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第5章 錬金術師との出会い
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第5章 錬金術師との出会い
──治療薬を作る。
そのためには、この世界で「化学」を理解してくれる協力者が必要だった。
「マリア、王都で一番の錬金術師は誰?」
「アレクサンダー・ド・ヴァレンティーノ様かと……ですが、あのお方は変人と評判でして」
「変人? いいじゃない。むしろ私にぴったりだわ」
──そう、オタクは変人と仲良くなるスキルに長けている。
---
そして私は、アレクサンダーの研究所を訪ねた。
王都の外れ、小高い丘に建つ石造りの屋敷。門扉からして怪しげな雰囲気が漂っている。
「……ごめんくださーい」
重い扉を開けると、薬草や鉱石が散乱した実験室。奥から低い声が聞こえた。
「何の用だ。弟子入りなら断るぞ」
現れたのは、長身で銀髪の青年。冷ややかな灰色の瞳に知性の光が宿っていた。
噂通り“変人”の雰囲気だが、どこか凛とした美しさがある。
「弟子入りじゃありません。お願いがあって来ました」
「……公爵令嬢が、錬金術師に頼み事?」
怪訝そうな視線。
「重金属を体から排出する薬を作りたいんです」
「……は?」
アレクサンダーの目が細くなる。
普通の令嬢なら「美肌薬が欲しい」とか「恋愛成就の薬を」と言うだろう。
だが私は真顔で化学式を思い出していた。
「C₁₀H₁₆N₂O₈。これを合成したいんです」
「………………」
静寂。
アレクサンダーは眉をひそめ、ゆっくりと口を開いた。
「今……何と言った?」
「C₁₀H₁₆N₂O₈、です。エチレンジアミン四酢酸ナトリウム。重金属と結合して体外に排出する薬です」
「…………」
しばしの沈黙ののち、彼は突然机を叩いた。
「君……何者だ!?」
---
研究室に緊張が走る。
私は慌てて手を振った。
「え、いや、その……ただの聞きかじりです! 詳しいわけじゃないんです! でも必要なんです!」
「聞きかじりで“C₁₀H₁₆N₂O₈”を口にする者がどこにいる!」
アレクサンダーの瞳が鋭く光る。まるで宝石を発見した研究者のような眼差しだ。
「……いいだろう。興味が湧いた。君の無茶な要求、試してやる」
「ほ、本当ですか!?」
「だが条件がある」
「条件?」
「研究に口を出すなら、最後まで責任を持て。失敗すれば“狂気の令嬢”と笑われるぞ」
「……構いません。私、もう笑われ慣れてますから」
口にした瞬間、自分でも驚くほど強い声になっていた。
---
それから数日。
私はアレクサンダーの研究室に通い詰めた。
「試薬を混ぜる順番を間違えるな!」
「は、はいっ!」
フラスコの中で液体が激しく泡立ち、白い煙が上がる。
「ちょ、これ爆発しないですよね!?」
「わからん。だが学問は常に爆発の危険を孕む」
「そんな格好いいこと言わないで! 本当に爆発したらどうするの!」
何度も失敗し、手は薬品の匂いで染まった。
それでも、少しずつ形が見えてきた。
──透明な溶液。その中に、希望が詰まっている。
「……完成、か」
アレクサンダーが呟く。
「ええ。これが……EDTA。重金属中毒を治せる薬」
胸の奥で、熱いものが込み上げた。
---
「エリアナ」
アレクサンダーが名を呼んだ。
「君は何者なんだ。本当にただの公爵令嬢か?」
「……ただの、オタクです」
「オタク?」
「うまく説明できないけど……知識に偏ってる人間、って意味です」
彼はしばし黙り、やがて口元にわずかな笑みを浮かべた。
「なるほど。ならば私は、君と同じだな」
「え?」
「私も知識に取り憑かれた変人だ。なら、君は最高の研究仲間だ」
その言葉に、胸が少し温かくなった。
---
こうして、最初の治療薬は完成した。
次は──患者への投与。命を懸けた実験だ。
「行きましょう、アレクサンダー」
「恐れ知らずの公爵令嬢だな」
「だって……救える命があるんですもの」
私の第二の人生。いよいよ本当の意味で、走り出そうとしていた。
──治療薬を作る。
そのためには、この世界で「化学」を理解してくれる協力者が必要だった。
「マリア、王都で一番の錬金術師は誰?」
「アレクサンダー・ド・ヴァレンティーノ様かと……ですが、あのお方は変人と評判でして」
