ジェシカは、
 穏やかに言った。

 

「何を裁くのですか」

 

 誰も答えない。

 

 答えられない。

 

 制度は、
 名前を与えることで
 裁いてきた。

 

 怠惰。
 不適合。
 無能。
 反逆。

 

 だが。

 

 第三の場所には、
 名前がない。

 

 罪も、
 役割も、
 目的も。

 

「……
 あなたは、
 王城を
 否定している」

 

 誰かが、
 苦し紛れに言った。

 

 ジェシカは、
 はっきりと否定した。

 

「いいえ」

 

「では?」

 

「必要以上に
 信じていないだけです」

 

 その言葉は、
 刃よりも
 鋭かった。

 

 信仰ではなく、
 制度として扱われた瞬間。

 

 夕刻。

 

 審問は、
 結論を出せなかった。

 

 罰せない。
 命じられない。
 閉鎖できない。

 

 結果として――
 保留。

 

 猶予の延長。

 

 ジェシカは、
 王城を後にした。

 

 外の空気は、
 少し冷たい。

 

 第三の場所に戻ると、
 いつもと同じ光景があった。

 

 誰かが座り、
 誰かが去り、
 誰かが黙っている。

 

 その中に、
 新しい人物がいた。

 

 裁判官の外套を
 脱いだ男。

 

 目が合う。

 

「……
 ここでは」

 

 言葉を探している。

 

 ジェシカは、
 短く答えた。

 

「裁かれません」

 

 男は、
 深く息を吐いた。

 

「それなら……
 少しだけ」

 

 制度が、
 自分自身を
 裁き始めている。

 

 だが、
 そのことに
 気づいている者は
 少ない。

 

 裁くことができないものは、
 排除できない

 

 そして。

 

 排除できないものは、
 やがて
 基準そのものを
 変えていく。

 

 それが、
 最も遅く、
 最も確実な
 崩壊だった。
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