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第13章 様々な感染症の治療成功
しおりを挟む──「青の雫(ペニシリン)」は、瞬く間に広がった。
王都の診療所はもちろん、地方からも患者を乗せた馬車が押し寄せてくる。
「お嬢様、もう廊下にまで人が……!」
「マリア、順番を守ってもらって。今日は無理でも、明日必ず診ますって伝えて」
私の一日は、息つく暇もなく患者と向き合うことで始まり、終わる。
---
ある日、診療所に運び込まれたのは、重度の肺炎に苦しむ男だった。
青の雫を投与し、一晩中見守る。翌朝、彼の荒い呼吸が静かに整っていった。
「……息が、楽だ……」
掠れた声が響いた瞬間、妻が号泣しながら彼の手を握った。
また別の日には、馬に蹴られた青年が高熱と痙攣に苦しんでいた。
破傷風──前世で恐ろしいと知っていた病気。青の雫を打ち、数日後、彼は笑顔で歩けるまでに回復した。
「生きてる……! 本当に助かったんだ!」
その歓声が診療所の壁を震わせる。
---
産褥熱に倒れた母親もいた。
高熱にうなされ、腕の中の赤子を抱くこともできなかった彼女が、青の雫で一週間後には自ら授乳できるまでに回復した。
「……母乳をあげられる……! 本当に奇跡だわ!」
その光景を見て、私は泣きそうになった。
前世で読んだ歴史書に書いてあった。かつて産褥熱は“母殺しの病”として恐れられていたと。
それを防げる薬を、この異世界で実現できた。
---
次々と舞い込む依頼に、私たちの小さな診療所はまるで戦場のようだった。
「エリアナ嬢、膿が止まらなかった子どもが、もう痛がっていません!」
「耳の痛みを訴えていた少年が、もう歌を歌えるようになったぞ!」
医師見習いの青年たちが、嬉しそうに報告してくる。
「よかった……でも必ず記録を残してね。何人目、何日で、どう回復したか」
「はい!」
彼らの目は輝いていた。
伝統を重んじる医師ではなく、未来を見たい若者たちが、ひとりまたひとりと仲間に加わっていく。
---
しかし──反発も強まった。
「こんなものは小手先のまやかしだ!」
「青の雫など悪魔の毒に違いない!」
伝統派の医師たちは、私の診療所の前で声を荒げた。
王立医学会の古参も、「不純な方法で病を操るのは神への冒涜だ」とまで言った。
けれど、それでも患者たちは離れなかった。
「私の娘を救ってくれたのはエリアナ様です!」
「息子の命を繋いでくれた! 誰が何と言おうと、あの方は救世主だ!」
患者や家族の声が、反発をかき消していった。
---
ある晩。疲れ果てて研究所の机に突っ伏していた私に、ルカスが言った。
「……君はもう、ただの一令嬢じゃない」
「え……?」
「何百という命を救ってきた。敵が増えても、味方も増えている。君の背中を見て、希望を持つ者たちがいる」
その瞳は、どこまでも真剣で。
私は胸が熱くなった。
(私なんかが、希望に……? ただのオタクSEなのに……)
けれど、確かに人々は笑顔を取り戻している。
その事実だけは、誤魔化せなかった。
---
診療所の外に出ると、若手医師や薬師たちが談笑しているのが見えた。
「次は、青の雫をもっと効率よく作れる仕組みを考えよう」
「俺、地方にも広めたいんだ」
その姿はまるで、炎が次々と燃え移っていくかのようだった。
「……覚醒、ね」
私は小さく呟いた。
彼らはもう、“古い権威”の鎖を断ち切り、新しい未来へ歩み出している。
そして、私の中にも確信が芽生えていた。
「これは、ただの薬じゃない。……革命だ」
青の雫が生み出す未来は、想像以上に大きなうねりとなって世界を変えていく──そう、感じずにはいられなかった。
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