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第11話 料理はプロに任せましょう
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第11話 料理はプロに任せましょう
籠の中で、魚が静かに尾を打った。
川から戻る途中、アルフェッタはその様子をちらりと見下ろし、少しだけ考えた。
(……自分で焼く、という選択肢もありますわね)
焚き火台は庭にある。
昨日も使った。
道具は揃っているし、焼くだけなら難しくない。
けれど――
(今日は、そこまで頑張る日ではありませんわ)
そう結論づけた瞬間、肩の力が抜けた。
楽しむために始めた釣りで、
その延長で疲れる必要はない。
アルフェッタは屋敷へ戻ると、料理長を呼んだ。
「川で釣れましたの」
籠を差し出すと、料理長は中を覗き、目を細めた。
「良い型でございますね。数も、ちょうどよろしい」
「ですから」
アルフェッタは、さらりと言った。
「調理を、お願いしますわ」
料理長は一瞬だけ間を置き、すぐに頷いた。
「屋外で、でよろしいでしょうか」
その問いに、アルフェッタは少し驚いた。
「……なぜ、分かりましたの?」
「昨日のお過ごし方を拝見しておりましたので」
そう言って、料理長は穏やかに笑う。
「外の空気を、楽しまれているご様子でしたから」
アルフェッタはくすりと笑った。
「ええ。
今日も、外で」
準備は手際よく進んだ。
料理長だけでなく、数人の料理人が庭へ出てくる。
持ち込まれるのは、最低限の調理器具と調味料。
だが、動きには一切の無駄がない。
焚き火台の火が調整され、
魚は素早く下処理され、
串が打たれていく。
アルフェッタは少し離れた場所に椅子を置き、その様子を眺めていた。
(……これですわ)
(私がやりたかったのは)
アウトドアだからといって、
自分で全部やる必要はない。
楽しむことと、作業することは、同義ではない。
(外にいる)
(それを楽しむ)
そのために、プロがいる。
魚が焼ける音がする。
脂が落ち、火が小さく跳ねる。
香りが、庭に広がる。
侍女の一人が、思わず声を漏らした。
「……外なのに……本当に、美味しそう……」
その言葉に、アルフェッタは首を横に振った。
「外なのに、ではありませんわ」
侍女は、はっとして口を閉じる。
アルフェッタは続けた。
「外だから、です」
一瞬の沈黙。
料理長が、火を見つめたまま静かに頷いた。
「……仰る通りでございます」
焼き上がった魚は、皿に盛られ、簡素だが美しい付け合わせが添えられる。
屋内で出されても遜色のない一皿。
だが、ここは庭だ。
アルフェッタは一口食べ、ゆっくりと息を吐いた。
「……ええ」
表情が、自然と緩む。
「外だから、完成する味ですわね」
風、温度、湿度、火の揺らぎ。
それらすべてが、料理の一部になっている。
食事は静かに進む。
誰も急がず、誰も感想を競わない。
ただ、美味しいものを、気持ちのいい場所で食べている。
(アウトドアクッキング、ですか?)
