異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ

文字の大きさ
15 / 62

第15章 マドレーヌと輸血革命

しおりを挟む

 白衣に身を包んだエリアナは、実験室の一角で何やら作業をしていた。

白い粉末を振り入れ、黄金色のどろりとした液体を加えて撹拌。さらに別の粉末を二種類加えて混ぜ合わせ、溶かしたバターをゴムベラで伝わせるように加えて――丁寧に混ぜ込む。

 一時間ほど休ませた生地を取り出すとスプーンですくって器に流し込み……予熱したオーブンで焼き上げた。

 竹串を刺す。生地がついてこない。

「成功だわ。マドレーヌの完成よ」

(前世で大好きだったお菓子……まさか、この世界でも作れるなんて)

 ふわりと漂うバターと砂糖の甘い香り。
 紅茶と一緒に口へ運ぶと、エリアナの頬が緩む。

 だが、その至福のひとときは唐突に破られた。

「エリアナ殿ーー!!!」

 扉を蹴破らんばかりに飛び込んできたのは、血相を変えた宮廷医師長ガブリエルだった。

「……だから、私は医者じゃないのに」

 頭を抱えるエリアナ。最近はなにかあるたびに呼び出されている気がする。

「国王陛下が大怪我をなされ、多量の出血を! どうかお力を!」

「出血!? 輸血は?」

「ば、馬鹿な……輸血など悪魔の所業! 過去に試した者は皆、失敗して死んだ!」

「へえ? 血液型はちゃんと調べたの?」

「け、血液……型?」

「……そこからかぁ」

 深いため息。
(やっぱり、この世界には血液型の概念すらないのね)

「ガブリエル先生。輸血が失敗するのは、血液型が合わないからなんですのよ」


---

 王宮の医務室。
 国王アルフレッド三世は顔面蒼白、呼吸も浅く、王妃がその手を握って涙をこぼしていた。

「エリアナ様、本当に輸血なんて……」
 侍医長が震える声をあげる。

「大丈夫です。まずは血液型を調べましょう」

 エリアナは前世の知識を総動員し、即席で抗A血清と抗B血清を作り始める。

「抗……血清?」

「ええ、特定の血液型に反応する試薬ですわ」
(『異世界外科医エリーゼ』で読んだ知識、ここで役に立つなんて!)

 顕微鏡で凝集反応を確認し、エリアナは告げた。

「陛下は……A型ですわ」

 医師たちがどよめく。

「では、A型かO型の血液を持つ方を探しましょう」


---

「私の血をお使いください!」

 真っ先に名乗り出たのは騎士団副団長ルカス。

「陛下のためなら!」
「私も!」

 次々に志願者が現れる中、エリアナは手早く検査を進める。

「ルカス様はO型ですわね。万能供血者です」

「万能……?」

「O型の血は、誰にでも輸血できるのです」

「そんな都合のいい話が……」

「科学的事実ですわ。では、輸血を始めます」

 そう言って、エリアナは迷いなく準備を進めた。


---

 ルカスの血液が細い管を伝い、国王の体内に流れ込む。

「陛下の顔色が……!」
「良くなってきている!」

 驚きの声が医務室に響いた。
 国王の頬に赤みが差し、呼吸が安定していく。

「奇跡だ……」
「エリアナ様が陛下を救われた!」

「私は何もしていませんわ。ただ、正しい知識を使っただけです」

 そう謙遜する彼女に、ガブリエルが問いかける。
「だが、どうして血液型など知っていたのですか?」

「それは……医学書で読んだのです。確か、ABO式血液型分類法と呼ばれていました」

「ABO式……」

「ええ、オーストリアの学者カール・ラントシュタイナーが発見したとか」
「だれだ?」
(本当は前世のラノベ小説からの知識だけど……まぁ、いいか)


---

 数時間後。
 国王はゆっくりと目を開けた。

「……私は、生きているのか」

「陛下!」
 王妃が涙を浮かべて抱きつく。

「エリアナ嬢……君が救ってくれたのか」

「いえ、ルカス様の勇気ある献血のおかげです」

「輸血……そんな治療法があったとは」

 国王は感慨深げに呟いた。

「これで多くの命が救えるようになりますね」
 エリアナが微笑むと、ガブリエルは真剣な顔で言った。

「血液型の検査法を確立せねばなりませんな」

「ええ、医学教育にも取り入れるべきでしょう」

「エリアナ様、ぜひ医学院で講義を!」

「だから、私は医者じゃないってば!」

 慌てて手を振る彼女に、笑いが起こる。

 国王は穏やかに微笑んだ。
「君の知識は、この国の宝だ。輸血技術が広まれば、多くの命が救われるだろう」

 エリアナは胸の奥に複雑な想いを抱えながらも頷いた。
(またひとつ、この世界を変えてしまった……)


---

 その夜。
 自室でマドレーヌを口にしながら、エリアナはひとり考えていた。

「今日も大変だったわね……でも、陛下が助かって良かった」

(輸血技術が普及すれば、もっと多くの人が救われるはず)

「私のオタク知識……意外と役に立つのね」

 苦笑しながら、紅茶をひと口。
 窓の外、王宮の明かりが煌々と輝いている。きっと国王の回復を祝っているのだろう。

「明日はまた何が起こるのかしら……」

(でも、困っている人がいたら……やっぱり助けたい)

