『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA

文字の大きさ
79 / 257

第七十九話

しおりを挟む
 警察にあるまじき巻かれた髪型、変な口調、確か名前もすごい変わっていたはず。
 この人は確か……確か……

「あ、あじたまさん……?」
安心院あじむですわ」
「あ、安心院さん……」
「ええ、もう大丈夫ですわ。いったん入り口まで撤退して……」

 そうなにかあれこれと話す安心院さん。
 それと確かもう一人の男性は彼女の先輩だったか、二人はまるで私を救出しに来たかのような態度。
 なんでこの二人が、ダンジョンの中に……?
 
 悪寒が走った。

 まさか、既に街にまでモンスターが流出して……!?
 ダンジョン内の異変に気付くには、それくらい起こる必要がある。もっと早く気付けるのなら山間部の村が崩壊だとか、大騒動になるわけがないのだから。
 私が考えていたタイムリミットなんてあくまで予測で、実際にどうなるかなんて分からない。
 早く起こったってなんもおかしくはなく、それが現実に起こってしまったのだとしたら……

「おい安心院! くっちゃべってる余裕あるならっ、手伝ってくれねえかなぁ!?」
「あっ、はい! フォリアちゃんはちょっと下がっててくださいまし」
「私も戦える」

 分からない、情報が少なすぎる。
 けれど少なくとも今はここから離脱して、二人から話を聞かないと。私がやらないと……

 考えは前へ前へ動こうとしているのに、膝は震えるし、視界はぐにぐにとねじ曲がって定まらない。

 くそっ。
 さっきまで上手くごまかせていたのに。

「手先の震え、発汗……多分低血糖と極度の疲労ですわね、そこに座ってこれを食べておきなさい。お茶と白虎屋の羊羹ですわ」
「戦える、私は……やらないと……」
「あのねぇ、そんな体で横に居られても危険ですの! 第一子供は大人に甘えなさい! はい座って! 食え!」
「ふもっ」

 ぐっと肩を押さえつけられ地面に足が触れた瞬間、わずかに残っていた立とうという気力や力が完全に霧散して、ぺったりと尻が地面に付いた。

 手元には彼女がアイテムボックスから取り出した一口サイズの羊羹。
 押せば包装からつるつるとした黒いそれがにゅるりと出てきて、小豆独特のにおいが鼻をくすぐる。

 甘い。

 落ちていた希望の実ばかり食べていた舌に、羊羹のどこまでも純粋な甘みが突き刺さった。



「伊達さん、今行きますわ!」
「ああ、一気に終わらせる。20秒稼げ」
「ええ!? ……もうっ、『風神将来』、チェストォッ!」

 伊達の無茶ぶりに抗議する時間も惜しいと、風を纏った拳で殴り掛かる安心院。
 彼女に時間稼ぎをさせていったい何をするのかと思えば、彼はなにやら武器の分解を始めたのだから理解できない。
 しかしこれでも一応ある程度は信頼した相手、まずは目の前の敵に専念することとした。

 時間にして三十分ほど、無事件の少女を確保した安心院は安堵に胸をなでおろし、しかしその状況に危機感を抱いている。

 ダンジョンの大きな変化は崩壊寸前の予兆。
 どの指南書にも必ず書いてある、もはや常識とはなっている知識。
 普段赤く燃える木々が、今では真っ蒼な炎をめらめらと上げているのだから、一刻も早くここから逃げ出したいのは人としての心理だろう。
 しかしそれよりも気になるのは、彼女の全身にへばりついた泥や、『戦える』と食いついてきたこと。

 まさか、さっきまで一人で戦って生き残っていた……?

――――――――――――――――

種族 コロッサル・ストーチ
名前 セーラ
LV 13700
HP 38320 MP 13221
物攻 27567 魔攻 19022
耐久 49085 俊敏 83721
知力 8343 運 11

――――――――――――――――

 この巨大な化け物相手に……?
 あり得ませんわ、D級ダンジョンに居ていい敵じゃありませんもの。

 最初安心院が一人飛び出して来たのだって、D級にまだ馴染み切っていないはずの彼女がまともに生き残れるわけがないからこそ。
 たとえ崩壊前のボスに食いつけるほどレベルを上げていたとして、いくらレベルが全てではないとはいえ、それですら仮定を多く含んだ非現実的な話だ。

 一体彼女はどうやって、もしそれが有用なスキルなら手の内に囲い込むのも……
 いや、まだあまり話したことはないが、そういったことを好むような子ではなさそうですわね。
 

「『跳躍』ッ、セアッ!」

 光を纏った弾丸となって空に舞い上がり、巨鳥の頭を捉える。
 
 小さな人間が巨大なモンスターに立ち向かうとき、狙うべきは目やつま先などの弱点。
 セオリー通りのその攻撃はやはり確実であり、バスケットボール大の巨大な瞳に彼女の拳が突き刺さると奔流した風が一瞬で中へ注ぎ込まれ、透明なゼリー状の何かがはじけ飛ぶ……そしてまさしく目の前にいた安心院の全身へ降り注いだ。

「ほぉぉぉ……!」

『ギョォォォォォォォォッ!!』

 ねっとりとした粘液に絡みつかれ、何とも言えない残念な気持ちのまま地面へ降り立つ。
 モンスター本体が消滅すれば消えるのだが、たとえそうだとしても気持ちのいいものではない。
 なんだか匂いとか残ってそうな気分になるし。

 片目を吹き飛ばされた巨鳥が大声で喚き上げ、その主犯である安心院をぎょろりと睥睨した。

 早くお風呂に入りたいですわ……

 彼女を追い詰めるようにゆっくりと、しかしその巨躯故激しい振動と轟音をばら蒔き歩み寄るモンスター達。
 次の一手を考えていた彼女へ男の声が届く。

「すまん、ちょっと待たせた!」
「先輩、待たせる男は嫌われますのよ?」

 悪態を吐き跳躍すると、男の、そして座り込んだ少女の元へ戻る。

「馬鹿、ヒーローは遅れてくるんだよ」

 男はニヒルに笑い、カチリと引き金を引いた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

処理中です...