婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました ―平民がダメ?なら侯爵令嬢にしますが、だから何?―

ふわふわ

文字の大きさ
9 / 39

第9話 そうだ、ウィットンに力を借りよう

しおりを挟む
第9話 そうだ、ウィットンに力を借りよう

 

 王宮の庭での“しゃがみ会議”から、半日。

 私は自室のソファに転がりながら、天井を見上げていた。
 頭の中では、さっきの会話が何度も再生されている。

「身分の話が問題なら、身分を用意すればいい」

 口に出したときは軽かったけど、案としてはかなり現実的だ。
 貴族社会は、感情より形式。
 逆に言えば、形式さえ整えば、反対理由は消える。

「……誰に頼むか、だよね」

 そこで、思い浮かぶ顔は一つしかなかった。

 若くして侯爵位を継ぎ、
 王宮の裏事情にも明るく、
 何より――面倒ごとを“面白い”で片づける男。

 タイガー・ウィットン侯爵。

 数時間後、私は王太子ステルヴィオに呼び出された。
 場所は、王宮の外れにある控えめな応接室。
 公式でも非公式でもない、微妙な立ち位置の部屋だ。

「……で?」

 私は椅子に腰掛けるなり、聞いた。

「考えた?」

 ステルヴィオは、少し疲れた顔で頷く。

「考えた。
 そして、同じ結論に至った」

 彼は、苦笑して続けた。

「ウィットンに相談するしかない」

「だよね」

 私は即答した。

「身分問題を“問題じゃなくする”なら、
 あいつ以上の適任はいない」

 ステルヴィオは、微妙な顔をする。

「……正直、
 国の将来を左右する話を、
 あんな男に持ち込むのはどうかと思う」

「大丈夫」

 私は、さらっと言った。

「ウィットン、仕事はちゃんとするから」

「それ、褒めてるのか?」

「一応」

 彼は小さく息を吐いた。

「で、具体案は?」

「簡単」

 私は指を一本立てる。

「平民の娘――マルベーリャを、
 ウィットン家の養女にする」

 ステルヴィオが、目を見開いた。

「……侯爵令嬢に仕立てる、ってことか」

「うん」

 私は頷く。

「平民じゃなきゃ、
 文句も言えないでしょ」

 彼は、しばらく黙り込んだ。

「それ……
 シャマルの悪知恵だよな」

「失礼な」

 私は眉をひそめる。

「事実を並べてるだけだよ。
 養女縁組は合法。
 身分は正式に上がる。
 嘘は一つもない」

「……確かに」

 ステルヴィオは、頭を押さえた。

「でも、それを国王が黙って見ているか?」

「見てるしかない」

 私は肩をすくめた。

「反対理由が“平民だから”しかないんだもん。
 それが消えたら、
 あとは感情論になる」

「……」

「感情論で押し切ったら、
 今度こそ王家の威信が傷つく」

 そこまで言って、私は一拍置いた。

「実行するのは、殿下ね。
 自己責任で、よろ~」

 ステルヴィオが、思わず吹き出す。

「……完全に、君に毒されてる気がする」

「今さらでしょ」

 私は立ち上がり、背伸びをした。

「とにかく、
 話を持ち込むだけ持ち込んでみて」

「ウィットンがどう出るかは、
 あいつ次第だけど」

「大丈夫」

 私は自信ありげに言った。

「“面白そう”って言われた時点で、
 もう半分成功だから」

 数日後。
 王都の一角にあるウィットン侯爵邸へ向かう馬車の中で、
 私は窓の外を眺めながら思う。

 国王と父が、
 “正論”で私を縛ろうとするなら。

 こちらは、“形式”で切り返すだけ。

「……はやく、きっちり片づけてほしいな」

 小さく呟く。

「でないと、
 安定したサブスク生活が手に入らない」

 聖女の未来と、
 国の体面と、
 私の生活。

 その全部を天秤にかける作戦が、
 いま、動き出そうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

あなたが捨てた花冠と后の愛

小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。 順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。 そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。 リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。 そのためにリリィが取った行動とは何なのか。 リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。 2人の未来はいかに···

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

私を追い出したければどうぞご自由に

睡蓮
恋愛
伯爵としての立場を有しているグルームは、自身の婚約者として同じく貴族令嬢であるメレーナの事を迎え入れた。しかし、グルームはその関係を築いていながらソフィアという女性に夢中になってしまい、メレーナに適当な理由を突き付けてその婚約を破棄してしまう。自分は貴族の中でも高い地位を持っているため、誰も自分に逆らうことはできない。これで自分の計画通りになったと言うグルームであったが、メレーナの後ろには貴族会の統括であるカサルがおり、二人は実の親子のような深い絆で結ばれているという事に気づかなかった。本気を出したカサルの前にグルームは一方的に立場を失っていくこととなり、婚約破棄を後悔した時にはすべてが手遅れなのだった…。

「婚約破棄だ」と笑った元婚約者、今さら跪いても遅いですわ

ゆっこ
恋愛
 その日、私は王宮の大広間で、堂々たる声で婚約破棄を宣言された。 「リディア=フォルステイル。お前との婚約は――今日をもって破棄する!」  声の主は、よりにもよって私の婚約者であるはずの王太子・エルネスト。  いつもは威厳ある声音の彼が、今日に限って妙に勝ち誇った笑みを浮かべている。  けれど――。 (……ふふ。そう来ましたのね)  私は笑みすら浮かべず、王太子をただ静かに見つめ返した。  大広間の視線が一斉に私へと向けられる。  王族、貴族、外交客……さまざまな人々が、まるで処刑でも始まるかのように期待の眼差しを向けている。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

処理中です...