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35話 試される沈黙
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35話 試される沈黙
残るものが定まった後、次に訪れるのは――沈黙だ。
騒がしさが消え、反対も称賛も途切れた場所で、人は不安になる。何も起きないことを、疑い始める。
王宮では、その沈黙が少し長く続いていた。
「殿下、特段の動きはありません」
「……そうか」
レオンハルトは報告書を閉じる。
数字は安定し、問い合わせは減り、予定は予定通りに消化されている。
だが、人の顔には、わずかな緊張が残っていた。
「何か起きるのでは、と?」
側近の問いに、彼は頷いた。
「人は、静けさに慣れていない」
混乱や対立は、注意を引く。
だが沈黙は、判断する者の覚悟を試す。
昼の会合では、議題が早々に尽きた。
「……以上です」
誰も続けない。
沈黙が、会議室を満たす。
「問題がないなら、解散でいい」
レオンハルトの言葉で、皆が席を立つ。
だが、歩き出すまでの一瞬、誰もが迷う。
――本当に、これでいいのか。
一方、フォーマルハウト領。
私は朝の巡回を終え、執務室で帳簿を閉じていた。
異常はない。報告も簡潔だ。
「最近、相談が減りました」
執事の言葉に、私は頷く。
「判断が共有されている証拠です」
だが、彼は少し躊躇してから続けた。
「……同時に、不安も出ています。“この静けさは大丈夫なのか”と」
「ええ。分かります」
沈黙は、成果であると同時に、試練でもある。
午後、集会所で若手が一人、手を挙げた。
「何か、改善を提案した方がいいのでしょうか。
……何も起きていないのが、少し怖くて」
率直な言葉だった。
私は否定せず、少し考えてから答える。
「提案は、問題がある時にしてください」
「え……?」
「問題がないのに動くと、基準を壊します」
沈黙を壊す理由は、退屈では足りない。
「何もしない、という判断もあります」
彼は驚いたように目を瞬かせ、やがて深く頷いた。
同じ頃、王宮でも似た声が上がっていた。
「殿下、何か新しい施策を打ち出すべきでは?」
「なぜだ」
「……静かすぎます」
レオンハルトは、即座に答えなかった。
沈黙を、もう一度受け止めてから言う。
「静かなのは、機能しているからだ」
派手な一手は、喝采を生む。
だが、それは同時に、次の派手さを求めさせる。
「沈黙に耐えられない組織は、長く続かない」
その言葉に、誰も反論しなかった。
夜。
王宮の灯りは、規則正しく消えていく。
特別な事件はない。記録に残る判断もない。
だが、レオンハルトは知っている。
沈黙を守ることこそ、最も難しい判断だと。
一方、フォーマルハウト領の夜。
私は日誌を開き、いつもより少し長く書いた。
――沈黙は、逃げではない。
――沈黙は、維持のための選択だ。
動かない勇気。
何もしない決断。
それは、声を上げるよりもずっと、疲れる。
距離は、変わらない。
だが、その距離の中で、王宮と領地はそれぞれに――
同じ沈黙を受け止め、同じ覚悟を試されていた。
沈黙は、問いを投げかける。
それでも、基準を守れるか。
答えは、今日も声に出されないまま、
確かにそこにあった。
残るものが定まった後、次に訪れるのは――沈黙だ。
騒がしさが消え、反対も称賛も途切れた場所で、人は不安になる。何も起きないことを、疑い始める。
王宮では、その沈黙が少し長く続いていた。
「殿下、特段の動きはありません」
「……そうか」
レオンハルトは報告書を閉じる。
数字は安定し、問い合わせは減り、予定は予定通りに消化されている。
だが、人の顔には、わずかな緊張が残っていた。
「何か起きるのでは、と?」
側近の問いに、彼は頷いた。
「人は、静けさに慣れていない」
混乱や対立は、注意を引く。
だが沈黙は、判断する者の覚悟を試す。
昼の会合では、議題が早々に尽きた。
「……以上です」
誰も続けない。
沈黙が、会議室を満たす。
「問題がないなら、解散でいい」
レオンハルトの言葉で、皆が席を立つ。
だが、歩き出すまでの一瞬、誰もが迷う。
――本当に、これでいいのか。
一方、フォーマルハウト領。
私は朝の巡回を終え、執務室で帳簿を閉じていた。
異常はない。報告も簡潔だ。
「最近、相談が減りました」
執事の言葉に、私は頷く。
「判断が共有されている証拠です」
だが、彼は少し躊躇してから続けた。
「……同時に、不安も出ています。“この静けさは大丈夫なのか”と」
「ええ。分かります」
沈黙は、成果であると同時に、試練でもある。
午後、集会所で若手が一人、手を挙げた。
「何か、改善を提案した方がいいのでしょうか。
……何も起きていないのが、少し怖くて」
率直な言葉だった。
私は否定せず、少し考えてから答える。
「提案は、問題がある時にしてください」
「え……?」
「問題がないのに動くと、基準を壊します」
沈黙を壊す理由は、退屈では足りない。
「何もしない、という判断もあります」
彼は驚いたように目を瞬かせ、やがて深く頷いた。
同じ頃、王宮でも似た声が上がっていた。
「殿下、何か新しい施策を打ち出すべきでは?」
「なぜだ」
「……静かすぎます」
レオンハルトは、即座に答えなかった。
沈黙を、もう一度受け止めてから言う。
「静かなのは、機能しているからだ」
派手な一手は、喝采を生む。
だが、それは同時に、次の派手さを求めさせる。
「沈黙に耐えられない組織は、長く続かない」
その言葉に、誰も反論しなかった。
夜。
王宮の灯りは、規則正しく消えていく。
特別な事件はない。記録に残る判断もない。
だが、レオンハルトは知っている。
沈黙を守ることこそ、最も難しい判断だと。
一方、フォーマルハウト領の夜。
私は日誌を開き、いつもより少し長く書いた。
――沈黙は、逃げではない。
――沈黙は、維持のための選択だ。
動かない勇気。
何もしない決断。
それは、声を上げるよりもずっと、疲れる。
距離は、変わらない。
だが、その距離の中で、王宮と領地はそれぞれに――
同じ沈黙を受け止め、同じ覚悟を試されていた。
沈黙は、問いを投げかける。
それでも、基準を守れるか。
答えは、今日も声に出されないまま、
確かにそこにあった。
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