『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA

文字の大きさ
24 / 257

第二十四話 異常な囲繞

しおりを挟む
 家々の屋根から太陽が顔をのぞかせ、人々が起床する時間に私はダンジョンへ向かう。

 今日も今日とてダンジョン探索、貧乏ヒモ暮らしとはまさにこのこと。
 ポケットの中には千円、これではネットカフェと言えど、最低レベルの部屋にすら泊まることが出来ない。
 果たして昨日十万すべて置いてきたのは失敗ではなかったかと、己の悪魔が囁く。いや、あれは親切にしてくれた穂谷さんへの感謝もあるのだと、天使と共に悪魔をフルスイング。

 さて、せっかく彼女から服をもらったとはいえ、今の服装は相変わらずボロ切れだ。
 お古と言われて最初こそ気が引けていたが、貰ってみればどれも新品の様に綺麗でかわいい服ばかり。
 そんなのをダンジョンに着て行き即ボロボロにするのは気が引けるし、折角ならいつかお金に余裕が出来た時、休みの日に着たいものである。

 しかし流石にボロボロ過ぎて、警察に見られたら虐待か何かと勘違いされてしまう。
 そこで私が思いついたのが……



「らっしゃーせー」
「これください」
「まいだりー」

 ちゃららっちゃらー
 フォリアは 黒のTシャツを 手に入れた!
 お金を600円失った!

 昨日ファミリーマッチョに入った時気が付いたのだが、なんとコンビニにはTシャツまで売っているらしい。
 どれも男物でSサイズでもだぼだぼではあるが、着る分には何の支障もないだろう。
 すごいぞコンビニ、なんでもあるな。

 そのままトイレを借りてぼろ切れを脱ぎ、さくっと着替える。
 コットン100%と書いてあるだけあって肌触りも柔らかく、ダンジョンで汗をかいてもしっかり吸ってくれそうだ。
 脱いだ服はこのまま捨ててしまうとコンビニの人に迷惑がかかるだろうし、リュックの奥へしまい込んでおく。
 『活人剣』で回復しきれない怪我をしたとき、これを包帯代わりに抑えるだけでも全然違うと思う。

 細々したお金はあれどおおよそ残り四百円、丁度『麗しの湿地』を行き来できる金額だ。
 新しい服を着ると気分がいい、今日も一日頑張ろう。



 朝食である希望の実をゴリゴリかみ砕きつつ、相変わらずピンク一色の湿地へ足を踏み入れる。
 もはや手慣れたもので、粘液を受けては顔の横をつつき、ナメクジたちを魔石へと変換していく。

 このまま奥に潜ってしまうのも手ではあるが、想像以上に敵のレベル上昇が激しい。
 個体によって多少上下するとはいえ、アシッドスラッグたちの平均レベルは15。
 一方で昨日出会ったパラライズ・ドラゴンフライはなんと37、このダンジョンの推奨レベル上限が50だったことを考えると、大量に倒すことはなかなか難しい。
 最低限の魔石は回収しておいて、たとえ奥で何も倒せなかったとしても稼ぎが出るようにしておく必要があった。

「32、33……37かな。よし」

 キラキラ輝く魔石たちを拾ってはビニールに詰めてから、リュックの中にしまう。
 既にナメクジと私のレベル差は26、『スキル累乗』をかけてからいくら倒してもレベルが上がる気配はない。
 しかしこれくらいあれば数日分の宿泊代にはなる。

「さて……いくか」

 カリバーに纏わりついた粘液は、強力な武器になるのであえて落とさない。

 歩みを進めて行けば、周囲にはあの巨大な蓮たちが乱立し始めた。
 戦っているうちにわかったことだが、このピンクの沼は色こそヤバいが、特に毒などもなさそうだった。

 ……蓮って確か根っこも、種も食べれたよね。
 いや、蓮根は地下茎だっけ? まあいいや。

 綺麗な花を見ていると湧いてくるのが、あくなき食欲。
 葉っぱは流石にざらざらとして固そうだが、もしかしてこの茎も表の皮をむけば食べられないだろうか。
 毒があるかもしれないが、即死でなければどうとでもなるし、最悪ゆでこぼせばある程度毒も抜けるだろう。
 ぜひともチャレンジしたい。

「むっ」

 そんなことをつらつら考えていたのだが、ふと目の前の葉が揺れ意識を向ける。
 トンボだ。昨日のあいつそっくりなのが葉の上にとまり、じっとこちらを見つめていた。

 やはり羽音もなく忍び寄っている。
 気を付けなければ、もし首をあの鋭い翅で切り裂かれたり、食い千切られてしまえば一巻の終わり。
 カリバーを正面に構え、周りにもほかの敵がいないかゆっくり見まわす。

 残念ながら、やはりいた。

 一、二……三匹!?

 気を抜き過ぎたか、いつの間にこんな集まっていたのか。
 どいつも蓮の葉に止まり、興味ないですよといった雰囲気をまとわせつつ、しかし私が動けばしっかりとその複眼で追っている。
 ギリギリだった。きっと後一分でも気を抜いていたら、私は殺されていた。

 まさかこいつら、普段は群れで行動してるのか……!?

 あれだけ苦戦した相手なのに、さらにそれが複数来るだなんて冗談じゃない。
 幸いにして昨日拾ったいくつかの小石、そして今のところ傷一つないのが唯一の救いだ。

「……っ」

 フォンッ

 あまりに微かな音。
 気を抜いていれば耳にも入らない音を立て、背後にいた一匹が飛び立つ。

 振り向きざまに一閃、が、当たらない。
 そもそもこちらへ飛んできていない……!?

 首元をひやりと冷たい一陣の風が撫でた。
 いる、後ろに。

「『ステップ』! 『ストライク』!」

 屈んであえて後ろへステップ、直後に私がいた前と横から、二匹のトンボが交差するように飛び込んだ。
 私の後ろにいたトンボはまさか突っ込んでくるとは思わなかったようで、急浮上。
 ツンとむけられた尻へかち上げストライクを叩き込まれ、無様に地面へと転がった。

 そのまま放置しても酸で死ぬだろうが、前回の様に道連れ狙いで特攻されてはかなわない。
 複眼の中心、脳みそがあると思われる場所へカリバーを振り下ろし、ぴくぴくと痙攣を始めたのを確認してから離脱。
 直後に消滅したそいつから経験値が流れ、『経験値上昇』に『スキル累乗』をつけたままであったのもあり、レベルが2上昇した。

 死角からの見せかけな攻撃、そして背後へ現れてからの二重誘導。
 本当に頭いいなこいつら、私より絶対頭いい。

 仲間があっさりやられたことで、私の認識が『獲物』から『敵』へと変わったらしい。
 蓮の葉の上に逃げ、ぐりぐりと首を傾げこちらを観察している。
 昨日のあいつは今の一匹の様にあっさりとは倒せなかった、これから本番というわけだ。

 緊張で額から垂れた汗をぬぐい、二匹を睨みつける。

 かかって来い、トンボどもめ。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

処理中です...