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29話 積み上がる信頼
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29話 積み上がる信頼
信頼は、決断の派手さでは生まれない。
むしろその逆――同じ判断が、同じ結果を生み続けることで、静かに形を取る。
王宮では、それがようやく数字として現れ始めていた。
「殿下、今期の外部評価です」
側近が差し出した報告書は、簡潔だった。
評価項目は多くない。だが、どれも以前より安定している。
「予算遵守率、改善。遅延件数、減少。問い合わせ対応時間、短縮……」
「評価は?」
「“予見可能性が高い”と」
レオンハルトは小さく息を吐いた。
「ようやく、か」
それは賛辞だ。
だが同時に、裏切れないという意味でもある。
昼の会合では、外部との契約更新が議題に上がった。
条件は厳しいが、例外は一切ない。
「以前なら、特別条項を求められていましたが……」 「今回は?」
「先方から、“基準内で調整した案”が提出されています」
会議室に、わずかなざわめきが走る。
「向こうが、合わせてきた?」 「はい」
レオンハルトは頷いた。
「基準が読めるからだ。読める相手とは、取引が続く」
勝ち負けではない。
信頼とは、相手が無茶をしなくなることだ。
一方、フォーマルハウト領。
朝の巡回で、私は倉庫前に並ぶ荷馬車の列を見ていた。以前より、明らかに秩序がある。
「新しい商人が増えています」
「理由は?」
「条件が明確で、待たされないからだそうです」
私は頷く。
「それは、良い傾向ですね」
特別扱いをしない場所は、敬遠されると思われがちだ。
だが実際には、その逆だ。予測できる場所に、人は集まる。
午後、集会所で短い打ち合わせを行う。
「判断に迷った件は?」
「一件ありましたが、基準に戻しました」
「結果は?」
「問題ありません」
「それで十分です」
信頼は、報告が短くなることで分かる。
説明が要らないということは、判断が共有されている証だ。
同じ頃、王宮では一つの象徴的な出来事があった。
かつて強く圧をかけてきた取引先が、条件を自ら修正して再提出してきたのだ。
「殿下、先方から“こちらの基準に合わせた”と」
「理解した、ということだ」
レオンハルトはそれ以上、何も言わなかった。
勝利宣言は不要だ。
夜。
執務室で帳票を閉じ、彼は窓の外を見た。王都の灯りは、規則正しく並んでいる。
(信頼は、静かだ)
歓声も、拍手もない。
あるのは、明日も同じ仕事が来るという事実だけ。
一方、フォーマルハウト領の夜。
私は日誌を開き、短く記す。
――信頼は、積み上がる。
一度の正解では足りない。
百の同じ判断が、ようやく形にする。
距離は、変わらない。
だが、その距離の上で、王宮と領地はそれぞれに――
同じ重さで、信頼を背負い始めていた。
信頼は、守るものではない。
明日も同じ判断をする覚悟の、積み重ねだ。
それができる限り、
日常は、静かに続いていく。
信頼は、決断の派手さでは生まれない。
むしろその逆――同じ判断が、同じ結果を生み続けることで、静かに形を取る。
王宮では、それがようやく数字として現れ始めていた。
「殿下、今期の外部評価です」
側近が差し出した報告書は、簡潔だった。
評価項目は多くない。だが、どれも以前より安定している。
「予算遵守率、改善。遅延件数、減少。問い合わせ対応時間、短縮……」
「評価は?」
「“予見可能性が高い”と」
レオンハルトは小さく息を吐いた。
「ようやく、か」
それは賛辞だ。
だが同時に、裏切れないという意味でもある。
昼の会合では、外部との契約更新が議題に上がった。
条件は厳しいが、例外は一切ない。
「以前なら、特別条項を求められていましたが……」 「今回は?」
「先方から、“基準内で調整した案”が提出されています」
会議室に、わずかなざわめきが走る。
「向こうが、合わせてきた?」 「はい」
レオンハルトは頷いた。
「基準が読めるからだ。読める相手とは、取引が続く」
勝ち負けではない。
信頼とは、相手が無茶をしなくなることだ。
一方、フォーマルハウト領。
朝の巡回で、私は倉庫前に並ぶ荷馬車の列を見ていた。以前より、明らかに秩序がある。
「新しい商人が増えています」
「理由は?」
「条件が明確で、待たされないからだそうです」
私は頷く。
「それは、良い傾向ですね」
特別扱いをしない場所は、敬遠されると思われがちだ。
だが実際には、その逆だ。予測できる場所に、人は集まる。
午後、集会所で短い打ち合わせを行う。
「判断に迷った件は?」
「一件ありましたが、基準に戻しました」
「結果は?」
「問題ありません」
「それで十分です」
信頼は、報告が短くなることで分かる。
説明が要らないということは、判断が共有されている証だ。
同じ頃、王宮では一つの象徴的な出来事があった。
かつて強く圧をかけてきた取引先が、条件を自ら修正して再提出してきたのだ。
「殿下、先方から“こちらの基準に合わせた”と」
「理解した、ということだ」
レオンハルトはそれ以上、何も言わなかった。
勝利宣言は不要だ。
夜。
執務室で帳票を閉じ、彼は窓の外を見た。王都の灯りは、規則正しく並んでいる。
(信頼は、静かだ)
歓声も、拍手もない。
あるのは、明日も同じ仕事が来るという事実だけ。
一方、フォーマルハウト領の夜。
私は日誌を開き、短く記す。
――信頼は、積み上がる。
一度の正解では足りない。
百の同じ判断が、ようやく形にする。
距離は、変わらない。
だが、その距離の上で、王宮と領地はそれぞれに――
同じ重さで、信頼を背負い始めていた。
信頼は、守るものではない。
明日も同じ判断をする覚悟の、積み重ねだ。
それができる限り、
日常は、静かに続いていく。
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