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第10話 敷地内の川で釣りをする
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第10話 敷地内の川で釣りをする
アルフェッタが川へ向かったのは、思いつきだった。
昨日は庭で過ごした。
今日は、少しだけ場所をずらす。
それだけの違い。
(特別な予定を立てなくても)
(日常は、勝手に更新されますわね)
朝――ではなく、やはり昼前。
身支度は簡単に済ませ、侍女に声をかける。
「釣り竿は、あります?」
侍女は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。
「はい。以前、旦那様が嗜まれておりましたので……」
「では、それを」
準備はそれだけ。
餌も、籠も、万全に整えようとは思わない。
(足りなければ、戻ればいい)
その気軽さが、今の彼女には心地よかった。
川は、昨日見たままの姿でそこにあった。
水は澄み、流れは穏やかで、音が柔らかい。
岸辺の石に腰を下ろし、釣り竿を構える。
慣れた手つき、というほどではない。
けれど、ぎこちなさを気にする必要もない。
(誰に見せるわけでもありませんし)
糸を垂らす。
水面に、小さな波紋が広がる。
それだけで、時間が止まったように感じた。
待つ。
待つ、というより――
何も起こらなくても構わない時間を過ごす。
前世では、待つことが苦手だった。
成果が出ない時間は、不安で仕方がなかった。
(でも今は)
(何も起こらないこと自体が、心地いい)
風が吹き、木々が揺れる。
鳥が水面すれすれを飛び、どこかへ消えていく。
釣り糸は、静かなままだ。
アルフェッタは、それを見つめながら考える。
(釣れなくても、問題ありませんわね)
釣りは、魚を得るための行為だと思われがちだ。
けれど、今の彼女にとっては違う。
(ここに、理由を作って座るため)
それだけ。
しばらくして、水面がわずかに揺れた。
竿先が、ぴくりと動く。
「あら」
反射的に竿を引く。
思ったより軽い感触。
小さな魚が、一匹。
「……釣れましたわね」
嬉しさはある。
けれど、はしゃぐほどではない。
(取れたら取れたで、よし)
(取れなくても、よし)
魚を籠に入れ、再び糸を垂らす。
その後も、数匹。
数は多くないが、十分だった。
午後の光が、水面を照らす。
川の流れが、きらきらと反射する。
気づけば、長い時間が経っていた。
(……思ったより、集中していましたわね)
それでも、疲れはない。
立ち上がり、軽く伸びをする。
籠の中の魚を見下ろし、少し考える。
(これ、どうしましょう)
自分で焼く?
それもいい。
けれど、ふと別の考えが浮かぶ。
(……プロに任せたほうが、美味しいですわね)
釣りは楽しんだ。
調理まで頑張る理由はない。
楽しむために、疲れる必要はないのだ。
川を後にしながら、アルフェッタは思う。
(釣りも)
(イベントではありませんわね)
準備して、気合を入れて、成果を競うものではない。
ただ、川があって、竿があって、座れる場所がある。
だから、釣った。
それだけ。
屋敷へ戻る道すがら、風が少し強くなった。
木々が揺れ、葉が音を立てる。
アルフェッタはその音を聞きながら、満足そうに微笑んだ。
(今日も、よい一日でしたわ)
何かを成し遂げたわけではない。
世界を変えたわけでもない。
けれど――
異世界転生生活十日目。
アルフェッタは今日も、世界の中に、静かに溶け込んでいた。
アルフェッタが川へ向かったのは、思いつきだった。
昨日は庭で過ごした。
今日は、少しだけ場所をずらす。
それだけの違い。
(特別な予定を立てなくても)
(日常は、勝手に更新されますわね)
朝――ではなく、やはり昼前。
身支度は簡単に済ませ、侍女に声をかける。
「釣り竿は、あります?」
侍女は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。
「はい。以前、旦那様が嗜まれておりましたので……」
「では、それを」
準備はそれだけ。
餌も、籠も、万全に整えようとは思わない。
(足りなければ、戻ればいい)
その気軽さが、今の彼女には心地よかった。
川は、昨日見たままの姿でそこにあった。
水は澄み、流れは穏やかで、音が柔らかい。
岸辺の石に腰を下ろし、釣り竿を構える。
慣れた手つき、というほどではない。
けれど、ぎこちなさを気にする必要もない。
(誰に見せるわけでもありませんし)
糸を垂らす。
水面に、小さな波紋が広がる。
それだけで、時間が止まったように感じた。
待つ。
待つ、というより――
何も起こらなくても構わない時間を過ごす。
前世では、待つことが苦手だった。
成果が出ない時間は、不安で仕方がなかった。
(でも今は)
(何も起こらないこと自体が、心地いい)
風が吹き、木々が揺れる。
鳥が水面すれすれを飛び、どこかへ消えていく。
釣り糸は、静かなままだ。
アルフェッタは、それを見つめながら考える。
(釣れなくても、問題ありませんわね)
釣りは、魚を得るための行為だと思われがちだ。
けれど、今の彼女にとっては違う。
(ここに、理由を作って座るため)
それだけ。
しばらくして、水面がわずかに揺れた。
竿先が、ぴくりと動く。
「あら」
反射的に竿を引く。
思ったより軽い感触。
小さな魚が、一匹。
「……釣れましたわね」
嬉しさはある。
けれど、はしゃぐほどではない。
(取れたら取れたで、よし)
(取れなくても、よし)
魚を籠に入れ、再び糸を垂らす。
その後も、数匹。
数は多くないが、十分だった。
午後の光が、水面を照らす。
川の流れが、きらきらと反射する。
気づけば、長い時間が経っていた。
(……思ったより、集中していましたわね)
それでも、疲れはない。
立ち上がり、軽く伸びをする。
籠の中の魚を見下ろし、少し考える。
(これ、どうしましょう)
自分で焼く?
それもいい。
けれど、ふと別の考えが浮かぶ。
(……プロに任せたほうが、美味しいですわね)
釣りは楽しんだ。
調理まで頑張る理由はない。
楽しむために、疲れる必要はないのだ。
川を後にしながら、アルフェッタは思う。
(釣りも)
(イベントではありませんわね)
準備して、気合を入れて、成果を競うものではない。
ただ、川があって、竿があって、座れる場所がある。
だから、釣った。
それだけ。
屋敷へ戻る道すがら、風が少し強くなった。
木々が揺れ、葉が音を立てる。
アルフェッタはその音を聞きながら、満足そうに微笑んだ。
(今日も、よい一日でしたわ)
何かを成し遂げたわけではない。
世界を変えたわけでもない。
けれど――
異世界転生生活十日目。
アルフェッタは今日も、世界の中に、静かに溶け込んでいた。
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