婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした

ふわふわ

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11話 噂という名の追い風

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11話 噂という名の追い風

 王都では、いつの間にか噂が広がり始めていた。
 大声で語られるものではない。廊下の隅、茶会の端、馬車の中――小さく、しかし確実に。

「フォーマルハウト領、最近ずいぶん安定しているらしいわ」 「ええ。物価も落ち着いて、取引も滞りがないとか」

 誰かがそう言えば、別の誰かが頷く。
 名を出されるのは、領地であり、数字であり、結果だ。
 ――当主の名は、あえて口にされない。

 王宮の執務室で、その噂は報告という形で届いた。

「殿下、周辺領からの問い合わせが増えています」 「問い合わせ?」

「フォーマルハウト領の施策についてです。倉庫管理や流通の簡素化など……具体的に」

 レオンハルトは黙り込んだ。
 それらは、かつて王宮で“自然に”行われていた調整の延長に見える。だが今は、王宮ではなく、一つの領地が注目されている。

「……なぜ、私の元では起きない」

 問いは独り言に近かった。
 答えは分かっている。だが、認めたくなかった。

 一方、フォーマルハウト領。
 私は執事から、王都の噂話を簡潔に聞かされていた。

「隣接する二領が、視察を希望しているとのことです」

「公式に?」

「いえ。個人的な見学、という形で」

 私は少し考え、頷いた。

「条件付きで、受けましょう」

「条件、とは?」

「成果を見せるだけ。助言はしません。やり方も教えません」

 執事は一瞬驚いたが、すぐに理解したように頭を下げた。

「……比較されることを、恐れていらっしゃらない」

「恐れる理由がありませんから」

 視察当日。
 私は倉庫と市場、工事現場を淡々と案内した。数字も手順も、必要最低限しか示さない。

「素晴らしい仕組みですね」 「どなたが設計を?」

「領地の事情に合わせただけです」

 それ以上は語らない。
 真似したければ、観察すればいい。
 考えたければ、考えればいい。

 夕刻、視察団を見送り、私は書斎に戻った。
 机の上には、王都から届いた新たな書簡が一通。

 差出人は、名前を伏せたまま。
 だが、文面は以前よりも切実だった。

『このままでは、判断が遅れ、責任の所在が曖昧になります。どうか一度、話を――』

 私は手紙を閉じ、引き出しにしまう。
 返事は出さない。

 夜、屋敷の灯りが落ち、星が瞬く。
 私は窓辺で、静かに思う。

 噂は、追い風にも逆風にもなる。
 だが、どちらにせよ――歩くのは自分だ。

 王都がざわめき、比較が始まろうとも、
 私は変わらない。

 ここで積み上げたものを、
 ここで守り、ここで育てる。

 それが、私が選んだ道。
 そして今、その道に――
 風が、吹き始めていた。
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