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第七十九話
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警察にあるまじき巻かれた髪型、変な口調、確か名前もすごい変わっていたはず。
この人は確か……確か……
「あ、あじたまさん……?」
「安心院ですわ」
「あ、安心院さん……」
「ええ、もう大丈夫ですわ。いったん入り口まで撤退して……」
そうなにかあれこれと話す安心院さん。
それと確かもう一人の男性は彼女の先輩だったか、二人はまるで私を救出しに来たかのような態度。
なんでこの二人が、ダンジョンの中に……?
悪寒が走った。
まさか、既に街にまでモンスターが流出して……!?
ダンジョン内の異変に気付くには、それくらい起こる必要がある。もっと早く気付けるのなら山間部の村が崩壊だとか、大騒動になるわけがないのだから。
私が考えていたタイムリミットなんてあくまで予測で、実際にどうなるかなんて分からない。
早く起こったってなんもおかしくはなく、それが現実に起こってしまったのだとしたら……
「おい安心院! くっちゃべってる余裕あるならっ、手伝ってくれねえかなぁ!?」
「あっ、はい! フォリアちゃんはちょっと下がっててくださいまし」
「私も戦える」
分からない、情報が少なすぎる。
けれど少なくとも今はここから離脱して、二人から話を聞かないと。私がやらないと……
考えは前へ前へ動こうとしているのに、膝は震えるし、視界はぐにぐにとねじ曲がって定まらない。
くそっ。
さっきまで上手くごまかせていたのに。
「手先の震え、発汗……多分低血糖と極度の疲労ですわね、そこに座ってこれを食べておきなさい。お茶と白虎屋の羊羹ですわ」
「戦える、私は……やらないと……」
「あのねぇ、そんな体で横に居られても危険ですの! 第一子供は大人に甘えなさい! はい座って! 食え!」
「ふもっ」
ぐっと肩を押さえつけられ地面に足が触れた瞬間、わずかに残っていた立とうという気力や力が完全に霧散して、ぺったりと尻が地面に付いた。
手元には彼女がアイテムボックスから取り出した一口サイズの羊羹。
押せば包装からつるつるとした黒いそれがにゅるりと出てきて、小豆独特のにおいが鼻をくすぐる。
甘い。
落ちていた希望の実ばかり食べていた舌に、羊羹のどこまでも純粋な甘みが突き刺さった。
◇
「伊達さん、今行きますわ!」
「ああ、一気に終わらせる。20秒稼げ」
「ええ!? ……もうっ、『風神将来』、チェストォッ!」
伊達の無茶ぶりに抗議する時間も惜しいと、風を纏った拳で殴り掛かる安心院。
彼女に時間稼ぎをさせていったい何をするのかと思えば、彼はなにやら武器の分解を始めたのだから理解できない。
しかしこれでも一応ある程度は信頼した相手、まずは目の前の敵に専念することとした。
時間にして三十分ほど、無事件の少女を確保した安心院は安堵に胸をなでおろし、しかしその状況に危機感を抱いている。
ダンジョンの大きな変化は崩壊寸前の予兆。
どの指南書にも必ず書いてある、もはや常識とはなっている知識。
普段赤く燃える木々が、今では真っ蒼な炎をめらめらと上げているのだから、一刻も早くここから逃げ出したいのは人としての心理だろう。
しかしそれよりも気になるのは、彼女の全身にへばりついた泥や、『戦える』と食いついてきたこと。
まさか、さっきまで一人で戦って生き残っていた……?
――――――――――――――――
種族 コロッサル・ストーチ
名前 セーラ
LV 13700
HP 38320 MP 13221
物攻 27567 魔攻 19022
耐久 49085 俊敏 83721
知力 8343 運 11
――――――――――――――――
この巨大な化け物相手に……?
