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第1章 転生と記憶の覚醒
しおりを挟む──残業、三日連続オール。
納期は昨日。バグは山積み。上司は「若いんだから根性で」とか言うし。
……それで私は、気づいたら倒れてた。
目を覚ましたときには、病院の天井でもオフィスの蛍光灯でもなく、きらびやかなシャンデリアが見えた。
「……は?」
自分の声がやけに高い。
身体を起こせば、絹のシーツ。鏡に映ったのは──金色の髪、青い瞳の可憐なお嬢様。
「え、誰……私?」
頭にガン、と衝撃。大量の記憶が一気に流れ込んできた。
エリアナ・フォン・アルトハイム。アストラル王国の名門、公爵家の長女。十六歳。
これが、今の私の「設定」らしい。
……いやいやいやいや。ちょっと待って。
私、桜井美咲。二十八歳、社畜SE。趣味はアニメ・ラノベ・ゲーム。特技は徹夜と即席カップ麺。
それがなんで「公爵令嬢」になってんの? チート転生? っていうかオタク的にはお約束すぎる。
だが、困惑している間にも脳内の「前世メモリー」が鮮明になっていく。
──どうやら、十六歳の誕生日を迎えた瞬間に、前世の記憶が完全に復活したらしい。
「え、マジでこれ……異世界転生……?」
窓を開けると、石畳の街並み、馬車が走り、空には飛竜が舞っている。
ファンタジーRPGの背景そのままじゃん。
いや、テンション上がるけど! でも! これ、どう生きていけばいいの!?
---
ガチャ、と扉が開いた。
「お嬢様、準備は整いましたか?」
現れたのはメイドのマリア。控えめな笑みを浮かべている。
「え、準備……?」
「本日は十六歳の誕生日。王太子殿下から祝辞を賜る儀式がございます」
──あ。そうだった。この体の持ち主、エリアナは王太子フィリップの許嫁。政略婚約済み。
前世の私からすると「うわ、乙女ゲームかよ!」な展開だ。
王太子フィリップ。顔は良い。王位継承者として将来も安泰。
でも……流れ込んできた記憶の中の彼は、どうにも傲慢で、自分のことしか考えていない男だった。
(嫌な予感しかしない……)
---
式典の広間。煌びやかなドレスに身を包み、私は王太子フィリップと対面する。
「エリアナ。誕生日おめでとう」
涼やかな笑み。周囲の貴族令嬢たちは「きゃーっ」と小声を上げている。
「……ありがとうございます、殿下」
完璧な令嬢スマイルを返す。だが内心は冷汗ダラダラだ。
この人、記憶の中だと愛人持ちだったはず……。しかもその相手が伯爵令嬢セレスティア。
嫌なイベントフラグが、ビンビンに立っている。
---
夜、自室に戻ると、ベッドに倒れ込み深くため息をついた。
「うわぁ……やば。婚約者が王太子とか、どう考えても死亡フラグ」
ラノベ的には婚約破棄待ったなし。そして処刑とか追放とかがテンプレ展開。
でも、私はゲームの悪役令嬢じゃない。ただのオタクSEだ。処刑とか断固拒否。
「とりあえず……生き残るために情報収集ね」
机の上には薬草学の教本。ちらっと目を通す。
──中世レベルの医療知識。感染症は「瘴気」、治療は「祈りと薬草」。
オタクSEの脳内ではすぐにツッコミが炸裂する。
「いやいやいや。抗生物質も消毒もないの? あ、これ絶対ヤバいやつ」
前世でかじった化学・医学の知識がむくむくと顔を出す。
もしこの世界で感染症とか流行ったら……絶対に人死にまくる。
「……もしかして、私、この知識で無双できる……?」
そんな予感がふと胸をよぎった。
だが同時に、ひとつの不安がよぎる。
「いや、待て待て。私、医者じゃないし。ただの聞きかじりだし……」
──それでも。
この異世界で「誰かを救えるかもしれない」って考えたら、心臓が少し高鳴った。
転生してまで社畜するのは嫌だ。けど。
もしも、私の知識が人を救う役に立つなら──。
エリアナ・フォン・アルトハイム。十六歳、公爵令嬢。
異世界転生オタクの私の、第二の人生が始まる。
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