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第2章 王太子の裏切りと婚約破棄
しおりを挟む──それは、あまりにも唐突だった。
「エリアナ・フォン・アルトハイム。貴様との婚約は、本日をもって破棄する!」
王宮の大広間。煌びやかな舞踏会の最中、王太子フィリップ殿下は堂々とそう宣言した。
え、ちょっと待って。今なんて言った?
「え? 婚約……破棄?」
思わず口に出してしまう。周囲の貴族たちはざわめき、扇子で口を隠しながらヒソヒソ話を始めた。
フィリップの隣には、ドレスを纏った一人の女性が立っている。薔薇色の巻き髪を揺らし、勝ち誇った笑みを浮かべる──セレスティア・ローズ。
伯爵令嬢。つまり「愛人ヒロインポジション」である。
「そうだ。私は真実の愛を見つけたのだ! セレスティアこそ、私の未来の妃にふさわしい!」
バカ王子、爆誕。
---
正直、驚きは……なかった。
だって、前世のオタク知識が囁いていた。「政略婚約+王太子=浮気&婚約破棄イベント確定」って。
むしろ来たな、テンプレ! って感じである。
「……そうですか」
私は静かに息をつき、完璧な令嬢スマイルを浮かべた。
会場の視線が一斉にこちらに集まる。泣く? 怒る? 取り乱す? ──そんな反応を期待しているんだろうけど、残念。
「殿下のお気持ちが定まられたのであれば、私に異論はございませんわ」
「……なっ」
フィリップが、ぽかんと口を開けた。
そう、こいつは「俺が一方的に振ったのに、エリアナが泣き崩れて哀願する」展開を期待していたのだ。
テンプレ破壊。
---
そこへ、継母マーガレットと異母妹イザベラが駆け寄ってきた。
「まあまあ! 殿下のお言葉を拒むなんて、なんて厚かましい娘!」
「そうよお姉様、潔く退場なさったら? アルトハイム公爵家の名誉をこれ以上汚さないで!」
──出たよ。後妻とその娘による追い出し工作。王道イベントのフルコース。
「ふふ……お気遣いありがとうございます」
私は微笑んで一礼する。だが心の中では叫んでいた。
(いやいや! 自分の家族にここまで冷たくされるとか、私のポジション完全に“悪役令嬢”じゃん!? もうやだー!)
とはいえ、泣き叫んでも状況は変わらない。ここはオタク的に正解ムーブ、「冷静&余裕対応」である。
---
セレスティアが一歩前に出て、芝居がかった仕草で胸に手を当てた。
「殿下のお心を受け止め、身も心も捧げる覚悟にございます」
「おお、愛しいセレスティア!」
二人は堂々と手を取り合い、見つめ合う。
……なんか観客の目もあるのに、この人たち羞恥心というものはないのだろうか。
周囲の貴族たちは「まあ……」と戸惑いの声を漏らしている。だが表立って王太子を批判する勇気はないらしい。
政権批判は命に関わるからね。
(はいはい、勝手にやってろ。どうせ後で痛い目見るんだから)
---
その夜。自室に戻った私は、鏡の前で大きく息を吐いた。
「……はぁぁぁ。やられたなぁ」
婚約破棄。普通なら絶望モノのイベント。
でも不思議と、心は落ち着いていた。むしろ肩の荷が下りた気分だ。
「だってさ、考えてみればあの王太子、めっちゃ地雷物件だよね?」
イケメン? 確かにそう。
でも浮気性、自己中心的、そして思考は浅い。
結婚してたら、胃に穴が開いて早死にする未来しか見えない。
「うん。これはむしろ……ザマァ要素を楽しめってことだな」
前世で培ったオタク精神が、妙に冷静な分析を下す。
物語的には「ここから主人公の逆転劇が始まる」やつだ。
「さて。これからどう動くか……」
私は机に向かい、紙とペンを取った。
異世界で生き延びるための戦略会議。
敵は王太子、愛人、そして継母と異母妹。だけど──私には「現代知識」というチートがある。
「まずは……情報収集。次に……医療知識の検証」
手帳に箇条書きをしていく。完全に前職のSEモードである。
恋愛? 涙? そんなものよりまずタスク整理。
「はは……やっぱり私、社畜気質抜けてないなぁ」
でもそれでいい。
だって、この世界をサバイブするには、冷静さと知識が武器になるのだから。
---
夜空に浮かぶ月を見上げ、私は小さく呟いた。
「さあ……始めましょう。異世界ザマァ・リベンジ劇を」
そうしてエリアナ・フォン・アルトハイムの第二章が幕を開けた。
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