あり得ませんわ、D級ダンジョンに居ていい敵じゃありませんもの。
最初安心院が一人飛び出して来たのだって、D級にまだ馴染み切っていないはずの彼女がまともに生き残れるわけがないからこそ。
たとえ崩壊前のボスに食いつけるほどレベルを上げていたとして、いくらレベルが全てではないとはいえ、それですら仮定を多く含んだ非現実的な話だ。
一体彼女はどうやって、もしそれが有用なスキルなら手の内に囲い込むのも……
いや、まだあまり話したことはないが、そういったことを好むような子ではなさそうですわね。
「『跳躍』ッ、セアッ!」
光を纏った弾丸となって空に舞い上がり、巨鳥の頭を捉える。
小さな人間が巨大なモンスターに立ち向かうとき、狙うべきは目やつま先などの弱点。
セオリー通りのその攻撃はやはり確実であり、バスケットボール大の巨大な瞳に彼女の拳が突き刺さると奔流した風が一瞬で中へ注ぎ込まれ、透明なゼリー状の何かがはじけ飛ぶ……そして正しく目の前にいた安心院の全身へ降り注いだ。
「ほぉぉぉ……!」
『ギョォォォォォォォォッ!!』
ねっとりとした粘液に絡みつかれ、何とも言えない残念な気持ちのまま地面へ降り立つ。
モンスター本体が消滅すれば消えるのだが、たとえそうだとしても気持ちのいいものではない。
なんだか匂いとか残ってそうな気分になるし。
片目を吹き飛ばされた巨鳥が大声で喚き上げ、その主犯である安心院をぎょろりと睥睨した。
早くお風呂に入りたいですわ……
彼女を追い詰めるようにゆっくりと、しかしその巨躯故激しい振動と轟音をばら蒔き歩み寄るモンスター達。
次の一手を考えていた彼女へ男の声が届く。
「すまん、ちょっと待たせた!」
「先輩、待たせる男は嫌われますのよ?」
悪態を吐き跳躍すると、男の、そして座り込んだ少女の元へ戻る。
「馬鹿、ヒーローは遅れてくるんだよ」
男はニヒルに笑い、カチリと引き金を引いた。
この人は確か……確か……
「あ、あじたまさん……?」
「安心院ですわ」
「あ、安心院さん……」
「ええ、もう大丈夫ですわ。いったん入り口まで撤退して……」
そうなにかあれこれと話す安心院さん。
それと確かもう一人の男性は彼女の先輩だったか、二人はまるで私を救出しに来たかのような態度。
なんでこの二人が、ダンジョンの中に……?
悪寒が走った。
まさか、既に街にまでモンスターが流出して……!?
ダンジョン内の異変に気付くには、それくらい起こる必要がある。もっと早く気付けるのなら山間部の村が崩壊だとか、大騒動になるわけがないのだから。
私が考えていたタイムリミットなんてあくまで予測で、実際にどうなるかなんて分からない。
早く起こったってなんもおかしくはなく、それが現実に起こってしまったのだとしたら……
「おい安心院! くっちゃべってる余裕あるならっ、手伝ってくれねえかなぁ!?」
「あっ、はい! フォリアちゃんはちょっと下がっててくださいまし」
「私も戦える」
分からない、情報が少なすぎる。
けれど少なくとも今はここから離脱して、二人から話を聞かないと。私がやらないと……
考えは前へ前へ動こうとしているのに、膝は震えるし、視界はぐにぐにとねじ曲がって定まらない。
くそっ。
さっきまで上手くごまかせていたのに。
「手先の震え、発汗……多分低血糖と極度の疲労ですわね、そこに座ってこれを食べておきなさい。お茶と白虎屋の羊羹ですわ」
「戦える、私は……やらないと……」
「あのねぇ、そんな体で横に居られても危険ですの! 第一子供は大人に甘えなさい! はい座って! 食え!」
「ふもっ」
ぐっと肩を押さえつけられ地面に足が触れた瞬間、わずかに残っていた立とうという気力や力が完全に霧散して、ぺったりと尻が地面に付いた。
手元には彼女がアイテムボックスから取り出した一口サイズの羊羹。
