婚約破棄されました(効率の悪い労働でした) ― 働いてない? 舞踏会は、充分重労働ですわ! ―

ふわふわ

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第26話 働いていない女は、管理できないそうですわ

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第26話 働いていない女は、管理できないそうですわ

 王都からの空気が、また一段階変わった。
 怒りでも、非難でもない。

 困惑だ。

 朝の報告を聞きながら、ルナ・ルクスは小さく首を傾げた。

「“ルクス公爵令嬢は、何を基準に動いているのか分からない”
 という声が、増えております」

 執事は淡々と読み上げるが、その内容は興味深い。

「命令に従わない。
 反対もしない。
 だが、結果は出ている……と」

 ルナは、紅茶を口に含み、少しだけ考えた。

「つまり」

 カップを置き、静かに言う。

「管理できない、ということですわね」

 執事は、否定しなかった。

 人は、
 理解できないものより、
 管理できないものを恐れる。

 午前中、王都のある官僚が、こんな発言をしたと報告が入る。

「彼女は、働いていない。
 だから、責任の所在が不明なのだ」

 ルナは、その言葉を聞き、思わず笑った。

「逆ですわ」

 働いていないから、
 責任の所在が明確なのだ。

 彼女は、
 命令していない。
 承認していない。
 介入していない。

 だから、
 他人の失敗を背負う必要がない。

 ――これほど、分かりやすい話はありませんのに。

 午後、非公式な会合が王都で開かれた。
 議題は、ただ一つ。

 「ルクス公爵令嬢を、どう扱うか」

 報告を受けたルナは、
 特に驚かなかった。

「扱う、ですか」

 言葉の選び方が、すでに答えだ。

 彼らは、
 協力してほしいのではない。
 理解したいのでもない。

 枠にはめたいのだ。

 役職。
 責任。
 義務。

 どれかを与えれば、
 管理できる。

 執事が、慎重に尋ねる。

「……何か、手を打たれますか?」

 ルナは、即座に首を横に振った。

「いいえ」

 そして、静かに付け加える。

「何もしないことが、
 最も彼らを混乱させますわ」

 前に出れば、叩ける。
 役職に就けば、縛れる。
 声明を出せば、揚げ足を取れる。

 だが、
 何もしていない者は、
 どこにも固定できない。

 夕方、ルナは庭園を歩く。
 噴水の音は、いつも通り。
 庭師は、黙々と手を動かしている。

 誰も、
 彼女に指示を求めない。

 それでいい。

 ――管理とは、
 必要なものを、
 必要なだけ整えること。

 それ以上は、
 支配ですわ。

 夜、書斎でノートを開く。

 ・管理されない
 ・枠に入らない
 ・役割を持たない

 それは、
 この社会では“危険”と見なされる。

 だが実際には、
 最も安全な立場だ。

 王都では、
 役職を持つ者から順に、
 責任を押し付けられ、
 失敗の矢面に立たされている。

 一方、ルナは違う。

 彼女は、
 自分の領地だけを回し、
 自分の判断だけに責任を持つ。

 それ以上でも、
 それ以下でもない。

 ――働いていない女は、
 管理できない。

 そうでしょうね、とルナは思う。

 なぜなら。

 管理されるために働いていないのですもの。

 誰の指示も受けず、
 誰にも命令せず、
 それでも世界が回るなら――

 その時、
 本当に不要なのは、
 どちらなのか。

 ルナ・ルクスは、
 静かに紅茶を飲み干した。

 王都が答えに辿り着くまで、
 彼女は、何もしない。

 それが、
 最も効率的で、
 最も自由な、
 働かないという選択だった。
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