異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ

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第3章 謎の病の蔓延

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 王太子に婚約破棄された翌週。王都の社交界は、別の話題で持ちきりになっていた。

「ご存知? あの子も寝込んでしまったそうよ」
「ええ……見た目はまるで、呪いにかかったようで……」

 ──謎の病気が、若い貴族令嬢たちの間で広がっていたのだ。


---

「お嬢様、これをご覧ください」
 メイドのマリアが差し出したのは、手紙の束だった。どれも差出人は社交界の友人や知人。

 内容は揃って「病気で倒れた」「助けて」といった訴えだった。

 症状は──皮膚がまだらに変色し、髪が抜け落ち、震えやけいれんを起こす。
 ……うわ。記憶の片隅にあるぞ、これ。

「宮廷医師は『伝染病』って言ってるみたいですね」
 マリアが不安げに告げる。

「伝染病、ねえ……」

 私は眉をひそめた。感染症? 確かにそう見える。でも、症状がどうもそれっぽくない。

(皮膚変色、脱毛、神経障害……これ、教科書で見たぞ。いや、ラノベかもしれないけど!)

 脳内検索エンジンが勝手に動く。
 ──重金属中毒。特に水銀や鉛。

「……いやいやいや。まさかね、こんな異世界に重金属中毒なんて」

 でも、現実の知識を差し引いても、この症状は典型的すぎる。


---

 私は実際に患者を見てみようと決めた。
 幸い、アルトハイム公爵家の名はまだ重みがある。知人の伯爵家に「お見舞い」を理由に訪問した。

 寝室のベッドには、顔色の悪い少女が横たわっていた。年は十五、十六。私と同じくらい。
 彼女の髪はごっそり抜け落ち、皮膚は白斑のようにまだらに変色していた。

「……これは……」

 目を閉じると、前世で読んだ医療系ラノベの一節が鮮明によみがえる。
 ──“かつて欧州では、美白用の化粧品に水銀や鉛が含まれ、使用者が次々と倒れた”──

 そうだ。この症状、完全に一致する。

「お嬢様……?」
 マリアが心配そうに覗き込む。

「マリア、患者さんの化粧品を調べたいの。特に新しく使い始めたものがあれば」

 そう言って看護婦に尋ねると、彼女は小瓶を持ってきた。
 銀色に光る液体が入った、美しい容器。ラベルには「月光の雫」と書かれている。

(出た……怪しすぎる!)


---

 私はすぐに王都の市場で調べた。
 「月光の雫」は最近流行りの美白化粧品。高価だが「貴族の必須アイテム」として大人気らしい。
 そして──製造元は、セレスティア・ローズの出資する商会。

「はぁぁぁぁ……やっぱりお前か」

 思わず額を押さえた。
 まさかの“愛人ヒロインの事業=毒物商売”という、悪役属性フルコンボ。

 けれどこれはただの噂話じゃない。実際に少女たちが倒れている。命の問題だ。


---

 夜、自室に戻り、私は机に広げた紙にペンを走らせた。

「もしこれが水銀や鉛の中毒なら……治療法は……」

 記憶を辿る。
 ──キレート剤。重金属を体外に排出する薬。名前は、えっと……EDTA。
 化学式は……C₁₀H₁₆N₂O₈。

「いやいや、暗記してる自分が怖いわ」

 大学で化学専攻でもなかったのに。オタク趣味で読んだ本やラノベの断片が、なぜか頭に刻み込まれている。
 でも、ここは異世界。そんな薬が存在するはずがない。

「作るしか、ない……のかな」

 ぞくり、と背筋が震えた。
 ただの社畜SEが、異世界で新薬を作ろうとしている。
 でも──放っておけば、友人たちが次々と命を落とす。

「……やるしか、ない」

 決意と同時に、胸の奥に奇妙な高揚感が湧いた。
 ラノベの主人公ムーブ。いや、これが私の新しい「役割」なのかもしれない。


---

 そして翌朝。
 私は決意を固め、侍女マリアに告げた。

「マリア、錬金術師を探して。化学に詳しい人が必要よ」

「錬金術師……ですか?」

「ええ。私がやりたいことを実現するには、絶対に必要なの」

 窓の外に広がる王都の空を見上げる。
 その青はどこまでも澄んでいたが──貴族令嬢たちを蝕む病の影は、確実に広がっていた。

「待ってて……絶対に助けるから」

 エリアナ・フォン・アルトハイム。
 オタク知識を武器にした、異世界の反撃が始まろうとしていた。

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