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王太子フィリップの後悔と絶望編 第四章 贈り物作戦の失敗
しおりを挟むフィリップは研究室から追い出された後も、諦めることはできなかった。
謝罪だけでは足りない――そう思った彼は、次なる作戦を側近たちに打ち明ける。
「女性というものは、やはり贈り物に弱いものだろう?」
半ば自信なさげに言うフィリップに、オルフェンとセルジュは顔を見合わせる。
「……殿下、確かに贈り物は心を動かす場合もあります。しかし、エリアナ様は実利を重んじるお方。装飾品や嗜好品では……」
「いや、彼女とて女性だ。美しい宝石や香り高い香水に喜ばぬはずがない!」
自らの推測を正当化するように、フィリップは高価な宝石商や香料師を呼びつけ、豪奢な品を取り揃えさせた。
◆ ◆ ◆
翌日。
エリアナの研究室に届けられたのは、煌びやかな宝石箱、絹のドレス、そして異国の香水。
研究に没頭していた彼女は、それらを見て目を瞬かせた。
「これは……?」
侍女が答える。
「フィリップ殿下からのお贈り物でございます」
エリアナは小さく首を傾げ、淡々とした口調で言った。
「お気持ちだけで十分ですわ。お返しして差し上げて」
――即座に返却。
数時間後、戻ってきた豪華な贈り物を見て、フィリップは頭を抱えた。
「なぜだ……普通なら喜ぶはずなのに!」
側近のセルジュが咳払いをしつつ言った。
「だから申し上げましたでしょう、殿下。エリアナ様は宝飾よりも学術書や器具の方が……」
「学術書……器具……」
フィリップは難しい顔をした。
「だが、それでは贈り物らしくないではないか!」
◆ ◆ ◆
それでも諦めぬフィリップは、次に「花束作戦」を思いつく。
「女性は花を好むものだ。毎日違う花を贈れば、きっと心を動かされるはず!」
王都の花屋を総動員し、バラ、百合、チューリップ、果ては南国から取り寄せた珍しい花まで。
研究室の前には、毎日のように大きな花束が届けられた。
だが――
「……花粉が実験に影響します」
エリアナは短くそう告げ、全て研究室の外に出させた。
「……」
報告を受けたフィリップは、顔を真っ赤にしながら机に突っ伏した。
「花粉……だと……? 花は愛の象徴ではないのか!」
オルフェンが肩をすくめる。
「殿下、象徴よりも現実を優先なさる方です」
「ぐぬぬ……」
◆ ◆ ◆
それでもフィリップは最後の手段に出た。
「愛の詩と手紙だ! 僕の心を言葉に乗せれば、必ず伝わる!」
夜な夜な執務室にこもり、机に向かう。
「君の瞳は星よりも輝き」「僕の心は君の笑顔で満ちて」――。
書き殴られた紙束は、まるで中世の吟遊詩人のような熱量を帯びていた。
長文の恋文を添えて、毎日のようにエリアナへ送る。
だが――
「……お忙しいでしょうに。お時間を無駄にしないでください」
手紙を丁寧にたたんだまま突き返すエリアナの言葉は、冷静そのものだった。
その報告を受けたフィリップは、椅子に崩れ落ちる。
「ど、どうしてだ……僕の真心が、なぜ伝わらない……!」
セルジュがぽつりと呟いた。
「殿下……エリアナ様にとって大切なのは、贅沢や言葉ではなく、共に歩む理解者なのでしょう」
「理解者……?」
フィリップは震える声で繰り返す。
――だが、すぐにはその意味を飲み込めなかった。
贈り物作戦は、完全なる失敗に終わったのである。
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