「変人? いいじゃない。むしろ私にぴったりだわ」
──そう、オタクは変人と仲良くなるスキルに長けている。
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そして私は、アレクサンダーの研究所を訪ねた。
王都の外れ、小高い丘に建つ石造りの屋敷。門扉からして怪しげな雰囲気が漂っている。
「……ごめんくださーい」
重い扉を開けると、薬草や鉱石が散乱した実験室。奥から低い声が聞こえた。
「何の用だ。弟子入りなら断るぞ」
現れたのは、長身で銀髪の青年。冷ややかな灰色の瞳に知性の光が宿っていた。
噂通り“変人”の雰囲気だが、どこか凛とした美しさがある。
「弟子入りじゃありません。お願いがあって来ました」
「……公爵令嬢が、錬金術師に頼み事?」
怪訝そうな視線。
「重金属を体から排出する薬を作りたいんです」
「……は?」
アレクサンダーの目が細くなる。
普通の令嬢なら「美肌薬が欲しい」とか「恋愛成就の薬を」と言うだろう。
だが私は真顔で化学式を思い出していた。
「C₁₀H₁₆N₂O₈。これを合成したいんです」
「………………」
静寂。
アレクサンダーは眉をひそめ、ゆっくりと口を開いた。
「今……何と言った?」
「C₁₀H₁₆N₂O₈、です。エチレンジアミン四酢酸ナトリウム。重金属と結合して体外に排出する薬です」
「…………」
しばしの沈黙ののち、彼は突然机を叩いた。
「君……何者だ!?」
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研究室に緊張が走る。
私は慌てて手を振った。
「え、いや、その……ただの聞きかじりです! 詳しいわけじゃないんです! でも必要なんです!」
「聞きかじりで“C₁₀H₁₆N₂O₈”を口にする者がどこにいる!」
アレクサンダーの瞳が鋭く光る。まるで宝石を発見した研究者のような眼差しだ。
「……いいだろう。興味が湧いた。君の無茶な要求、試してやる」
「ほ、本当ですか!?」
「だが条件がある」
「条件?」
「研究に口を出すなら、最後まで責任を持て。失敗すれば“狂気の令嬢”と笑われるぞ」
「……構いません。私、もう笑われ慣れてますから」
口にした瞬間、自分でも驚くほど強い声になっていた。
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それから数日。
私はアレクサンダーの研究室に通い詰めた。
「試薬を混ぜる順番を間違えるな!」
「は、はいっ!」
フラスコの中で液体が激しく泡立ち、白い煙が上がる。
「ちょ、これ爆発しないですよね!?」
「わからん。だが学問は常に爆発の危険を孕む」
「そんな格好いいこと言わないで! 本当に爆発したらどうするの!」
何度も失敗し、手は薬品の匂いで染まった。
それでも、少しずつ形が見えてきた。
──透明な溶液。その中に、希望が詰まっている。
「……完成、か」
アレクサンダーが呟く。
「ええ。これが……EDTA。重金属中毒を治せる薬」
胸の奥で、熱いものが込み上げた。
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「エリアナ」
アレクサンダーが名を呼んだ。
「君は何者なんだ。本当にただの公爵令嬢か?」
「……ただの、オタクです」
「オタク?」
「うまく説明できないけど……知識に偏ってる人間、って意味です」
彼はしばし黙り、やがて口元にわずかな笑みを浮かべた。
「なるほど。ならば私は、君と同じだな」
「え?」
「私も知識に取り憑かれた変人だ。なら、君は最高の研究仲間だ」
その言葉に、胸が少し温かくなった。
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こうして、最初の治療薬は完成した。
次は──患者への投与。命を懸けた実験だ。
「行きましょう、アレクサンダー」
「恐れ知らずの公爵令嬢だな」
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私の第二の人生。いよいよ本当の意味で、走り出そうとしていた。
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