婚約破棄で異世界転生を100倍楽しむ方法 ‐漫画喫茶は教育機関ではありません‐

ふわふわ

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第8話 敷地内アウトドアライフ、開始

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第8話 敷地内アウトドアライフ、開始

 アルフェッタは、その日ふと思った。

(……この屋敷、広すぎませんこと?)

 朝――ではなく、昼前。
 目を覚ましてからしばらく、ベッドの中でごろごろと過ごし、ようやく起き上がったところだった。

 婚約破棄から数日。
 社交の予定も、王城からの呼び出しもない。

 あるのは、静かな公爵邸と、時間だけ。

「……使い切れませんわね、これは」

 部屋を出て廊下を歩く。
 装飾の施された壁、陽の差し込む窓、誰もいない客間。

 どれも立派だが、使われていない。

(部屋だけでこれですもの)

(外は、どうなっているのかしら)

 思い立ったが早い。
 アルフェッタは侍女を一人だけ伴い、庭へ出た。

 視界が、一気に開ける。

 整えられた芝生。
 遠くまで続く木立。
 敷地の奥には、細く光る水面。

「……川?」

「はい。敷地内を流れております」

 侍女の返答に、アルフェッタは足を止めた。

(敷地内……?)

 つまり――

(許可も、移動手段もいらない?)

 庭を歩く。
 砂利道を抜け、木陰に入る。

 風の匂いが変わる。
 空気が、ひんやりする。

(森ですわね、ここ)

 屋敷の「付属」ではない。
 立派な自然環境だ。

 さらに進むと、水音がはっきりと聞こえてきた。
 川は透明で、底まで見える。

 小魚が泳いでいる。

「……釣れそうですわね」

 呟いた瞬間、アルフェッタははっとした。

(あら)

(“釣りに行く”じゃなくて)

(“ここで釣れる”と考えましたわ)

 それは、意識の変化だった。

 遠出でも、イベントでもない。
 ただ、家の延長。

 芝生に腰を下ろし、靴を脱ぐ。
 土の感触が足裏に伝わる。

(……贅沢、ですわね)

 けれど、それは「特別」な意味ではない。

(贅沢なのに、日常)

 アルフェッタはしばらく、何もせずに座っていた。
 本も持っていない。
 計画もない。

 ただ、風と音と光を感じる。

(アウトドアって)

(遠くへ行くことではありませんのね)

 外にいるだけ。
 それだけでいい。

 やがて、侍女が控えめに声をかけた。

「アルフェッタ様……お部屋へお戻りになりますか?」

 彼女は少し考え、首を振る。

「いいえ」

 芝生を見渡し、森を見て、川を見る。

「ここに、いますわ」

 侍女は一瞬戸惑ったが、すぐに理解したように一礼した。

「では、必要なものがございましたら、お申し付けください」

 侍女が下がった後も、アルフェッタは動かなかった。

(庭)
(森)
(川)

(全部、生活圏ですわ)

 公爵邸という「家」は、
 屋内だけを指すものではなかった。

 この瞬間、アルフェッタの中で
“暮らしの地図”が一気に広がった。

 異世界転生生活八日目。
 彼女は今日も、何かを成し遂げてはいない。

 けれど確かに――
 遊び場を、見つけてしまった。

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