婚約破棄された地味伯爵令嬢は、隠れ錬金術師でした~追放された辺境でスローライフを始めたら、隣国の冷徹魔導公爵に溺愛されて最強です~

ふわふわ

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第12話: 魔導公爵の提案

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第12話: 魔導公爵の提案

屋敷の応接間は、急ごしらえながらも清潔に整えられていた。  
古い木製のテーブルに、セシルが急いで用意した紅茶と焼き菓子が並ぶ。  
窓から差し込む午後の陽光が、薬草の香りを部屋に運んでくる。

エルカミーノは落ち着いた灰色のドレスに着替え、ラクティスと向かい合って座っていた。  
セシルは控えめに隅に立ち、ガレンは扉の近くで直立不動。

ラクティスは紅茶に口をつけもせず、紫の瞳でエルカミーノをじっと見つめていた。

「率直に言おう。  
お前の作るポーションは、革命的だ」

低く響く声に、感情はほとんど乗っていない。  
しかし、その言葉には確かな重みがあった。

「大陸の錬金術師ギルドでも、再現できなかった者はいない。  
希少素材ゼロで、あの効果。……お前は、天才だ」

エルカミーノは静かにカップを置き、微笑んだ。

「過大評価ですわ。私はただ、薬草が好きで、試行錯誤しただけです」

ラクティスはわずかに目を細めた。

「謙遜は無駄だ。  
私はエルドラントの魔導公爵。国を挙げて魔法と錬金を研究している。  
お前の才能は、国宝級だ」

彼はテーブルの上に、さきほど見せたポーションの瓶を置いた。

「隣国エルドラントへ来ないか。  
私の領地に、専用の錬金工房を用意する。  
材料、助手、予算――すべて無制限で提供する」

突然の提案に、セシルが息を呑む音が聞こえた。

エルカミーノは一瞬、目を丸くしたが、すぐに冷静さを取り戻した。

「……なぜ、私を?」

ラクティスは初めて、わずかに口角を上げた。  
それは冷たい笑みではなく、興味を隠さない本物の表情だった。

「理由は二つ。  
一つは、お前のポーションがエルドラントの軍事・医療に革命を起こすから。  
もう一つは――」

彼は少し身を乗り出し、声を低くした。

「純粋に、興味がある。お前の錬金術を、間近で見たい」

その紫の瞳に、魔導師としての探究心がはっきりと宿っていた。  
腹黒で冷徹と噂される公爵だが、今はただの研究者――いや、才能に飢えた者の顔だった。

エルカミーノは内心で考える。

(隣国へ移る……?  
ここでのスローライフは気に入ってるけど、確かに工房が充実すれば、もっと高度なポーションが作れる)

しかし、すぐに決断は出さなかった。

「急なお話で、驚いています。  
少し、考えさせてください」

ラクティスは頷き、立ち上がった。

「構わない。三日後にまた訪れる。  
その時、答えを聞こう」

彼は一歩近づき、エルカミーノの手を取って軽く口づけを落とした。  
貴族の礼儀として当然の仕草だが、その指先が少し長く触れていた。

「楽しみにしているよ、エルカミーノ・フォン・リンデル」

銀髪が翻り、ラクティスはガレンを伴って屋敷を後にした。

馬車が去った後、セシルが興奮気味に駆け寄る。

「お嬢様! 隣国スカウトですよ!? 大陸最強の魔導公爵が、直々に!」

エルカミーノは窓から遠ざかる馬車を見送りながら、小さく息を吐いた。

「……確かに、魅力的ね。  
でも、急ぎすぎじゃないかしら、あの人」

彼女の頰が、ほんのり赤く染まっていたことに、  
セシルだけが気づいた。

薬草園の風が、いつもより少し強く吹いていた。

12話、いかがでしょうか?  
ラクティスのスカウト提案と、初の「興味」発言で溺愛の布石を置きつつ、エルカミーノの迷いを描きました♪  
少しずつ甘い雰囲気も出てきましたね。
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