押せば包装からつるつるとした黒いそれがにゅるりと出てきて、小豆独特のにおいが鼻をくすぐる。
甘い。
落ちていた希望の実ばかり食べていた舌に、羊羹のどこまでも純粋な甘みが突き刺さった。
◇
「伊達さん、今行きますわ!」
「ああ、一気に終わらせる。20秒稼げ」
「ええ!? ……もうっ、『風神将来』、チェストォッ!」
伊達の無茶ぶりに抗議する時間も惜しいと、風を纏った拳で殴り掛かる安心院。
彼女に時間稼ぎをさせていったい何をするのかと思えば、彼はなにやら武器の分解を始めたのだから理解できない。
しかしこれでも一応ある程度は信頼した相手、まずは目の前の敵に専念することとした。
時間にして三十分ほど、無事件の少女を確保した安心院は安堵に胸をなでおろし、しかしその状況に危機感を抱いている。
ダンジョンの大きな変化は崩壊寸前の予兆。
どの指南書にも必ず書いてある、もはや常識とはなっている知識。
普段赤く燃える木々が、今では真っ蒼な炎をめらめらと上げているのだから、一刻も早くここから逃げ出したいのは人としての心理だろう。
しかしそれよりも気になるのは、彼女の全身にへばりついた泥や、『戦える』と食いついてきたこと。
まさか、さっきまで一人で戦って生き残っていた……?
――――――――――――――――
種族 コロッサル・ストーチ
名前 セーラ
LV 13700
HP 38320 MP 13221
物攻 27567 魔攻 19022
耐久 49085 俊敏 83721
知力 8343 運 11
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この巨大な化け物相手に……?
あり得ませんわ、D級ダンジョンに居ていい敵じゃありませんもの。
最初安心院が一人飛び出して来たのだって、D級にまだ馴染み切っていないはずの彼女がまともに生き残れるわけがないからこそ。
たとえ崩壊前のボスに食いつけるほどレベルを上げていたとして、いくらレベルが全てではないとはいえ、それですら仮定を多く含んだ非現実的な話だ。
一体彼女はどうやって、もしそれが有用なスキルなら手の内に囲い込むのも……
いや、まだあまり話したことはないが、そういったことを好むような子ではなさそうですわね。
「『跳躍』ッ、セアッ!」
光を纏った弾丸となって空に舞い上がり、巨鳥の頭を捉える。
小さな人間が巨大なモンスターに立ち向かうとき、狙うべきは目やつま先などの弱点。
セオリー通りのその攻撃はやはり確実であり、バスケットボール大の巨大な瞳に彼女の拳が突き刺さると奔流した風が一瞬で中へ注ぎ込まれ、透明なゼリー状の何かがはじけ飛ぶ……そして正しく目の前にいた安心院の全身へ降り注いだ。
「ほぉぉぉ……!」
『ギョォォォォォォォォッ!!』
ねっとりとした粘液に絡みつかれ、何とも言えない残念な気持ちのまま地面へ降り立つ。
モンスター本体が消滅すれば消えるのだが、たとえそうだとしても気持ちのいいものではない。
なんだか匂いとか残ってそうな気分になるし。
片目を吹き飛ばされた巨鳥が大声で喚き上げ、その主犯である安心院をぎょろりと睥睨した。
早くお風呂に入りたいですわ……
彼女を追い詰めるようにゆっくりと、しかしその巨躯故激しい振動と轟音をばら蒔き歩み寄るモンスター達。
次の一手を考えていた彼女へ男の声が届く。
「すまん、ちょっと待たせた!」
「先輩、待たせる男は嫌われますのよ?」
悪態を吐き跳躍すると、男の、そして座り込んだ少女の元へ戻る。
「馬鹿、ヒーローは遅れてくるんだよ」
男はニヒルに笑い、カチリと引き金を引いた。
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