 そう心に決め、エリアナは静かに微笑んだ。
 新たな医学革命の幕開けだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄され追放されましたが、隣国の氷の公爵様に“白い結婚”を提案されましたので、心穏やかに幸せになりますわ

鷹 綾
恋愛
婚約破棄されたその日、私は“追放令”も同時に宣告された。 王太子エドモンド殿下曰く、 「君のように冷たい女はいらない。真実の愛は聖女ローザだ」──と。 ……それなら結構ですわ。 捨ててくださって、ありがとうございます。 行く宛もなく王都を去った私を拾ったのは、 冷徹と噂される若き宰相代理アレクシス様。 「俺と“白い結婚”をしないか。  互いの自由を侵さない、契約だけの結婚だ」 恋愛感情は一切なし。 ――そんなはずだったのに。 料理を褒めてくれる優しい声。 仕事帰りにかけてくれる「ただいま」。 私の手をそっと包む温もり。 気づけば、契約のはずの彼との距離が、少しずつ近づいていく。 そんな折──王太子と偽聖女ローザが私を“罪人”に仕立て上げ、 祝福の儀の場で公開断罪しようと企む。 「セレナに触れるな。……彼女は、俺の妻だ」 アレクシス様が壇上で剣を抜いた瞬間、 私の世界は大きく動き出した。 偽りの聖女は暴かれ、王太子は没落。 追放された令嬢の“ざまぁ”が王都を駆け巡る中、 契約で始まった白い結婚は――本物の夫婦の誓いへと変わっていく。 これは、 捨てられた令嬢が“本当の幸せ”をつかみ取る、 大逆転のラブストーリー。 ---

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

薬師の能力を買われた嫁ぎ先は闇の仕事を請け負う一族でした

あねもね
恋愛
薬師として働くエリーゼ・バリエンホルムは貴族の娘。 しかし両親が亡くなって以降、叔父に家を追い出されていた。エリーゼは自分の生活と弟の学費を稼ぐために頑張っていたが、店の立ち退きを迫られる事態となる。同時期に、好意を寄せていたシメオン・ラウル・アランブール伯爵からプロポーズを申し込まれていたものの、その申し出を受けず、娼館に足を踏み入れることにした。 エリーゼが娼館にいることを知ったシメオンは、エリーゼを大金で身請けして屋敷に連れ帰る。けれどそこは闇の仕事を請け負う一族で、シメオンはエリーゼに毒薬作りを命じた。 薬師としての矜持を踏みにじられ、一度は泣き崩れたエリーゼだったが……。 ――私は私の信念で戦う。決して誰にも屈しない。

本物聖女の力は無力でした ――見世物レベルの聖女のおかげで婚約破棄されました――**

鷹 綾
恋愛
魔法が存在しないと信じられていた世界に、 突如として現れた「本物の聖女」。 空中浮遊、瞬間移動、念動力―― 奇跡を披露した平民の少女は、たちまち市民の熱狂を集め、 王太子はその力に目を奪われる。 その結果、 王太子の婚約者だった公爵令嬢アストリアは、 一方的に婚約を破棄されてしまった。 だが、聖女の力は―― ・空中浮遊は、地上三十センチ ・瞬間移動は、秒速一メートル ・念動力は、手で持てる重さまで 派手ではあるが、実用性は乏しい。 聖女の力は、見世物レベル。 少なくとも、誰もがそう判断していた。 それでも人々は喝采し、 権威は少女を縛り、 「聖女」という立場だけが一人歩きしていく。 そんな中、婚約破棄された公爵令嬢アストリアは、 ある違和感に気づき始める。 ――奇跡よりも、奪われているものがあることに。 派手な復讐はない。 怒鳴り返しもしない。 けれど静かに、確実に、 “正しさ”は明らかになっていく。 見世物にされた奇跡と、 尊厳を取り戻す少女たちの物語。 ---

【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ
恋愛
 ミシュリーヌは、第四王子オーギュストの妃としてフルーナ王国の王宮で暮らしている。しかし、夫であるオーギュストがミシュリーヌの寝室に訪れることはない。ミシュリーヌは聖女の力を持っていたため、妻に望まれただけなのだ。それでも、ミシュリーヌはオーギュストとの関係を改善したいと考えている。  どうすれば良いのかしら?  ミシュリーヌは焦っていた。七年間かけて国中の水晶を浄化したことにより、フルーナ王国は平穏を取り戻しつつある。それは同時に聖女の力がこの国に必要なくなったことを意味していた。  このまま、オーギュストの優しさに縋ってお飾りの妻を続けるしかないのだろうか。思い悩むミシュリーヌの前に現れたのは、オーギュストの恋人を名乗る女性だった。 ・本編141話 ・おまけの短編 ①9話②1話③5話

家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。 だが彼に溺愛され家は再興。 見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

【完結】動物と話せるだけの少女、森で建国して世界の中心になりました

なみゆき
ファンタジー
ミナ・クローバーは、王国で唯一の“動物使い”として王宮のペットたちを世話していたが、実は“動物語”を理解できる特異体質を持つ少女。その能力を隠しながら、動物たちと心を通わせていた。 ある日、王女の猫・ミルフィーの毒舌を誤訳されたことがきっかけで、ミナは「動物への不敬罪」で王都を追放される。失意の中、森へと向かったミナを待っていたのは、かつて助けた動物たちによる熱烈な歓迎だった。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

処理中です...