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第21話 気兼ねなく利用してもらうための料金
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第21話 気兼ねなく利用してもらうための料金
マンガ喫茶が開いて三日目。
大きな変化はない。けれど、小さな変化は、確実に積み重なっていた。
午前中は静かだ。
昼過ぎから、ぽつり、ぽつりと人が来る。
庭仕事の合間の使用人。
買い物帰りの近隣の子ども。
仕事を終えた職人の見習い。
誰もが同じように、扉の前で一度立ち止まり、
中をうかがい、それから恐る恐る入ってくる。
そして、必ず最初に視線を向けるのが――
入口の横に掲げられた、小さな札だった。
――利用料:銅貨三枚
それを見て、ほっとした顔をする者がいる。
アルフェッタは、その表情を見るたび、内心で静かに頷いていた。
(やっぱり、そうですわよね)
無料、と書いてあったら。
きっと、もっと戸惑う。
「なぜ?」
「あとで何か言われるのでは?」
「自分が来ていい場所なのだろうか?」
人は、理由のない親切を、時に恐れる。
午後、常連になりつつある少年が、少しだけ不安そうな顔で声をかけてきた。
「……あの……」
「どうしました?」
「……これ、お金……
もっと、取ったほうがいいんじゃないですか?」
アルフェッタは、一瞬きょとんとし、それから微笑んだ。
「どうして?」
「だって……
本、いっぱいあるし……
お茶も……」
少年は言葉を探している。
アルフェッタは、椅子に腰掛けたまま、ゆっくり答えた。
「これは、入場料でも、知識料でもありませんの」
「……?」
「気兼ねなく使っていいですよ、という合図ですわ」
少年は、ますます分からないという顔をする。
アルフェッタは、少しだけ言葉を噛み砕いた。
「無料だとね、
“自分はここにいていいのか”って、ずっと考えてしまうでしょう?」
「……はい」
「でも、少しだけお金を払うと、
“使っていい権利”を買った気になりますの」
少年は、はっとしたように目を見開いた。
「……あ」
「遠慮しなくていい。
長居していい。
本を選ぶのに時間がかかってもいい」
アルフェッタは、穏やかに続ける。
「この銅貨三枚は、
そういう遠慮を、置いていくための料金ですわ」
少年は、しばらく考え込んだあと、深く頷いた。
「……なんか……
ここ、安心します」
その言葉に、アルフェッタは胸の奥が少し温かくなるのを感じた。
(ええ、それでいいですの)
利益は、ほとんど出ていない。
けれど、赤字でもない。
本の修繕代。
紙の補充。
お茶の葉。
すべて、銅貨数枚の積み重ねで、十分に賄えていた。
侍女が、報告を持ってくる。
「……本の傷みですが、思ったより少ないです」
「そうでしょうね」
「皆さま、とても丁寧に扱っていらっしゃいます」
アルフェッタは、当然だという顔で頷いた。
「自分で払った場所ですもの」
無料で与えられたものより、
少しでも対価を払ったもののほうが、人は大切にする。
それは、前世でも、この世界でも変わらない。
夕方、別の客が尋ねてきた。
「……この料金、何に使われるんですか?」
「本の修繕と、お茶代ですわ」
「……それだけ?」
「それだけです」
客は、不思議そうに首をかしげる。
「儲けは……?」
アルフェッタは、あっさり答えた。
「いりませんわ。
これは、私の趣味ですもの」
その言葉に、客は笑った。
「……貴族の趣味って、すごいですね」
「ええ。
公爵令嬢の趣味としては、むしろ安上がりでしょう?」
その日の閉店後。
アルフェッタは、料金箱を確認する。
銅貨が、きれいに並んでいる。
(十分ですわね)
黒字か赤字かではない。
続けられるかどうか。
そして――
続けたいかどうか。
異世界転生生活二十一日目。
