21 / 40
第21話 次の仕事?――いいえ、選別ですわ
しおりを挟む
第21話 次の仕事?――いいえ、選別ですわ
朝のサロンは、いつもより書簡が多かった。
封の色も、差出人の肩書きも、実に多彩だ。
――潮目が変わりましたわね。
婚約破棄からしばらく経ち、
「批判」は「様子見」に、
「様子見」は「接触」に変わっていた。
ルナ・ルクスは、無造作に積まれた書簡を一通ずつ確認する。
急ぎ。
重要。
不要。
その分類は、迷いなく進む。
内容はだいたい同じだ。
・共同事業の打診
・顧問就任の要請
・助言の依頼
・後援のお願い
――仕事が、戻ってきましたわ。
だが、以前とは意味が違う。
これは、
「使われる側」への要請ではない。
「使いたい側」からの接近だ。
午前、執事が慎重に口を開く。
「……どれか、お受けになりますか?」
ルナは、首を横に振った。
「いいえ。
これは仕事ではありません」
一拍置いて、はっきりと言う。
「選別ですわ」
すべてを受ければ、
再び“期待”に囲まれる。
境界線が曖昧になる。
責任だけが積み上がる。
だから、選ぶ。
午後、ルナは三通だけを机に残した。
共通点は明確だ。
・契約条件が明文化されている
・責任範囲が限定されている
・途中解約条項がある
――学習した相手ですわね。
その中の一つは、地方都市の商業組合からだった。
内容は簡潔。
『一定期間、助言を求めたい。
実行責任は、当方が負う。
成果が出なければ、契約終了』
ルナは、満足そうにうなずいた。
「よろしいですわ」
これは、
“期待”ではなく、
“契約”だ。
夕方、短い面談が行われた。
相手は、疲れた顔をしているが、目は澄んでいる。
「正直に申し上げます。
王都のやり方では、
現場が回らなくなりました」
ルナは、相槌を打つだけだ。
「だから、
“何もしないで回している”
あなたに話を聞きたい」
その表現に、ルナは少しだけ微笑んだ。
「勘違いなさらないで。
私は、何もしないのではありません」
一拍。
「余計なことを、しないだけですわ」
面談は短く終わった。
条件は明確。
責任は相手側。
ルナは、助言するだけ。
実行しない。
矢面に立たない。
――理想的ですわ。
夜、書斎で一人、ルナはノートを開く。
・依頼は全受けしない
・契約なき善意は拒否
・責任の所在を曖昧にしない
前世では、
この三つを守れなかった。
だから、燃え尽きた。
窓の外では、静かに街の灯りが揺れている。
活気はあるが、騒がしくない。
ルナは、確信していた。
これから増えるのは、
仕事の量ではない。
選択肢の質だ。
働くかどうかではない。
どの仕事を、
どの条件で、
引き受けるか。
それを選べる立場に、
彼女は、ようやく立った。
そして、心の中で静かに呟く。
――次の仕事?
カップを置き、微笑む。
「いいえ。
私がするのは、
選別だけですわ」
それこそが、
働かない公爵令嬢ルナ・ルクスにとって、
最も重く、
最も短時間で済む、
唯一の“仕事”だった。
朝のサロンは、いつもより書簡が多かった。
封の色も、差出人の肩書きも、実に多彩だ。
――潮目が変わりましたわね。
婚約破棄からしばらく経ち、
「批判」は「様子見」に、
「様子見」は「接触」に変わっていた。
ルナ・ルクスは、無造作に積まれた書簡を一通ずつ確認する。
急ぎ。
重要。
不要。
その分類は、迷いなく進む。
内容はだいたい同じだ。
・共同事業の打診
・顧問就任の要請
・助言の依頼
・後援のお願い
――仕事が、戻ってきましたわ。
だが、以前とは意味が違う。
これは、
「使われる側」への要請ではない。
「使いたい側」からの接近だ。
午前、執事が慎重に口を開く。
「……どれか、お受けになりますか?」
ルナは、首を横に振った。
「いいえ。
これは仕事ではありません」
一拍置いて、はっきりと言う。
「選別ですわ」
すべてを受ければ、
再び“期待”に囲まれる。
境界線が曖昧になる。
責任だけが積み上がる。
だから、選ぶ。
午後、ルナは三通だけを机に残した。
共通点は明確だ。
・契約条件が明文化されている
・責任範囲が限定されている
・途中解約条項がある
――学習した相手ですわね。
その中の一つは、地方都市の商業組合からだった。
内容は簡潔。
『一定期間、助言を求めたい。
実行責任は、当方が負う。
成果が出なければ、契約終了』
ルナは、満足そうにうなずいた。
「よろしいですわ」
これは、
“期待”ではなく、
“契約”だ。
夕方、短い面談が行われた。
相手は、疲れた顔をしているが、目は澄んでいる。
「正直に申し上げます。
王都のやり方では、
現場が回らなくなりました」
ルナは、相槌を打つだけだ。
「だから、
“何もしないで回している”
あなたに話を聞きたい」
その表現に、ルナは少しだけ微笑んだ。
「勘違いなさらないで。
私は、何もしないのではありません」
一拍。
「余計なことを、しないだけですわ」
面談は短く終わった。
条件は明確。
責任は相手側。
ルナは、助言するだけ。
実行しない。
矢面に立たない。
――理想的ですわ。
夜、書斎で一人、ルナはノートを開く。
・依頼は全受けしない
・契約なき善意は拒否
・責任の所在を曖昧にしない
前世では、
この三つを守れなかった。
だから、燃え尽きた。
窓の外では、静かに街の灯りが揺れている。
活気はあるが、騒がしくない。
ルナは、確信していた。
これから増えるのは、
仕事の量ではない。
選択肢の質だ。
働くかどうかではない。
どの仕事を、
どの条件で、
引き受けるか。
それを選べる立場に、
彼女は、ようやく立った。
そして、心の中で静かに呟く。
――次の仕事?
カップを置き、微笑む。
「いいえ。
私がするのは、
選別だけですわ」
それこそが、
働かない公爵令嬢ルナ・ルクスにとって、
最も重く、
最も短時間で済む、
唯一の“仕事”だった。
0
あなたにおすすめの小説
俺の妻になれと言われたので秒でお断りしてみた
ましろ
恋愛
「俺の妻になれ」
「嫌ですけど」
何かしら、今の台詞は。
思わず脊髄反射的にお断りしてしまいました。
ちなみに『俺』とは皇太子殿下で私は伯爵令嬢。立派に不敬罪なのかもしれません。
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻R-15は保険です。
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる