婚約破棄で異世界転生を100倍楽しむ方法 ‐漫画喫茶は教育機関ではありません‐

ふわふわ

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第9話 庭で過ごす一日

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第9話 庭で過ごす一日

 その日は、朝――ではなく、やはり昼から始まった。

 アルフェッタは寝室のカーテンを少しだけ開け、光の強さを確かめてから、再びベッドに腰を下ろした。

(今日は……外ですわね)

 理由はない。
 昨日、敷地内の庭・森・川が「生活圏」だと気づいた。
 それだけで、今日は外にいる日だと決まった。

 着替えも簡素に済ませ、髪も最低限整える。
 貴族令嬢らしさより、動きやすさを優先した。

 昼食は取らない。
 後で、外で何か食べればいい。

 そう考えて、アルフェッタは庭へ出た。

 芝生は昨日と同じ。
 木々の位置も、風の向きも、何一つ変わっていない。

 それなのに――

(昨日と、違う日ですわ)

 彼女はまず、芝生の上に敷物を広げた。
 椅子は使わない。
 今日は、地面と仲良くする日だ。

 本を一冊だけ持ってきていた。
 けれど、すぐには開かない。

 寝転ぶ。
 空を見る。

 雲が、ゆっくりと流れていく。

(何も始めていないのに)
(もう、満足しかけていますわね)

 しばらくして、ようやく本を開く。
 数ページ読んで、閉じる。

 集中できない。
 だが、それを失敗だとは思わなかった。

(今日は、読む日ではありませんの)

 代わりに、焚き火台の方へ歩く。
 昨日、使えると分かったそれは、すでに「道具」に変わっていた。

 火を起こす。
 大げさな準備はしない。

 火がつき、薪が静かに燃え始める。
 それを眺めながら、何も考えない。

 時間は、勝手に過ぎていく。

 昼過ぎ、侍女が様子を見に来る。

「アルフェッタ様、お昼のご用意は……」

 彼女は焚き火を見たまま答えた。

「まだ、いりませんわ」

「では……こちらで何か、お持ちいたしましょうか?」

 少し考えて、頷く。

「パンと、果物だけ」

 それで十分だった。

 火のそばで食べるパンは、特別な味がしたわけではない。
 けれど、不思議と満たされる。

(外で食べている)

 それだけで、価値がある。

 午後になると、少し眠くなった。
 アルフェッタは敷物に戻り、そのまま目を閉じた。

 短い昼寝。
 夢は見ない。

 目を覚ましたとき、空の色が少し変わっていた。

(……いい昼寝ですわ)

 立ち上がり、軽く体を伸ばす。

 焚き火はまだ生きている。
 そこに、網が置かれた。

 ――誰かが準備したわけではない。
 「使える」と思ったから、使っただけだ。

 肉と野菜を焼く。
 それは料理というより、作業に近い。

 焼けたものを皿に移し、食べる。

(バーベキュー……?)

 一瞬そう思って、首を振る。

(違いますわね)

(外にいたら、焼いただけ)

 特別な催しではない。
 アウトドアイベントでもない。

 ただの一日の中の、一場面。

 日が傾き始め、影が長くなる。

 アルフェッタは焚き火の始末をし、芝生を歩いた。

 今日一日、何をしたかと聞かれたら、答えに困るだろう。

 本を読んだ。
 寝た。
 火を見た。
 焼いて食べた。

 それだけ。

 けれど――

(とても、よい一日ですわ)

 異世界転生生活九日目。
 アルフェッタは今日も、何かを成し遂げてはいない。

 けれど確かに――
 「何もしない一日」を、完全に楽しんでいた。

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