一瞬そう考えて、すぐに否定する。
(いいえ)
(これは、ただの“食事”ですわ)
外で食べている、というだけ。
料理が終わると、火は丁寧に始末され、道具は片付けられていく。
庭には、元の静けさが戻った。
料理長が一礼する。
「ご満足いただけましたでしょうか」
「ええ」
アルフェッタは、心から頷いた。
「とても」
そして、少しだけ微笑って付け加える。
「やはり、料理はプロに任せるのが一番ですわね」
料理長は、深く頭を下げた。
日が傾き始め、庭の影が長くなる。
アルフェッタは椅子に座ったまま、空を見上げた。
(釣るのは、楽しい)
(焼くのは、美味しい)
(でも、全部を自分でやる必要はありませんの)
それぞれを、それぞれが得意な人に任せる。
その方が、世界はうまく回る。
異世界転生生活十一日目。
アルフェッタは今日も、何かを成し遂げてはいない。
けれど確かに――
「楽しむことの分業」を、自然に選んでいた。
籠の中で、魚が静かに尾を打った。
川から戻る途中、アルフェッタはその様子をちらりと見下ろし、少しだけ考えた。
(……自分で焼く、という選択肢もありますわね)
焚き火台は庭にある。
昨日も使った。
道具は揃っているし、焼くだけなら難しくない。
けれど――
(今日は、そこまで頑張る日ではありませんわ)
そう結論づけた瞬間、肩の力が抜けた。
楽しむために始めた釣りで、
その延長で疲れる必要はない。
アルフェッタは屋敷へ戻ると、料理長を呼んだ。
「川で釣れましたの」
籠を差し出すと、料理長は中を覗き、目を細めた。
「良い型でございますね。数も、ちょうどよろしい」
「ですから」
アルフェッタは、さらりと言った。
「調理を、お願いしますわ」
料理長は一瞬だけ間を置き、すぐに頷いた。
「屋外で、でよろしいでしょうか」
その問いに、アルフェッタは少し驚いた。
「……なぜ、分かりましたの?」
「昨日のお過ごし方を拝見しておりましたので」
そう言って、料理長は穏やかに笑う。
「外の空気を、楽しまれているご様子でしたから」
アルフェッタはくすりと笑った。
「ええ。
今日も、外で」
準備は手際よく進んだ。
料理長だけでなく、数人の料理人が庭へ出てくる。
持ち込まれるのは、最低限の調理器具と調味料。
だが、動きには一切の無駄がない。
焚き火台の火が調整され、
魚は素早く下処理され、
串が打たれていく。
アルフェッタは少し離れた場所に椅子を置き、その様子を眺めていた。
(……これですわ)
(私がやりたかったのは)
アウトドアだからといって、
自分で全部やる必要はない。
楽しむことと、作業することは、同義ではない。
(外にいる)
(それを楽しむ)
そのために、プロがいる。
魚が焼ける音がする。
脂が落ち、火が小さく跳ねる。
香りが、庭に広がる。
侍女の一人が、思わず声を漏らした。
「……外なのに……本当に、美味しそう……」
その言葉に、アルフェッタは首を横に振った。
「外なのに、ではありませんわ」
侍女は、はっとして口を閉じる。
アルフェッタは続けた。
「外だから、です」
一瞬の沈黙。
料理長が、火を見つめたまま静かに頷いた。
「……仰る通りでございます」
焼き上がった魚は、皿に盛られ、簡素だが美しい付け合わせが添えられる。
屋内で出されても遜色のない一皿。
だが、ここは庭だ。
アルフェッタは一口食べ、ゆっくりと息を吐いた。
「……ええ」
表情が、自然と緩む。
「外だから、完成する味ですわね」
風、温度、湿度、火の揺らぎ。
それらすべてが、料理の一部になっている。
食事は静かに進む。
誰も急がず、誰も感想を競わない。
ただ、美味しいものを、気持ちのいい場所で食べている。
(アウトドアクッキング、ですか?)
一瞬そう考えて、すぐに否定する。
(いいえ)
(これは、ただの“食事”ですわ)
外で食べている、というだけ。
料理が終わると、火は丁寧に始末され、道具は片付けられていく。
庭には、元の静けさが戻った。
料理長が一礼する。
「ご満足いただけましたでしょうか」
「ええ」
アルフェッタは、心から頷いた。
「とても」
そして、少しだけ微笑って付け加える。
「やはり、料理はプロに任せるのが一番ですわね」
料理長は、深く頭を下げた。
日が傾き始め、庭の影が長くなる。
アルフェッタは椅子に座ったまま、空を見上げた。
(釣るのは、楽しい)
(焼くのは、美味しい)
(でも、全部を自分でやる必要はありませんの)
それぞれを、それぞれが得意な人に任せる。
その方が、世界はうまく回る。
異世界転生生活十一日目。
アルフェッタは今日も、何かを成し遂げてはいない。
けれど確かに――
「楽しむことの分業」を、自然に選んでいた。
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