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1衛生革命編第1章 パンデミックの根本原因発見
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衛生革命編第1章 パンデミックの根本原因発見
王都の大通りを、焦燥に駆られた人々の声が響き渡っていた。病人を抱えた家族が医師の元へ殺到し、葬儀の鐘は一日中鳴り止まない。街は死と絶望に覆われていた。
「……またか」
公爵令嬢エリアナ・フォン・アルトハイムは、疲弊した表情で窓辺に立ち尽くしていた。わずか数年前、彼女はペニシリンを創り出し、数多の命を救ったはずだった。しかし今度は黒死病のような伝染病が王都を蝕んでいた。
「エリアナ殿ーっ!」
医師長ガブリエルが駆け込んできた。額には汗がにじみ、声は掠れている。
「また? 今度は何ですの?」
紅茶に手を伸ばそうとしていたエリアナは、深いため息を吐きながら振り返った。
「大変です。黒死病の流行が拡大しつつあります。ペニシリンも効果がありません!」
「そりゃあそうよ……」
彼女は呟いた。ペニシリンは細菌感染には強い。しかし黒死病──ペストを引き起こすイエルシニア菌に対しては、必ずしも万能ではない。そして、さらに重大な問題がある。
「……ねえガブリエル先生。どうしてこんなにしょっちゅう、パンデミックが起きると思う?」
「ど、どうしてと申されましても……魔物の呪いか、神の怒りか……」
「違うわ」
エリアナは鋭い眼差しで言い切った。
「原因は、王都の環境そのものにあるのよ」
その声には、前世で現代社会を知る彼女だけが抱き得る確信があった。
---
翌日、エリアナは王都の視察に出た。彼女の護衛としてルカスが、記録係として錬金術師アレクサンダーが同行する。
狭い路地を進むと、強烈な悪臭が鼻を突いた。道端には糞尿やゴミが溜まり、雨で流された汚水が溝を黒く染めている。井戸のすぐ隣に汚物桶が置かれている光景を見て、エリアナは額を押さえた。
「これじゃあ……コレラも赤痢も、好き放題に暴れるはずだわ」
「エリアナ様、まさか……この惨状が、疫病の原因だと?」とルカスが眉をひそめる。
「ええ。汚染された水が人々の口に入っているの。病気は神の怒りじゃなく、ただの衛生管理の欠如よ」
彼女は泥にまみれた地面を見つめ、ぎゅっと拳を握りしめた。
(結局、いくら薬で対処しても……原因を断たなければ、永遠に繰り返すだけ。私は医者じゃないけれど、もう後戻りはできない)
---
視察の帰り道、アレクサンダーが口を開いた。
「しかし、どうすればよいのです? 汚物は人の営みの必然ですし……」
「だからこそ“下水道”よ」
「げ、下水道?」
二人が同時に首を傾げる。
エリアナは頷いた。
「古代ローマには“クロアカ・マキシマ”という大下水道があったの。汚物を地下の水路に流し込み、川まで運ぶ仕組みよ」
「地下に……水路……?」
ルカスが目を見開く。
「そう。自然の勾配を利用すれば、重力だけで水を流すことができる。勾配は千分の二から五──つまり一キロで二メートルほどの落差が理想的ね」
「……正直、想像もつきません」
アレクサンダーは苦笑したが、その瞳は確かに興味を帯びていた。
---
屋敷に戻った夜、エリアナは机に向かい、羽ペンを走らせた。
「医学だけじゃ足りない。農業も、医学も、そして今度は都市そのものを変えるの」
紙に殴り書きした言葉を見つめ、彼女は小さく息を吐いた。
「でも……私、土木技師じゃないのに」
不安はあった。しかし、それ以上に強い決意が胸を燃やしていた。
「このままじゃ、人々はいつまでも病に苦しむ。なら……私がやるしかない」
そう言って、エリアナは夜更けまで設計の草案を描き続けた。窓の外では王都の夜が暗闇に沈んでいたが、彼女の机だけは小さなランプの光に照らされていた。
そして心の奥で、彼女は静かに誓った。
(必ずや、この国を……世界一清潔な都市にしてみせる)
---