アルフェッタは今日も、世界を変えてはいない。
けれど確かに――
人が、安心して居場所を選べる理由を、一つ増やしていた。
マンガ喫茶が開いて三日目。
大きな変化はない。けれど、小さな変化は、確実に積み重なっていた。
午前中は静かだ。
昼過ぎから、ぽつり、ぽつりと人が来る。
庭仕事の合間の使用人。
買い物帰りの近隣の子ども。
仕事を終えた職人の見習い。
誰もが同じように、扉の前で一度立ち止まり、
中をうかがい、それから恐る恐る入ってくる。
そして、必ず最初に視線を向けるのが――
入口の横に掲げられた、小さな札だった。
――利用料:銅貨三枚
それを見て、ほっとした顔をする者がいる。
アルフェッタは、その表情を見るたび、内心で静かに頷いていた。
(やっぱり、そうですわよね)
無料、と書いてあったら。
きっと、もっと戸惑う。
「なぜ?」
「あとで何か言われるのでは?」
「自分が来ていい場所なのだろうか?」
人は、理由のない親切を、時に恐れる。
午後、常連になりつつある少年が、少しだけ不安そうな顔で声をかけてきた。
「……あの……」
「どうしました?」
「……これ、お金……
もっと、取ったほうがいいんじゃないですか?」
アルフェッタは、一瞬きょとんとし、それから微笑んだ。
「どうして?」
「だって……
本、いっぱいあるし……
お茶も……」
少年は言葉を探している。
アルフェッタは、椅子に腰掛けたまま、ゆっくり答えた。
「これは、入場料でも、知識料でもありませんの」
「……?」
「気兼ねなく使っていいですよ、という合図ですわ」
少年は、ますます分からないという顔をする。
アルフェッタは、少しだけ言葉を噛み砕いた。
「無料だとね、
“自分はここにいていいのか”って、ずっと考えてしまうでしょう?」
「……はい」
「でも、少しだけお金を払うと、
“使っていい権利”を買った気になりますの」
少年は、はっとしたように目を見開いた。
「……あ」
「遠慮しなくていい。
長居していい。
本を選ぶのに時間がかかってもいい」
アルフェッタは、穏やかに続ける。
「この銅貨三枚は、
そういう遠慮を、置いていくための料金ですわ」
少年は、しばらく考え込んだあと、深く頷いた。
「……なんか……
ここ、安心します」
その言葉に、アルフェッタは胸の奥が少し温かくなるのを感じた。
(ええ、それでいいですの)
利益は、ほとんど出ていない。
けれど、赤字でもない。
本の修繕代。
紙の補充。
お茶の葉。
すべて、銅貨数枚の積み重ねで、十分に賄えていた。
侍女が、報告を持ってくる。
「……本の傷みですが、思ったより少ないです」
「そうでしょうね」
「皆さま、とても丁寧に扱っていらっしゃいます」
アルフェッタは、当然だという顔で頷いた。
「自分で払った場所ですもの」
無料で与えられたものより、
少しでも対価を払ったもののほうが、人は大切にする。
それは、前世でも、この世界でも変わらない。
夕方、別の客が尋ねてきた。
「……この料金、何に使われるんですか?」
「本の修繕と、お茶代ですわ」
「……それだけ?」
「それだけです」
客は、不思議そうに首をかしげる。
「儲けは……?」
アルフェッタは、あっさり答えた。
「いりませんわ。
これは、私の趣味ですもの」
その言葉に、客は笑った。
「……貴族の趣味って、すごいですね」
「ええ。
公爵令嬢の趣味としては、むしろ安上がりでしょう?」
その日の閉店後。
アルフェッタは、料金箱を確認する。
銅貨が、きれいに並んでいる。
(十分ですわね)
黒字か赤字かではない。
続けられるかどうか。
そして――
続けたいかどうか。
異世界転生生活二十一日目。
アルフェッタは今日も、世界を変えてはいない。
けれど確かに――
人が、安心して居場所を選べる理由を、一つ増やしていた。
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