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第13話 アウトドアは、イベントではありません
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第13話 アウトドアは、イベントではありません
その日、アルフェッタは「今日は外に出よう」とも、「何かしよう」とも考えていなかった。
目を覚まし、いつも通りに身支度を整え、軽くお茶を飲み、そして――気づけば庭にいた。
(……あら)
(考えていませんでしたのに)
それでも足は、自然と芝生の上を歩いている。
空は晴れているが、特別な青さではない。
風も穏やかだが、記念日に相応しいほどではない。
つまり、普通の日だ。
それなのに、外にいる。
(これが答えですわね)
アルフェッタは、そう思った。
アウトドア、という言葉を思い浮かべると、多くの人は「特別」を想像する。
準備をして、予定を立て、時間を確保して。
だが、今の彼女のそれは違う。
敷地内の庭は、もう「出かける場所」ではなかった。
通る場所であり、座る場所であり、立ち止まる場所。
――つまり、生活圏だ。
芝生に敷物を広げる。
だが、今日は寝転ばない。
代わりに、低い椅子に腰を下ろし、何もせずに周囲を眺める。
鳥が枝から枝へ移る。
木々が風に揺れ、影が動く。
川の音が、遠くで一定のリズムを刻んでいる。
(これ、完全に日常ですわね)
少し前なら、ここまで来るのに理由が必要だった。
「気分転換」
「気晴らし」
「非日常」
そうした言葉を、自分に言い聞かせていた。
(今は、理由がありませんわ)
ただ、ここにいる。
侍女が控えめに近づいてくる。
「アルフェッタ様、本日は何かご予定が……」
アルフェッタは一瞬考え、正直に答えた。
「特に、ありません」
侍女は少し困った顔をしたが、すぐに表情を整える。
「では……こちらで、お茶を?」
「お願いします」
そのやり取りも、すでに慣れたものだった。
お茶が運ばれ、カップを手に取る。
屋内で飲んでも、外で飲んでも、味は同じ。
だが、感じ方が違う。
(外で飲んでいる、というだけ)
それだけで、十分だった。
アルフェッタはふと、過去の自分を思い出す。
前世では、休日ですら「何かをしなければ」と焦っていた。
楽しむことにも、予定と成果を求めていた。
(イベントにしないと、楽しんだ気がしなかった)
だから、疲れた。
だから、休めなかった。
今は違う。
アウトドアは、非日常ではない。
気合を入れるものでもない。
(生活の延長ですわ)
外でいることも、
火を使うことも、
食べることも。
すべて、日常の続き。
昼過ぎ、料理長が様子を見に来る。
「本日は、こちらでお食事を?」
アルフェッタは、即答した。
「ええ。いつも通りで」
「屋内と同じもので?」
「ええ。外だからといって、変えなくていいですわ」
料理長は一瞬目を丸くしたが、すぐに理解したように頷いた。
「承知いたしました」
準備が進む。
特別な演出はない。
ただ、鍋と火が外に移動しただけ。
それでも、香りはよく広がる。
(外だから、美味しい)
この言葉は、もう彼女の中で定着していた。
食事が終わり、片付けが進む。
庭は、また元の静けさを取り戻す。
アルフェッタは椅子に座ったまま、空を見上げた。
(イベントじゃないから、終わりがありませんのね)
始まりも、終わりも曖昧。
だから、明日もできる。
だから、飽きない。
ふと気づく。
(私、もう“アウトドアをしている”意識すらありませんわ)
ただ、ここで生きている。
それだけ。
日が傾き、影が長くなる。
アルフェッタは、ゆっくりと立ち上がった。
屋内へ戻る。
だが、それも「切り替え」ではない。
外と中が、ゆるやかにつながっている。
異世界転生生活十三日目。
アルフェッタは今日も、何かを成し遂げてはいない。
けれど確かに――
アウトドアを、日常にしてしまった。
それは、
この先どんな遊びを思いついても、