王都の大通りを、焦燥に駆られた人々の声が響き渡っていた。病人を抱えた家族が医師の元へ殺到し、葬儀の鐘は一日中鳴り止まない。街は死と絶望に覆われていた。
「……またか」
公爵令嬢エリアナ・フォン・アルトハイムは、疲弊した表情で窓辺に立ち尽くしていた。わずか数年前、彼女はペニシリンを創り出し、数多の命を救ったはずだった。しかし今度は黒死病のような伝染病が王都を蝕んでいた。
「エリアナ殿ーっ!」
医師長ガブリエルが駆け込んできた。額には汗がにじみ、声は掠れている。
「また? 今度は何ですの?」
紅茶に手を伸ばそうとしていたエリアナは、深いため息を吐きながら振り返った。
「大変です。黒死病の流行が拡大しつつあります。ペニシリンも効果がありません!」
「そりゃあそうよ……」
彼女は呟いた。ペニシリンは細菌感染には強い。しかし黒死病──ペストを引き起こすイエルシニア菌に対しては、必ずしも万能ではない。そして、さらに重大な問題がある。
「……ねえガブリエル先生。どうしてこんなにしょっちゅう、パンデミックが起きると思う?」
「ど、どうしてと申されましても……魔物の呪いか、神の怒りか……」
「違うわ」
エリアナは鋭い眼差しで言い切った。
「原因は、王都の環境そのものにあるのよ」
その声には、前世で現代社会を知る彼女だけが抱き得る確信があった。
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翌日、エリアナは王都の視察に出た。彼女の護衛としてルカスが、記録係として錬金術師アレクサンダーが同行する。
狭い路地を進むと、強烈な悪臭が鼻を突いた。道端には糞尿やゴミが溜まり、雨で流された汚水が溝を黒く染めている。井戸のすぐ隣に汚物桶が置かれている光景を見て、エリアナは額を押さえた。
「これじゃあ……コレラも赤痢も、好き放題に暴れるはずだわ」
「エリアナ様、まさか……この惨状が、疫病の原因だと?」とルカスが眉をひそめる。
「ええ。汚染された水が人々の口に入っているの。病気は神の怒りじゃなく、ただの衛生管理の欠如よ」
彼女は泥にまみれた地面を見つめ、ぎゅっと拳を握りしめた。
(結局、いくら薬で対処しても……原因を断たなければ、永遠に繰り返すだけ。私は医者じゃないけれど、もう後戻りはできない)
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視察の帰り道、アレクサンダーが口を開いた。
「しかし、どうすればよいのです? 汚物は人の営みの必然ですし……」
「だからこそ“下水道”よ」
「げ、下水道?」
二人が同時に首を傾げる。
エリアナは頷いた。
「古代ローマには“クロアカ・マキシマ”という大下水道があったの。汚物を地下の水路に流し込み、川まで運ぶ仕組みよ」
「地下に……水路……?」
ルカスが目を見開く。
「そう。自然の勾配を利用すれば、重力だけで水を流すことができる。勾配は千分の二から五──つまり一キロで二メートルほどの落差が理想的ね」
「……正直、想像もつきません」
アレクサンダーは苦笑したが、その瞳は確かに興味を帯びていた。
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屋敷に戻った夜、エリアナは机に向かい、羽ペンを走らせた。
「医学だけじゃ足りない。農業も、医学も、そして今度は都市そのものを変えるの」
紙に殴り書きした言葉を見つめ、彼女は小さく息を吐いた。
「でも……私、土木技師じゃないのに」
不安はあった。しかし、それ以上に強い決意が胸を燃やしていた。
「このままじゃ、人々はいつまでも病に苦しむ。なら……私がやるしかない」
そう言って、エリアナは夜更けまで設計の草案を描き続けた。窓の外では王都の夜が暗闇に沈んでいたが、彼女の机だけは小さなランプの光に照らされていた。
そして心の奥で、彼女は静かに誓った。
(必ずや、この国を……世界一清潔な都市にしてみせる)
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