婚約破棄で異世界転生を100倍楽しむ方法 ‐漫画喫茶は教育機関ではありません‐

ふわふわ

文字の大きさ
14 / 30

第14話 何しよう?構想会議

しおりを挟む
第14話 何しよう?構想会議

 アルフェッタは、ベッドの上で仰向けになり、天井を眺めていた。

 外は明るい。
 風の音が、窓越しにかすかに聞こえる。

 けれど彼女は、外に出ていない。

(今日は……考える日ですわね)

 そう決めたわけではない。
 体が「外」よりも「中」を選んだだけだ。

 枕元には、何もない。
 本も、紙も、ペンも。

(考えるだけの日に、道具はいりませんわ)

 指先を軽く動かしながら、思考を巡らせる。

 婚約破棄から、もう二週間近く。
 公爵邸での生活は、驚くほど落ち着いてきた。

 庭は生活圏になり、
 森や川も「特別」ではなくなり、
 外で食事をすることにも、違和感はない。

(……十分、楽しんでいますわね)

 それなのに。

(まだ、余白がありますわ)

 心に、少しだけ空いている場所がある。

(さて)

(次は、何をしましょうか)

 思考が、自然と動き出す。

(何か、売ります?)

 この世界で、自由を得た貴族令嬢が始めがちなことだ。
 工房、香水、菓子、服。

 だが、すぐに首を横に振る。

(儲ける必要が、ありませんわね)

 公爵家の資産を思い浮かべる。
 質素に暮らしても、余る。

 利益を目的にすると、
 続けなければならなくなる。
 期待に応えなければならなくなる。

(それは、もう遊びではありませんわ)

 では――

(カフェ?)

 お茶を飲む場所。
 落ち着く空間。

 一瞬、魅力的に思えたが、すぐに別の考えが浮かぶ。

(……多すぎますわね)

 この世界にも、喫茶に近い場所はすでにある。
 貴族向け、社交用、格式重視。

(私がやる意味は、あります?)

 答えは、曖昧だった。

 アルフェッタは、寝返りを打つ。

(もっと……目的が曖昧でいいもの)

 役に立つかどうか。
 成功するかどうか。

 そういう評価から、少し離れたもの。

(私が、楽しいかどうか)

 それだけを基準にできるもの。

 前世の記憶が、ふとよみがえる。

 休日に、特に用もなく立ち寄った場所。
 本屋でも、図書館でもない。

 長居しても咎められず、
 何をしてもいい場所。

(……本)

 呟いた瞬間、思考がつながった。

(読むため、というより)
(そこにいるための理由)

 アルフェッタは、天井を見たまま小さく笑う。

「……なるほど」

 それは、まだ形を持たない。
 けれど、確かな手応えがあった。

 ベッドの上で、足を軽く揺らす。

(考えているだけで、楽しい)

 何をするか決めなくてもいい。
 実現しなくてもいい。

 構想すること自体が、すでに遊びだ。

(百倍楽しむための構想を)
(百倍楽しむ)

 その言葉が、自然と浮かぶ。

 アルフェッタは、ゆっくりと体を起こし、窓の外を見る。

 庭は、いつも通りそこにある。
 森も、川も、逃げない。

(急ぐ必要は、ありませんわね)

 今日は考える。
 明日は、また外に出るかもしれない。

 どちらでもいい。

 異世界転生生活十四日目。
 アルフェッタは今日も、何かを始めてはいない。

 けれど確かに――
 次の「楽しみ」の輪郭を、つかみ始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう

おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。 本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。 初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。 翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス…… (※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...