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第8話: 新天地の始まり
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第8話: 新天地の始まり
ついに、辺境の領地に到着した。
馬車が止まった場所は、深い森に囲まれた小さな谷間だった。
目の前には、古びた石造りの屋敷。壁は苔むし、窓ガラスは一部割れ、庭は雑草が背丈ほどに伸び放題。
遠くに、数軒の農家が見えるだけの、寂れた村。
御者が荷物を下ろしながら、申し訳なさそうに言った。
「お嬢様、ここが……旧リンデル領地です。以後、失礼いたします」
馬車が去っていく音を聞きながら、エルカミーノはゆっくりと屋敷の門をくぐった。
「わあ……思ったより荒れてますわね、お嬢様」
セシルが周りを見回して呟く。
確かに、屋敷の中も埃だらけ。家具は最低限しか残っておらず、まるで廃墟のようだった。
しかし、エルカミーノの瞳は輝いていた。
「完璧よ、セシル。ここなら、誰にも邪魔されずに暮らせる」
彼女は屋敷の裏手へ回り、広大な空き地を眺めた。
かつての庭園跡だろう。土は肥沃で、雑草の下に薬草の原型がいくつか生えている。
(ここを、薬草園にしましょう。ポーションの材料を自分で育てて、のんびり錬金術に没頭するの)
エルカミーノはマントを脱ぎ、早速地面にしゃがみ込んだ。
指で土を触り、匂いを嗅ぐ。
「いい土ね。魔力も少し残ってる。この辺りは魔物の影響で、薬草がよく育つはず」
セシルが目を丸くする。
「お嬢様、もう計画立ててるんですか!?」
「もちろん。まずは屋敷を掃除して、薬草の種を撒きましょう。村の人たちにも、ポーションを少し配って信頼を得るのよ」
二人は荷物を運び込み、簡単な掃除を始めた。
夕暮れ時、屋敷の窓から見える森の景色は、美しくも静かだった。
村の長老が一人、様子を見にやってきた。
白髪の老人が、恐る恐る声をかける。
「……リンデル家のご令嬢でございますか? ここはもう、十年以上人が住んでおらぬゆえ……」
エルカミーノは穏やかに微笑んだ。
「これからは、私が住みます。皆さんのお役に立てるよう、薬草を育てて薬を作りますわ。どうぞよろしくお願いします」
長老は驚いた顔をしたが、彼女の落ち着いた態度に、少し安心した様子で頭を下げた。
夜。
簡易的に片付けた部屋で、エルカミーノは窓辺に座った。
星空が広がり、遠くで虫の声が響く。
(王都の喧騒から、ようやく解放された)
彼女は小さく息を吐き、胸に手を当てる。
(ここから、私のスローライフが始まる。錬金術を極めて、自由に生きるの)
セシルが温かいスープを持ってきて、隣に座った。
「お嬢様、明日から本格的に始めましょう!」
「ええ、そうね」
二人は笑い合い、静かな夜を過ごした。
――その頃、王都では別の動きが始まろうとしていた。
隣国エルドラントからの視察団が、辺境方面へ向かうという噂が、密かに流れ始めていた。
ついに、辺境の領地に到着した。
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「お嬢様、もう計画立ててるんですか!?」
「もちろん。まずは屋敷を掃除して、薬草の種を撒きましょう。村の人たちにも、ポーションを少し配って信頼を得るのよ」
二人は荷物を運び込み、簡単な掃除を始めた。
夕暮れ時、屋敷の窓から見える森の景色は、美しくも静かだった。
村の長老が一人、様子を見にやってきた。
白髪の老人が、恐る恐る声をかける。
「……リンデル家のご令嬢でございますか? ここはもう、十年以上人が住んでおらぬゆえ……」
エルカミーノは穏やかに微笑んだ。
「これからは、私が住みます。皆さんのお役に立てるよう、薬草を育てて薬を作りますわ。どうぞよろしくお願いします」
長老は驚いた顔をしたが、彼女の落ち着いた態度に、少し安心した様子で頭を下げた。
夜。
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彼女は小さく息を吐き、胸に手を当てる。
(ここから、私のスローライフが始まる。錬金術を極めて、自由に生きるの)
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「お嬢様、明日から本格的に始めましょう!」
「ええ、そうね」
二人は笑い合い、静かな夜を過ごした。
――その頃、王都では別の動きが始まろうとしていた。
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