彼女が無理をしないで済むという、
大きな土台になっていた。
その日、アルフェッタは「今日は外に出よう」とも、「何かしよう」とも考えていなかった。
目を覚まし、いつも通りに身支度を整え、軽くお茶を飲み、そして――気づけば庭にいた。
(……あら)
(考えていませんでしたのに)
それでも足は、自然と芝生の上を歩いている。
空は晴れているが、特別な青さではない。
風も穏やかだが、記念日に相応しいほどではない。
つまり、普通の日だ。
それなのに、外にいる。
(これが答えですわね)
アルフェッタは、そう思った。
アウトドア、という言葉を思い浮かべると、多くの人は「特別」を想像する。
準備をして、予定を立て、時間を確保して。
だが、今の彼女のそれは違う。
敷地内の庭は、もう「出かける場所」ではなかった。
通る場所であり、座る場所であり、立ち止まる場所。
――つまり、生活圏だ。
芝生に敷物を広げる。
だが、今日は寝転ばない。
代わりに、低い椅子に腰を下ろし、何もせずに周囲を眺める。
鳥が枝から枝へ移る。
木々が風に揺れ、影が動く。
川の音が、遠くで一定のリズムを刻んでいる。
(これ、完全に日常ですわね)
少し前なら、ここまで来るのに理由が必要だった。
「気分転換」
「気晴らし」
「非日常」
そうした言葉を、自分に言い聞かせていた。
(今は、理由がありませんわ)
ただ、ここにいる。
侍女が控えめに近づいてくる。
「アルフェッタ様、本日は何かご予定が……」
アルフェッタは一瞬考え、正直に答えた。
「特に、ありません」
侍女は少し困った顔をしたが、すぐに表情を整える。
「では……こちらで、お茶を?」
「お願いします」
そのやり取りも、すでに慣れたものだった。
お茶が運ばれ、カップを手に取る。
屋内で飲んでも、外で飲んでも、味は同じ。
だが、感じ方が違う。
(外で飲んでいる、というだけ)
それだけで、十分だった。
アルフェッタはふと、過去の自分を思い出す。
前世では、休日ですら「何かをしなければ」と焦っていた。
楽しむことにも、予定と成果を求めていた。
(イベントにしないと、楽しんだ気がしなかった)
だから、疲れた。
だから、休めなかった。
今は違う。
アウトドアは、非日常ではない。
気合を入れるものでもない。
(生活の延長ですわ)
外でいることも、
火を使うことも、
食べることも。
すべて、日常の続き。
昼過ぎ、料理長が様子を見に来る。
「本日は、こちらでお食事を?」
アルフェッタは、即答した。
「ええ。いつも通りで」
「屋内と同じもので?」
「ええ。外だからといって、変えなくていいですわ」
料理長は一瞬目を丸くしたが、すぐに理解したように頷いた。
「承知いたしました」
準備が進む。
特別な演出はない。
ただ、鍋と火が外に移動しただけ。
それでも、香りはよく広がる。
(外だから、美味しい)
この言葉は、もう彼女の中で定着していた。
食事が終わり、片付けが進む。
庭は、また元の静けさを取り戻す。
アルフェッタは椅子に座ったまま、空を見上げた。
(イベントじゃないから、終わりがありませんのね)
始まりも、終わりも曖昧。
だから、明日もできる。
だから、飽きない。
ふと気づく。
(私、もう“アウトドアをしている”意識すらありませんわ)
ただ、ここで生きている。
それだけ。
日が傾き、影が長くなる。
アルフェッタは、ゆっくりと立ち上がった。
屋内へ戻る。
だが、それも「切り替え」ではない。
外と中が、ゆるやかにつながっている。
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アルフェッタは今日も、何かを成し遂げてはいない。
けれど確かに――
アウトドアを、日常にしてしまった。
それは、
この先どんな遊びを思いついても、
彼女が無理をしないで済むという、
大きな土台になっていた。
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